©Yoichi Ochiai

2022年9月1日(木)~9月25日(日)Karimoku Commons Tokyo 1Fギャラリースペースにて、アーティスト若佐慎一とメディアアーティスト落合陽一による2人展「ぐわぐわぬるぬる : 森からいづる不可視な境界線を廻って」が開催中だ。

本展を企画主催する若佐は、カリモク家具の工場内で家具制作の過程で発生する端材に着目し、その在り方について思索するなかで、森、ひいては自然と日本人の間にある宗教観や日本人の根幹を成すと言われるアニミズムという生命観について再考するようになったという。

そして今回、これらの考えを通して森と人との関係性の中にある「見えないモノ」という存在を展示コンセプトに、以前若佐と「凄い若い」というブランドを立ち上げたこともあるメディアアーティストの落合陽一とともに、木を用いた新作を発表する。

これまで人間とコンピューターの境界領域が調和して1つになる新しい自然観「デジタルネイチャー」を軸に制作、活動をしてきた落合は、本展では「デジタルネイチャーの上に新たな民藝はどう存在しうるのか?」という問いから生み出した作品を中心に、木材を使用した新作を発表する。

また日本の風土と宗教観をテーマに、漫画やゲーム、アニメの特徴とされる要素を作品内に取り込み、ペインティングを中心とした作品を発表してきた若佐は、本展では初めて木材を使用した彫刻作品を発表する。

世界に潜む多様な関係性をアーティストの目線で切り取った本展をぜひ訪れてほしい。

内覧会プレビューにて。撮影:藤田紘那

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アーティスト 若佐慎一より

COVID-19によって、外出制限など人との直接的な交流の制限要請がある中で、否が応でも自分と向き合わざるを得ない状況となり、「個」が強調されるポストコロナ時代に於いて、それがきっかけとなり、これから更にアイデンティティの探求が求めらる時代になると考えています。
「ぐわぐわぬるぬる:森から出づる不可視な境界線を廻って」と題されたこの展覧会は、国土の7割が森や木で覆われている風土によって生まれた歴史や文脈がもたらすアイデンティティを再考し、もともと、日本にある訳のわからなさ加減や非合理性、カオスティックな世界と混沌とした秩序などなど、様々な領域を横断しながら、相反するモノを常に内包しながら進み続けるこの世界に希望を見出しつつ、新たな可能性を探ります。

メディアアーティスト 落合陽一より

ポストコロナの生活の変化は、定在遊牧時代ともいうべき状態に近づき、デジタルと身体の垣根はますます薄れていき、我々が生活や文化の中で憩う「豊かさ」の再考を我々に求めているように思う。この変化は狩猟採集社会、農耕工業社会、情報社会と変化してきた我々人類の変遷の中で定在遊牧性社会という新しい時代区分に差し掛かっているように見える。これは、社会それそのものの基盤がよりソリッドステートに近づき可動部分が少なくなり、人々の営みが生じる環境負荷についても明示的にトラッキングされる。その様は遊牧民が環境負荷に応じて彷徨う牧畜の群れとともに変遷することによって可視化されるように、我々もまた各々の環境負荷に明示的になりながら、この遍在する社会を生きることに繋がっている。その思考の連続の中で、改めて森や木の文化、精霊、神話、目に見えない・聞こえない、感じられないものを探していくことは信仰というよりは民藝的な倫理、むしろ生活の営みや規範を再認識し、自らが立脚する歴史的な文脈を理解することで生きることそれそのものに向かうための気力を養うことに近づいている。そこで再考される豊かさとは物質的・資本的なものに限らず,味わい深いコンテクストを理解したり、何気ない日常の調度品を眺めることの中に憩いや精神的充足を感じるような、時間と空間をより重層的に感じることによる心の豊かさを志向するものであろう。

「ぐわぐわぬるぬる : 森からいづる不可視な境界線を廻って」と題されたこの展覧会は、定在遊牧性から新たな豊かさを指向するコンテクストをもとに、より身体的でより非言語的な可能性へ、民藝的な展開を円空仏や廃品の再利用などを通じて行いながら、メディアとデータ、計算機と自然、木工に代表されるような狩猟採集時代の豊かさへのオマージュを通じて、身体性とグルーヴを描き出そうとしている。哲学者のイヴァンイリイチが1970年代にコンヴィヴィアリティを参照した際に悦な体験というものの宴会的性質を排除して考えていたが、民藝美は再び豊かな悦な体験を通じてリミックスされ,身体性をより喚起する方向へと変化すべきなのではないかと我々は考えている。この展覧会を通じて、身体と遍在性の関係、分断の超越、サステイナビリティと伝統や文化とのマリアージュを体感してほしい。見えぬもの、しかし感じられるもの、表現するための単語はないが、ひょっとしたら擬音語や擬態語のオノマトペがその身体感覚を表象できるものなのかもしれない。

開催概要
開催日:2022年9月1日(木)~2022年9月25日(日)
時間:12:00~18:00
休館日:毎週日曜日(但し、9月25日は開館)
会場:Karimoku Commons Tokyo
住所:東京都港区西麻布2丁目 22-5
入館料:無料
詳細はこちら
ONBEAT vol.11~vol.16では落合陽一の連載を掲載