展示風景:「 Ambient Weaving 環境と織物」 HOSOO Gallery (京都) 2021年
ZoZo Next、東京大学と共に取り組んだ、伝統工芸×先端テクノロジーを組み合わせた機能性と美を両立する新たなテキスタイルの開発に関する共同研究“Ambient Weaving”は、
EU Comissionが主催する「STARS PRIZE 2022」にてHonorary Mention (栄誉賞)を受賞した。
“Nishijin textile×Art 西陣織 × アート” 細尾真孝
株式会社細尾 代表取締役社長
聞き手=藤田博孝(ONBEAT編集長)、構成・文=成富彩乃
2022年11月3日発行『ONBEAT vol.17』掲載
元禄元年(1688年)より続く京都・西陣織の老舗「細尾」の12代目 細尾真孝。MITメディアラボのディレクターズフェローも務める細尾は、世界的なラグジュアリーブランドやアーティストとのコラボレーションを次々と展開し、西陣織に革新をもたらしている。「変革し続けることこそが伝統を守ることにつながる」と語る細尾に、西陣織×アートで目指す伝統工芸の改革について話を聞いた。 美を最上位概念に据え革新に挑む
―細尾さんが紆余曲折を経て、2020年に家業「細尾」の代表に就任されるまでの経緯をお聞かせください。
細尾:元々は家業を継ぐつもりはなく、何かクリエイティブなことをやりたいとずっと思っていました。高校1年生の時にセックス・ピストルズの曲に衝撃を受けてパンクバンドを組み、音楽で生きていこうと決めました。その後、90年代後半にはエレクトロニカというジャンルのクラブミュージックの楽曲制作をするようになり、PROGRESSIVE FOrMというレーベルに所属して東京を中心に音楽活動を行うようになります。京都にはダムタイプという素晴らしい先輩方がいますが、僕も彼らのように単に楽器を演奏するだけではなく、コンピューターやテクノロジーを用いてサンプリングした自然の音や、ダンス、アートなどを組み合わせた総合芸術として、新しい音楽を生み出すことを目指していました。ただ当時のクラブミュージックのマーケットは小さく、それだけで生活することは困難でした。一方で当時はNIGOさんや高橋盾さん、藤原ヒロシさんたちによるストリート系のファッションが、ハイファッションというモードへのカウンターカルチャーとして隆盛していました。その状況を見て、僕らの音楽活動も、ファッションやアートと組み合わせて新たなマーケットを生み出すことで、クリエイティブで実験的なことをやりながらも、ちゃんとマネタイズできるエコシステムを作れるのではないかと考えるようになりました。そこで、かつてウォーホルやバスキアがいた頃のNYのようなクリエイティブなエリアを探し始めた折に、上海に行く機会がありました。そこで、有名な画家のアトリエや欧米の写真家のスタジオが並ぶ田子坊という50mほどのストリートを訪れた際に、次は絶対上海が面白くなると直感し、上海を拠点としたブランド「SHAN_QOO_FUU」を立ち上げました。そのブランドではクリエイティブであることを重視していたので、生地の開発から取り組んだり、現代美術家の八木良太くんたちに一点物を作ってもらったりしました。そうして良いものを作れば、結果が出ると思っていたのです。ただ当時の上海は物価が安かったので、東京で展示会を行い、最初のシーズンから有名なセレクトショップなどへ卸していました。しかし中には原価が高く、売れば損をするような商品もあったため、ビジネスとしてのバランスを失い、2年ほどで解散します。そしてそのリベンジを果たすために、4℃というジュエリーを手掛けているF.D.C. PRODUCTSに中途入社し、デザインから企画、職人による原型制作、マーチャンダイズに至るまでブランドマネジメントを学びました。その後2006年「細尾」の先代である父が西陣織の海外展開を実験的に始める際に、自分で音楽やブランドを作るよりも、1200年以上続く西陣織の伝統を背負いながら、新しいものを創造することに挑戦するほうが、よほどクリエイティブかもしれないと思い、「HOSOO」に戻ることを決意しました。