撮影:ONBEAT/Breakzenya
スペシャルインタビュー 絹谷幸二 インタビュー&文 = 藤田博孝
2021年6月29日 発行『ONBEAT vol.14』掲載
待望の個展となる「こしかたの記・菩提心 絹谷幸二展」をこの6月に開催する日本画壇の巨匠・絹谷幸二。出品作を描きあげた画家が、絹谷芸術の根底に流れる「不二法門」の思想や、これまでの歩みを語った。
コロナ禍の中、自らの生い立ちの記を見つめ直しながら描いた新作
絹谷幸二といえば「日本画壇の巨匠」というイメージがありますが、そんな絹谷先生にも画家として駆け出しの時代があったこともまた事実です。そこで始めに、絹谷先生の若い頃の体験談や若手アーティストたちへのメッセージなどがあれば、お聞かせください。
─僕は小さい頃から野球をすることと、絵を描くこと、その両方が好きでした。高校時代は体育部長と美術部長を兼任し、写真家の土門拳さんの助手もしていましたので、スポーツと芸術の両方からいろんな学びを得ました。スポーツは動物的勘で行いますし、絵はじっと観察して描きますから、一見すると別々のことのように思えますが、私が生まれた奈良には「互いに相反する二つのものは、実は別々に存在するものではない」という考えを説いた「不二法門」という教えがあるんです。

《日乃出爛漫富嶽》2020年
「不二法門」の考えは、釈迦と同時代に生きた維摩という人にまつわる物語をまとめた「維摩経」という「般若心経」よりも古い、口伝による教えに説かれていて、奈良の興福寺に伝えられています。その教えを受けて育った僕の中には、水と油、男と女、共産主義と自由主義などを相反するものと捉えるような既存の常識は嘘だという思いが常にありました。いわゆる世間の常識には捉われないというのが、若い頃からの僕の精神なんです。