東京国立近代美術館にて「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」が開幕した。(~9/26)
本展では、建築家・隈研吾の作品の中から、世界中に点在する68件
さらに、ネコの視点から都市での生活を見直すリサーチプロジェクト《東京2020 ネコちゃん建築の5656原則》も発表する。
バイリンガル美術情報誌『ONBEAT vol.13』では、これまでの隈建築ほか、本展について隈研吾に独占インタビュー。建築作品の大型図版とともに大特集している。
コロナ禍の今、隈が考える人にやさしい=人が集まる=新しい公共性が生まれるような建築と、未来の都市の在り方とはーー?
序論
隈が設計に参画した《国立競技場》の競技後のインタビューゾーンには、隈がデザインした大型の行燈のような照明がある。本展ではこれを特別に展示。
また、大量につくられた競技場のスタディ模型の中から約40点を厳選して、世界初公開する。
5原則のひとつ「孔」
隈は「ネコは孔を使って、ある場所へと抜けていく以上に、孔の中に身を隠すことを大事にしている。コロナ後の人間もまた、ハコによって守られるのではなく、孔によって守られる時代をむかえるだろう」と述べています。
《那珂川町馬頭広重美術館》は、建築にトンネルのような孔をあけることで、街と里山とがつながるようになっている。
建物と建物の隙間にできる空間も孔と考える隈は、《アオーレ長岡》で、市庁舎棟とアリーナ(体育館)棟と市民協働センターの入った3つの建物の間に、ナカドマという大きな吹き抜けの空間をつくっている。
《アオーレ長岡》を撮影した映像作品では、人があつまる公共建築の一つであることを体感できる。
《V&Aダンディー》は、日本の鳥居に着想を得て、街と川をつなぐ孔をつくっている。本展では、建築模型の背景にアイルランドのマクローリン兄弟によるタイムラプス映像を映している。
5原則のひとつ「粒子」
ネコは、のっぺりした空間よりも、粒子状のきめのある空間を好むそう。ヒューマンスケールを超え、威圧的になりやすい公共建築を、隈は「粒子」という方法論を用いることで、ヒューマンスケールの建物を実現している。たとえば、日本全国のどの製材所でも製造できる幅10.5cm程度の小径木をよく用いているが、きちんと組み合わせれば小径木でも大きな荷重を支えられる。このように建築を小さな単位=粒子の集合体として捉えることで、建築とその中におかれるモノを同レベルで考え、人にやさしい建築をつくりあげている。
5原則のひとつ「やわらかい」
通常、固いと思われがちな建築も、日本の伝統的な建築の壁が、水で溶いた土を塗ったものであるように、やわらかい素材を用いてつくることができる。
ネコがかたくてつるつるしたものよりも、やわらかくて触感のあるものを好むように、隈もやわらかさを導入することで、建築を人にやさしい環境的なものへと近づけようとしている。
《高輪ゲートウェイ駅》は、駅全体を覆う屋根の素材に膜を選んだことで、駅構内には自然光が満ちている。膜を支える構造を、垂直や水平ではなく、斜めに組み合わせていくことで、屋根を山や丘陵を感じさせる、人にやさしい建築になっている。
5原則のひとつ「斜め」
軒下で雨宿りができるように、下に傾斜を持つ屋根は「守る」印象を与え、また寺社の山門のように、上に向かう傾斜を持つ屋根は「迎える」印象を与える。隈によれば、こうした「斜め」の屋根や塀の上を自由に移動するネコは、「大いなる斜めの先達」だという。隈は、「斜め」をさまざまな形で建築に取り入れることで、人にやさしい建築を作っている。
「斜め」となるのは屋根だけではなく、壁や床も斜めになることがある。《東京工業大学 Hisao&Hiroko Taki Plaza》は、屋根をステップ上にして地面からつなげたり、屋根上を庭園にしたりすることで、周辺地域とスムーズにつながるようにしている建築だ。
映像インスタレーション、写真:梼原の隈建築
高知県・梼原にある6つの隈建築を、写真家・映像作家の瀧本幹也が撮影、映像インスタレーションへと昇華させた。坂本龍一の音楽とともに、日本の伝統的建築にインスパイアされた隈建築の造形美を堪能できる。
5原則のひとつ「時間」
ネコはボロい空間が大好きだ。古くなった建物は、ボロくなることで物としては弱くなるが、隈は「物を弱くすることで、公共空間が楽しくなり、公共空間が人間のものになる」という。そのため隈は、建築物をリノベーションするとき、ぴかぴかに綺麗にするのではなく、自転車の車輪を装飾に使ったり、経年変化しやすい木材を使ったりするなど、あえてボロさがでるようにすることがある。
クマは思う、都市の未来はネコに学べと。ネコ目線の東京計画2020
建築家・丹下健三は、前回の東京オリンピックの前の1961年、《東京計画1960》という、東京湾に海上都市をつくる案を発表した。その大胆なアイディアは、模型を俯瞰して撮った写真とともに伝説となっている。本展では、この伝説的な案への応答として、隈研吾が《東京計画2020 ネコちゃん建築の5656原則》を発表する。丹下が海上の人工都市を俯瞰から見たのに対して、隈は地面に近いネコの視点で都市をみる。
デザイン・イノベーション・ファームTakramとともに、隈が住む神楽坂でネコの生態をリサーチした結果、「テンテン」「ザラザラ」「シゲミ」「シルシ」「スキマ」「ノラミチ」という5656原則を導き出した。
コロナ禍に見舞われる今、これまで合理的で、効率的で、かつ安全だと考えられてきたハコでの生活が見直され始めている。丹下に比べると脱力系のようにも見える本プロジェクトだが、一か所にとどまらず、テンテンと暮らし、スキマに入り込んで、自らノラミチをつくっていくネコの生態に、コロナ禍以降の人々は新たな都市での生活を学ぶべきだと、隈が問いかけてくる。
開催概要
開催日:2021年6月18日(金) ~ 9月26日(日)
開館時間:10:30〜17:00(金・土曜は~21:00まで、最終入場は閉館30分前まで)
住所: 東京都千代田区北の丸公園3-1 東京国立近代美術館
電話:050-5541-8600
料金:一般1300円、大学生800円、高校生以下無料