© Boris Mikhailov, VG Bild-Kunst
京都国際写真祭 KYOTOGRAPHIE BORDERを壊し、世界をつなぎ直す
聞き手・文=藤田博孝(ONBEAT編集長)
2023年5月16日発行『ONBEAT vol.18』掲載
京都ならではの歴史的な建造物を舞台に毎年開催されている「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」 が、 今年は 「BORDER」 をテーマに開催中だ。質の高い展示によってアートファンからの高い支持を得ただけでなく、多彩なプログラムによって京都の街や人々を巻き込んだイベントへと成長してきた。同フェスティバルの共同創設者/共同ディレクターであるルシール・レイボーズ氏と仲西祐介氏を訪ね、話を聞いた。
藤田: お二人がここ京都で 「KYOTOGRAPHIE」 という国際写真祭を立ち上げ、非常に魅力的なフェスティバルに育て上げられたことは本当に素晴らしいと思います。 ここに至るまでの道のりをお聞かせください。
レイボーズ: (仲西) 祐介と私は2011年の初めに東京で出会いましたが、その年に起きた東日本大震災をきっかけに、 一緒に京都に移住することにしました。 祐介は照明家で、私は写真家ですが、 震災と京都移住をきっかけに、個人として仕事を続けるよりも、もっと社会のために何かをすることが大事だと考えるようになりました。 そこでさまざまな世代やコミュニティ、異なるスタイルの人たちをつなぎ直すことができるような、日本社会における新しいメディアのプラットフォームとしてのイベントを作りたいと思いました。 そこで私たちは写真というメディアを使い、海外のアーティストを招聘することで、 日本にとって重要なトピックを海外のアーティストの目を通して取り上げることができると考えました。 日本人は社会的な問題に近づきすぎることを嫌いますが、 国際的な目線で取り上げることで、 社会的な問題についても日本の観客とよりスムーズに対話することができると思いました。 こうした考えに基づき立ち上げた「KYOTOGRAPHIE」では、私たちは毎年、写真作品の展示を通じて人種や差別、環境などさまざまな社会問題に触れるだけでなく、さまざまな方をお招きして話を伺っています。
私たちが毎年目指しているのは、普段展覧会に足を運ばないようなお客さまにも写真に親しんでいただくことです。 ですからプログラムも多彩にして、誰もが参加できるよう扉を開いています。 誰でも最初になんらかの形でプログラムとの接点を持ち、やがて他のプログラムも体験できるようにするのが狙いです。 日本は特にセクター化された国なので、最終的には、このような境界や世界中の国境を壊し、 より良い未来のために人々の間にもっと相互のつながりを作っていきたいと思っています。 これは私たちの夢であり、今年のプログラムのテーマでもあります。 しかし第1回は最初のスポンサーがフェスティバル開催の3カ月前にようやく決まるなど、とても混乱していました。また私たちは自分たちでエキシビジョンを作ることはあっても、他の人のエキシビジョンを作ることはなかったので、そのためのチームを作る必要がありました。 インディペンデントで何かを作ることからチームで作ることへの移行はとても難しいことでした。 そこには多くの人が関わり、管理も複雑でした。 また京都の人々との正しい距離感を見つけることも課題だったように思います。 地元の人たちにとって、このイベントは家族の歴史と結び付いた地元を舞台としていますし、新しい挑戦を避ける傾向があります。そこで1年目は「理解しようとすること、間違えないように気を付けること」に徹しました。 しかし京都の歴史は複雑で深すぎて、それを防ぐことは不可能だとわかりました。 そこで私たちは京都の文化を尊重しながらも、外から来た者として振る舞おうと決めました。 包括的な形で京都へなんらかの固有な価値をもたらすことができるのであれば、 京都の人たちはもっとオープンに受け入れてくれると思います。 今は、京都府や京都市、 そして地元の職人・クリエイターの方々が私たちを受け入れてくださり門戸を開いてくれています。京都はポテンシャルの高い豊かな街なので、とてもうれしいし楽しいです。10年経った今でもたくさんの発見があります。