長谷川祐子の「ハイパーサブジェクトアートレポート」
第二回 第2回タイランド・ビエンナーレ
2021年6月29日発行『ONBEAT vol.14』掲載
国内外のビエンナーレや美術館で数々の企画を手掛け成功に導いてきたキュレーターの長谷川祐子。「多くの主観が集まった複合的な主体、あるいは主題としてまとめ切れないほど変化流動するトピックをレポートする」という長谷川の意図が込められたこの連載企画。その第二回は資本主義をデトックスする「第2回タイランド・ビエンナーレ」を主題とする。
蝶とがジャスミンの香りとともにあなたのそばを横切るとき:到来をむかえる準備のためのデトックス
資本主義をデトックスするビエンナーレにむけて
2年前にタイの文化省から依頼されて「第2回タイランド・ビエンナーレ」(以下TB2と表記)のキュレーションをすることになった。これはヴェニスや横浜のように一つの都市で隔年開催されるタイプではなく、毎回場所を移動していくノマディック型のビエンナーレである。ヨーロッバでは同様の例としてマニフェスタ(Manifesta)があるが、現代アートのインフラや教育が整ったヨーロッパと異なり、タイでは、現代アートのプロジェクトに参画する人的資源や、文化施設の向上を通して、産業や観光、文化振興させようとしている。TB2の開催地であるコラートはバンコクの北東部イサーン地方の玄関口に位置し、タイとラオスの二つの文化圏が交わる起点でもある。バンコクに次いで2番目に人口が多い県であり、社会インフラが整っている一方で、文化観光的な資源については、アユタヤやチェンマイなどに比べて、それほど知られてはいない。コラートは、歌や踊りの盛んなイサーン地方人特有の温かさがあり、大学、学校、寺、図書館、動物園、博物館、病院などのインフラが整っている。また周辺には歴史的な遺産があり、ピマーイやパノムワンなどクメール王朝(現在のカンボジア)時代の貴重な跡群が、西側には、世界自然遺産・カオヤイ国立公園の豊かな森林が広がる。取り立てて際立った観光資源があるわけではないこの「普通の」都市は、見方を変えれば、人間らしい豊かな生活を送るための要素が全てそろっているとも言える。
そんな場所の持つ資本の可能性をファシリテイトして顕在化できないかと考えたとき、数理経済学者・宇沢弘文が提案する「社会的共通資本*」に出会った。