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【本誌アーカイブ】漫画家・イラストレーター 江口寿史 永遠に届かない憧れを描く(vol.17)

Shiggy Jr. 『ALL ABOUT POP』CDジャケット通常版(UNIVERSAL SIGMA) 2016年

漫画家・イラストレーター 江口寿史 永遠に届かない憧れを描く
聞き手・文=藤田博孝
2022年11月3日発行『ONBEAT vol.17』掲載

『すすめ!! パイレーツ』(1977年~1980年)や、『ストップ!!ひばりくん!』(1981年~1983年)などのヒット作を世に送り出した漫画家の江口寿史。イラストレーターとしても活躍中の江口の個展「彼女」は全国で開催され、連日大盛況だ。長年ジャンルや世代を越えて支持される江口へのインタビューを通じて、江口寿史の「絵」の魅力に迫る。

―江口さんをはじめ、1970年代後半に若い漫画家たちが斬新なギャグ漫画を次々発表していた頃の熱気と、ロンドンからパンクロックが生まれてきた当時のポップ・カルチャーの空気は、どこかで連動していたように思います。例えば、江口さんの連載デビュー作である『すすめ!! パイレーツ』の連載開始と、パンクロックの元祖、セックス・ピストルズのデビューアルバム発売は、ともに1977年の10月ですよね。過去のインタビューでは、「漫画家としてデビューした当初は、ギャグやストーリーが大事で、絵を上手く描こうとは一切考えてなかった」と発言されているように、技術よりも初期衝動に重点が置かれていたという点にも、パンク的なアティテュードを感じます。江口さんにとっての初期衝動とは何だったのですか。

江口:実は、僕はジョニー・ロットン(セックス・ピストルズのヴォーカル)と同い年で、1977年当時は21歳でした。まず、僕の初期衝動が生まれる原点には、山上たつひこさん(漫画家・小説家:1974年に発表したギャグ漫画『がきデカ』が大ヒット)の存在があります。僕は生きることがつらかった時に、山上さんの漫画の「笑い」に救われたんです。そんなふうに身をもって「笑い」の力のすごさを感じていたので、「笑い」を世の中に届けたいという思いが僕の初期衝動になりました。また、その「笑い」を表現するギャグ漫画家への道を開いてくれたのも山上さんなんです。というのも、かつての漫画界はストーリー漫画の絵とギャグ漫画の絵が明確に分かれていて、ギャグ漫画は例外なく赤塚不二夫さんのようなデフォルメした絵で描かれていました。ところが、僕はギャグ漫画指向でありながら、絵柄的にはちばてつやさんと手塚治虫さんの画風に影響を受けたストーリー漫画の絵を描いていました。そうかといってストーリー漫画に目を向けても、手塚さんの『火の鳥』などを見てしまうと、自分にはとても無理だと感じざるを得ず、漫画家の道はまずないと思っていたんです。そんなさなか、山上さんが漫画界に登場し、ストーリー漫画の絵でギャグ漫画を発表し始めたんですね。それを見て僕は「山上さんの後に着いて行けば、僕も漫画家になれる」と思ったんです。

楠見清『ロックの美術館』カバー(シンコーミュージック) 2013年

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