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【本誌アーカイブ】映画界の美術監督たち 種田陽平(vol.17)

『清須会議』清須城大広間のセット写真 ©2013 フジテレビ/東宝

映画界の美術監督たち 種田陽平 構成・文=成富彩乃 2022年11月3日発行『ONBEAT vol.17』掲載

『バベル』『キル・ビル』『ワイルドスピード』など著名なハリウッド映画作品の美術にも携わり、現在は台湾、中国などで映画美術監督(プロダクション・デザイナー)として活躍し、アメリカアカデミー会員でもある赤塚佳仁が、映画における美術監督の仕事に迫るべく、日本映画界注目の美術監督たちにインタビューを行う連載企画。第三回はプロダクションデザイナーとして『キルビル Vol.1』『ヘイトフル・エイト』『思い出のマーニー』などの映画話題作のほか、「東京2020オリンピック・パラリンピック」開閉会式のセノグラファーとして舞台美術も手掛けた映画美術界の第一人者・種田陽平を紹介する。

種田陽平 株式会社ジーンオフィスにて。  撮影:成富彩乃


映画、舞台、アニメーションそのものの持ち味を際立たせる美術

一種田さんは実写映画だけでなく『イノセンス』(押井守監督、2004年公開)や『思い出のマーニー』(米林宏昌監督、2014年公開)などのアニメーション(以下アニメ)映画にも参加されていますね。

種田:そうですね。『イノセンス』は僕がアニメ映画に初めて参加した作品で、コンセプトデザイン、インテリアなどを担当しました。アニメ界には緻密に考えられる人が少ないからとオファーがあったのです。その後も僕がコンセプトデザインなどメインの世界観を作って、アニメの美術監督に具体化してもらうという形でアニメ映画に関わり続けていますが、『思い出のマーニー』の場合、美術監督として、毎日、朝から晩までスタジオジブリに詰めて全カットのボードに関わりました。絵で描き出す世界の中には、実写であれば撮影が担当するような空や雲、自然の表現も入っているわけで、全てが美術の仕事となりますから大変な作業でした。しかし今の劇場映画を引っ張っていたり、外国人が吹き替えで楽しみやすかったりするのはアニメですし、日本の文化を担っているエンターテインメントの一つであることは確かですから、これからもアニメ作品には少しでも関わりたいと思っています。

『イノセンス』場面写真 ©2004 士郎正宗/講談社・ IG,ITNDDTD 『イノセンス』4K Ultra HD+4K リマスター・ブルーレイ(ウォルト・ディズニー・ジャパンより発売中) ©2004 士郎正宗/講談社・ IG,ITNDDTD

一そんなふうに種田さんが参加された両作品では、同じ監督による前作と比べて、実写のセットをアニメに落とし込んだかのように感じました。

種田:それは絵を描く集団の中に実写の美術監督の僕が入ったからだと思います。というのも今の世界のアニメ映画の美術は、まるでセットを作るかのようにフルCGの3Dで美術を作って、それを場面によってどう見せるか断面的に切り取って考えることが主流ですが、2Dアニメの場合は模型や平面図を作ることはあっても、そうしたセットが完成することはありません。またアニメの場合、監督もアニメーターも美術部も、建築やデザイン専攻ではなく絵画専攻から進んできているので、ドアや窓の形や開閉方法など建築的に理にかなっていないことでも気付かない場合があります。そんなアニメの美術集団の中に僕が入ることで、そうしたことも気にするようになり、全体がカチっと締まったのかもしれません。今は新海誠監督のように、アニメの背景もより写実的になってきています。実写もそうですが、「リアリズム」というものを考え直さなければいけない時期なのでしょう。

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