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【本誌アーカイブ】名和晃平 「SYNTHESIS」展以降を語る(vol.14)

 

名和晃平 「SYNTHESIS」展以降を語る
聞き手=長谷川祐子(キュレーター)、構成=藤田博孝(ONBEAT編集長)
2021年6月29日発行『ONBEAT vol.14』掲載

 

彫刻家・名和晃平とキュレーター・長谷川祐子。二人はこれまで国内外の数々のアートプロジェクトでコラボレーションをしてきた。長谷川祐子を聞き手に、名和晃平が個々の作品の創作秘話を語る。  

 

《Ho / Oh(鳳 / 凰)》 2019年 撮影:Nobutada OMOTE | Sandwich

 

 

現代人の知覚意識を表現する「マテリアル使いのマジシャン」名和晃平

長谷川:名和さんがまだいたいけな青年だった頃に、浅田彰さんから「この人は素晴らしいから」と吉田屋で紹介された時のことをよく覚えています。非常にみずみずしいドローイングをされていて、それをとても新鮮に感じました。その後名和さんは、さまざまなマテリアルをご自身のフィルターに通し、そこに現れる知覚のズレやゆがみによって、現代の私たちの知覚意識を表現するという、とてもコンテンポラリーなアーティストとしてシーンに登場されました。私はその表現の特徴から、名和さんのことを「私たちのパースペクティブをいろんなふうに変えてくれるマテリアル使いのマジシャン」と捉えていました。私が当時チーフキュレーターをしていた東京都現代美術館で個展をしていただいた時には、いろいろと構成を考えてくださって、名和さんの全貌が見られるような個展になったと思います。その時の達成感とかどんな感じでした?

 

名和晃平 ⒸONBEAT / Breakzenya

 

名和:東京都現代美術館で「SYNTHESIS」(2011年6月~8月)と題して個展を開催したのは、2011年の東日本大震災直後で、僕が作品を発表し始めてちょうど10年の節目でもあったんですよね。あの個展から今10年が経ち、僕が創作のためのプラットフォームとして仲間たちと立ち上げたSandwichというスタジオも設立から11周年を迎えました。「SYNTHESIS」は、自分の創作活動全体の中でも、一つの節目だったなと思います。 大学で博士論文などを書きながら彫刻の方法論を考えたり、マテリアルの使い方について自分なりの表現として立ち上げてきたものをまとめて全部発表できたのがあの個展だったと思います。2011年は、震災によって日本の社会にもいろんな衝撃があって、建築家とかアーティストたちも考えが揺らいだというか、大きなショックを受けた年だったと思うんですよね。それが僕自身の意識無意識にも影響を及ぼしたせいか、震災以後それまでには無かったような新しい作品が生まれ続けています。《Direction》《Force》《Foam》といった作品群は全部、その「SYNTHESIS」以降にインスタレーションとして表れてきた作品で、それとともに今10年が経ったという印象です。ですから「SYNTHESIS」を起点に、それ以前と以降を大きく分けて見てみると、やっぱり社会のいろんな出来事とか環境、そして人の意識みたいなものが意識のうちに作品に表れていたのかなと感じます。それから長谷川さんのキュレーションで、2013年に犬島で妹島和世さんが設計した《F邸》(キュレーター長谷川祐子と建築家・妹島和世によって、瀬戸内海の犬島を舞台に展開された集落再生プロジェクト 「犬島『家プロジェクト』」の一環として設置されたギャラリーの一つ)に、《Biota(Fauna / Flora)》という作品を作りましたが、あれはいまだに僕の中ですごく大きな存在として残っています。それで、あの作品からの展開をインスタレーションとして表現した《Metamorphosis Garden(変容の庭)》という作品が、現在、GINZA SIXの中央吹き抜けに展示されています(展示期間:2021年4月12日~2022年4月予定)。  

 

《Scum-Apoptosis》 2011年 撮影:Seiji TOYONAGA|Sandwich Courtesy of Gallery Nomart and SCAI THE BATHHOUSE 《Trans-Double Yana(Mirror)》2012年(左)、《Trans-Highway Star(Stroke)》2012年(右) 撮影:Nobutada OMOTE | Sandwich Courtesy of AFROAD GALLERY and SCAI THE BATHHOUSE

 

長谷川:ただ、その犬島《F邸》のプロジェクトは、「トンネルみたいな通路を作って、二つの中庭の間をつなげる」という方向で進行していた名和さんの案を、私が締め切り間際で却下してしまったんですよね。そこから時間の無い中で、一気にあの《Biota(Fauna/Flora)》の案をまとめてくださったので、名和さんの想像力って本当にすごいなと思いました。

名和:あの作品は2013年の3月ごろに発表したんですけど、その前年のクリスマスが終わったころにボツになったんですよね。だから年末年始でスタッフが休んでいる中、僕が一人で3Dでモデリングをし、年始からみんなで作品を作ったんです。50日間で作品を全部作り終えて設置までしているんですけど、本当によく50日間でできたなって思います(笑)。

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