高橋龍太郎の「ニッポン現代アートの価値」第七回 水戸部七絵 2022年11月3日発行『ONBEAT vol.17』掲載
精神科医の現代アートコレクター、 高橋龍太郎の収集したいわゆる“ 高橋龍太郎コレクション”は、今や現代アート界の大物となった草間彌生、村上隆、奈良美智らの貴重な初期作品や、後に代表作となった作品を多数含み、日本の現代アートを語る上で欠かせないものである。卓越した慧眼を持つ高橋がそのコレクションの逸品を語る本企画の第7回は、水戸部七絵を紹介する。
過剰は美である
2018年3月清春芸術村の二つの美術館のキュレーションを依頼され、私のコレクション作品と、美術館に収蔵されている作品を同時に並べる展覧会を企画した。タイトルは『顔と抽象―スペクトラムとしての絵画』 であった。顔をモティーフとする自画像を自意識の強度が最も強いもの、一方現代社会の中で解体を強いられた自意識が生み出したものを抽象画とするなら、「顔」 と 「抽象」 それぞれに投影された自意識の表現はスペクトラムをなすのではないかというのが、テーマであった。 そこに至る背景には、当時注目していた水戸部七絵という作家の異常なほどの顔へのこだわりが表れた作品があった。