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【本誌アーカイブ】長谷川祐子の「ハイパーサブジェクトアートレポート」 第八回 新しいエコロジー(vol.21)

長谷川祐子の「ハイパーサブジェクトアートレポート」
第八回 新しいエコロジー
2024年10月8日発行『ONBEAT vol.21』掲載

 

長谷川祐子

 

国内外のビエンナーレや美術館で数々の企画を手掛け成功に導いてきたキュレーターの長谷川祐子。連載第八回となる今回は、 長谷川本人に「新しいエコロジー」をテーマにインタビューを行い、彼女がキュレーションを手掛けた 「森の芸術祭 晴れの国岡山」と「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジ―」を拡大版で紹介する。  

 

「森の芸術祭 晴れの国・岡山」公式ポスター

 

森の芸術祭 晴れの国岡山

―長谷川さんが初めて国内の芸術祭のキュレーションを手掛けた「森の芸術祭晴れの国岡山」が、「森のエコロジーと新しい資本」をテーマに、岡山県の県北地域で今年の9月28日から開催されます(現在開催中、 11月24日まで)。 長谷川さんが近年「エコロジー」 を主要なテーマとして掲げるようになった理由をお聞かせください。

長谷川:アマゾンやアトランティック・フォレスト(大西洋沿岸森林)など、「地球の肺」 と呼ばれる熱帯雨林で森林伐採が進んでいることはよく知られていますが、私の場合は2000年頃からブラジルに行く機会が増え、リオに住んでいる友人から実際に話を聞いたりする中で、「熱帯雨林がなくなってしまっては地球が危ない」という実感を持つようになりました。また、エコロジーを考える上では、 科学人類学者で哲学者、「アクターネットワーク」 の提唱者でもあるブルーノ・ラトゥールとの出会いは、私にとって重要でした。 「アクターネットワーク」では、人間が主体でそれ以外が客体であるという考え方を捨て、川や空気といった人間以外の環境も全てアクターとして作用するエイジェンシーとして捉え、すべてに主体性を求めることによって世界の見方を変えています。 科学の失敗の歴史も、オルタナティブなストーリーとして考えるなど、大胆な発想の転換もしています。そんなブルーノとは、2016年にドイツのメディア美術館 「ZKM」 で行われた 「GLOBALE」 というノンウェスタン、主としてアジアの作家を集めた展覧会に、キュレーターとして招聘された際に出会いました。 私の手掛けた展示の隣で「Reset Modamity!」という展示を行っていたのがブルーノで、「君展示が上手だね、教えてくれない?」と言われ、あれこれ教えたのがきっかけで仲良くなりました。

翌2017年に、モスクワビエンナーレで「Clouds Forests」 というメインプロジェクト展のキュレーションを担当した際には、巨大な森(タイガ)の水が蒸散して上空に登り、また地上に降りていくという大気の循環も含め、シベリアからヨーロッパに至るまでの大きなスケールの自然環境をテーマにしました。参加アーティストたちはそのテーマに対してどういう表象やスタイルを持ち寄るのかを試み、シベリアのアーティストたちは、自分が住んでいる土地の自然破壊について作品化しました。2019年には、 研究者やアーティストがアマゾンに集まり2週間ほどセミナーやワークショップを行うアートプロジェクト「LABVERDE: Art Immersion Program in the Amazon」にチューターとして呼ばれ、熱帯雨林の環境問題をキュレーターとして展覧会でどう提示するかということに取り組みました。その際、このプロジェクトに参加するためにアマゾンまで来る意志を持ったアーティストたちは、 対象をきちんと観察して、それを解釈して作品にするという、アーティストに必要な資質をしっかり持っているということも実感しました。私にとっては、この「LABVERDE」もアマゾンに興味を持つことになった1つの契機ですが、もう一つ個人的な契機として、6年前の2018年に又甥が生まれたことがあります。 又甥の誕生以来、私は毎年甥の家族が住む沖縄を訪ねて彼の成長を見守っているのですが、又甥と一緒に沖縄の海岸で遊んだりして自然を観察する中で「この子の未来を考えなきゃ」 と、地球環境についてより一層深く考えるになったのです。往々にして物事というのは大義名分ではなく、こういう私的な理由から始まるものだと思います。

その後2022年には東京藝術大学大学美術館で、私の退任記念展としてアーティスト、研究者らと共にエコロジカルな芸術実践に光をあてる展覧会「新しいエコロジーとアート」展を開催しました。そこでは、岸に接近する津波の動きを津波の頂点からの視点でドローン撮影した小野寛志さんの作品《明日の津波》や、 ビーバーがった木材を元に制作した AKI INOMATA さんの作品《How to Carve the Sculpture》、フルーツに電極を刺してスピーカーで音を鳴らす毛利悠子さんの作品《Decomposition》などが出品されました。今にして思えば、日本に住んでいる若者たちがエコロジーをどう考えているかを多彩な言葉で表現した展覧会だったと思います。このように、さまざまな出会いや出来事、自分と関わりのある新しい命の誕生などが複層的に重なることで、私個人のエコロジーに対する関心が高まり、「新しいエコロジー」というテーマに収斂されていたのです。

―ブルーノ・ラトゥールの「アクターネットワーク」のような概念を、日本から発信することができれば、とても有意義だと思うのですが。

長谷川:日本はもともとアクターネットワーク的な考えを持っていますからね。ただ、これまで民俗学や哲学の専門家たちが使い古してきた日本の哲学や思想をそのまま引用するのではなく、それを西洋にも理解できる形に既存の概念のアップデートをする必要があります。

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