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【本誌アーカイブ】美術家・内藤礼 生まれておいで 生きておいで(vol.21)

美術家・内藤礼 生まれておいで 生きておいで
文=藤田博孝(ONBEAT編集長)
2024年10月8日発行『ONBEAT vol.21』掲載

 

《母型》 2024年 展示風景 :東京国立博物館  撮影:森本利則 《死者のための枕》 2023年 シルクオーガンジー、糸 展示風景 :東京国立博物館 撮影:畠山直哉

 

美術家の内藤礼による展覧会「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」が東京国立博物館とエルメス財団との共同企画で開催されている。6月25日に東京国立博物館でスタートした同展(9月23日まで)は、会期を一部重ね合わせながら9月7日にスタートした銀座メゾンエルメス フォーラムでの同名個展へと接続された。両館をつなぎ大きな円環を描くかたちで展開する同展を通して内藤礼の世界に迫る。  

 

展覧会チラシより転載

 

「地上に存在することは、 それ自体、祝福であるのか」をテーマに 、光、 空気、 水、 重力といった自然がもたらす事象を通して「地上の生の光景」 を見出す空間作品を生み出してきた美術家・内藤礼。その作品制作を通じて 「生と死」は分別できないものとして問うてきた内藤の展覧会「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」が、東京国立博物館(9月23日まで)と銀座メゾンエルメス フォーラム(9月7日から2025年1月13日まで)で相次いで開催されている。本展開催のきっかけは、150年余の歴史を持つ東京国立博物館(以降「東博」)の約12万件におよぶ収蔵品、とりわけ縄文時代の素朴な土製品と内藤との出会いだったという。「 1万年という時を超え、 内藤は縄文時代の土製品に自らの創造と重なる人間のこころを見出しました。 それは、 自然・命への畏れと祈りから生まれたものであり、 作家はそこに 『生の内と外を貫く慈悲』を感じたといいます(展覧会プレスリリースより)」。内藤は6月24日に東博で行われたプレス向け内覧会で、東博所蔵の縄文の土製品と対峙して感じたことや、本展に込めた思いなどについて次のように語った。 「この展覧会の作品と構成は、母を思わせる女性の胴体を示した縄文時代の「土版」との出会いから始まりました。そして作品について考えていたある日、この「土版」と私の作品《死者のための枕》から、そしてこの世界を成り立たせている何かから、一つの呼びかけを感じ取りました。『生まれておいで、生きておいで』という声です。そこからすべてが動き始めました。その声は、生の外から、こちら=生の内に向けて送られている力であり、慈悲であると私は思いました。同じように、特別5室の「足形付土製品」や、「猿や猪形土製品、鹿の骨」、「猫の毛」という、かつて本当に生であった者たちや、それらを作った人々、見つめた人々もまた、生の内にいる者たちに呼びかけていると私には思えてなりません。作品の構成、時間に伴う流れは企画展示室の「土版」から始まり、特別5室へ、ラウンジへ、そして9月から始まるエルメス空間へと進み、そこでターンをして再びラウンジ、特別5室、そして《死者のための枕》へと戻ってきます。それは、生の往きと還りに重なります。死はかつての生で、私たちと同じ地上に生まれ、生き、逝ったその生は、『ない』のではなく『本当にあった』のだ。その生を、今ここにある生と同じように実感できるだろうか。『かつての生があり、この生がある』と、実感できるだろうか。その問いを自らに向けたのだと思います。同時に、『私もまた逝くのだよ』と思うのです。そして、かつての生とともに、この生を何者かではなく、ただ一つの生であると感じ、誰かの生を感じ、私の向こうに私ではない他の生があるという安堵、幸福を感じることができたらと願うのです。これまでも持ち続けていた問いは、東京国立博物館という場であったからこそ深く感じ、考えることができたといえます。」 「生まれておいで、生きておいで」という本展タイトルや、「誰だろう」 という本展に寄せた詩は、内藤が「私の向こうに私ではない他の生があるという安堵、幸福」を感じ得たからこそ、生まれてきた言霊なのであろう。  

 

「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」 第1会場 2024年 展示風景 :東京国立博物館  撮影:畠山直哉

 

そんな内藤が、東博の収蔵品、建築空間、歴史と向き合い、新作を含め約100点を公開する本展は、平成館企画展示室、本館特別5室、本館1階ラウンジという、それぞれ全く違う構造を持った3会場を使って構成され、それらを回遊しながら鑑賞する形式がとられた。鑑賞者はその中で、内藤の作品と縄文時代の土製品などが時空を超えて混ざり合い、「根源的な生の光景」が立ち現れるのを目の当たりにする。 第1会場となったのは平成館企画展示室。壁一面の展示ケースの中が「生の外」、つまり死者あるいは未生の者の側、鑑賞者がいる展示ケースの外は「生の内」だという。展示ケースの右側には、縄文時代に作られた女性の胴体を示す「土版」が展示されている。「この世界に命が顕れ出てくる瞬間が私にとって何よりも重要(7月15日に行われたトークイベントより)」と考える内藤にとって、豊穣や多産を願って作られたと考えられているその土版との出会いは、後述する「足形付土製品」と並んで、本展の構成の方向性を考える上で決定的なものとなったという。「土版」と対を成すように展示ケースの左側には、本展の構成上やはり重要な意味を成す作品《死者のための枕》が展示された。内藤は7月15日に行われたトークイベントで、本作の持つ意味が転換したという興味深いエピソードを語っている。  

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