高橋龍太郎の「ニッポン現代アートの価値」第八回 華雪
2023年5月16日発行『ONBEAT vol.18』掲載
精神科医の現代アートコレクター、高橋龍太郎の収集したいわゆる“高橋龍太郎コレクション”は、今や現代アート界の大物となった草間彌生、村上隆、奈良美智らの貴重な初期作品や、後に代表作となった作品を多数含み、日本の現代アートを語る上で欠かせないものである。卓越した慧眼を持つ高橋がそのコレクションの逸品を語る本企画の第8回は、 華雪を紹介する。
書と現代アート
2022年秋、 東博で行われた国宝展へ期待して出掛けたが、拍子抜けしてしまった。 展示の多くが書であり、刀であったからだ。国宝展についてイメージするのは、等伯や光琳、 抱一らの琳派や狩野派の絵画作品なのだが、 多くの皇室関連の作品と並ぶ数々の書を見て、こういう物を国宝として文化庁が守っているのかと国宝へ
の考え方の落差に驚かされた。 国宝とは、国を代表する美術作品のはずだが、 私にはそれらの作品の数々が失われたとしても、世界はそんなに大騒ぎしないだろうという思いが強かった。かといって私のコレクションに書が全くないのかというとそんなことはない。 手許に上田桑鳩の《にこにこ》と題されたかわいらしい小品
もあり、井上有一の《風》、《月》などの大きな力作もある。 これらの作品も30年前に購入した時には、まだ書にも、日本のアートシーンにその立ち位置があったような気がする。