長谷川祐子の「ハイパーサブジェクトアートレポート」
第四回 甲冑の解剖術
2022年6月21日発行『ONBEAT vol.16』掲載
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長谷川祐子
国内外のビエンナーレや美術館で数々の企画を手掛け成功に導いてきたキュレーターの長谷川祐子。「多くの主観が集まった複合的な主体、あるいは主題としてまとめ切れないほど変化流動するトピックを「レポートする」という長谷川の意図が込められたこの連載企画。その第四回は「甲冑の解剖術」を主題とする。
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《紅糸威仁王胴具足》 室町~安土・桃山時代 石川県立歴史博物館蔵
「未来を装着せよ」 再来するもの
Revenant(レヴェナント)はデリダによって、過去から再来するもの(蘇りしもの、幽霊なども含む)に名付けられた言葉である。情報ネットワークの発達で私たちはデータ化されている情報にいつでもアクセスできる。過去についても、例えば歴史上のある1日、一つの出来事の情報がアーカイブに上がっていれば、ある程度の再生をすることができる。物から得られる情報はどうだろう。それは情報だけでなく、感性や感情も再来させてくれる。
私たちは、歴史はあるサイクルで繰り返されると教えられてきた。そこで視点を変え「歴史から学ぶ」というよりも、アーティストとキュレーションの力で歴史を今に再来させることで、現在の生きるリアリティを増幅させる方法を考えてみた。
「甲冑と現代アート」というアイデアは、2018年にパリのパレ・ド・トーキョー(以降「パレ」)で見た「daimyo(大名)」展にインスパイアされている。これは東アジア美術に特化したギメ美術館とバレの2カ所で開催された展覧会で、現代アーティストによってデザインされたバレの空間で、多くの若者が現代の感性で甲冑に共鳴しているのを見た。そのとき遅ればせながら初めて自国の文化のパワーを知ったのである。
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《鉄二枚胴具足》 17世紀後半頃 大阪城天守閣蔵
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Rhizomatiks 《Data Visualization Design: Rhizomatiks Scanned image for Kacchu》 ⒸRhizomatiks
「甲冑の解剖術意匠とエンジニアリングの美学」(Kacchu Anatomy 以降 「KA展」)と題された本展は、サバイバルのための防具であると同時に、武士の美学が込められ、戦場や謁見の際に目立つための意匠の極みを見せた甲冑にフォーカスしている。