北欧と和を融合した独自のフラワーデザインで世界を舞台に活躍するフラワーアーティスト、 ニコライ・バーグマンと350年以上の歴史ある大樋焼の窯元に生まれた陶芸家であり、 建築家でもある奈良祐希。そんな二人によるセッション展覧会「JAPANDI-NA」が、2021年12月15日(水)~2022年1月14日(金)南青山・Nicolai Bergmann Flowers & Design Flagship Storeにて開催中だ。
「JAPANDI-NA」は、 日本のわびさびを感じるデザインと北欧のミニマリズムを融合したJAPANDI(ジャパンディ)とDNAを合わせた造語。 350年以上の歴史を誇る茶陶、 大樋⾧左衛門窯の脈々と受け継がれてきた伝統をDNAに持つ奈良祐希が生み出す陶芸に、 北欧のミニマルで時代を超越するデザイン性と日本の伝統美にインスパイアされたDNAを宿すニコライ・バーグマンがフラワーアートを施し、 両者の熱量がぶつかり合い、 昇華した作品の数々が披露されている。
本展について建築家・隈研吾やキュレーター・長谷川祐子、佐藤可士和、太宰府天満宮宮司・西高辻信宏なども次のようにコメントを寄せている。
二つの遭遇 ー隈研吾(建築家、東京大学特別教授)
金沢の大樋焼の家から、奈良祐希という新しい才能が育った。僕が特任教授を務めている東京芸術大学で建築を学び、そして父の大樋年雄から陶芸を学んだ。建築を学んだことが、彼に何を与えたか、将来何を与えようとしているかに、僕は関心がある。建築という異なるジャンルとの遭遇体験は、大樋焼という独特の焼き物の歴史的な生成のプロセスとも、重なって見えてくる。
大樋焼は二つの遭遇体験から生まれた、世界でも独特のユニークな焼物である。ひとつは、焼き物と刀剣という、二つの全く異質な技術の遭遇である。本来焼き物は、登り窯のような大がかりな装置を使った、一種の大量生産方式で作られる。器というのは、日常生活に使われるので、そのような大量生産が求められたのである。しかし、千利休は、ふいごを用いて。室内の小さな窯で、高温を発生させるという刀剣の技術を応用することで、単品生産によるアートしての器を生み出した。ふいごによって、ウツワがアートに転換した。この革命によって、手ひねりでろくろを用いないという世界に類のない楽焼と大樋焼が生まれたのである。
さらに大樋焼はもうひとつの出会いを体験した。それは金沢という独特の場所との出会いである。その遭遇が大樋焼独特の飴軸を生み、楽焼の禁欲的な黒とは異なるやわらかな世界を開いたのである。
祐希君が建築と出会ったことは、焼き物が刀剣と出会い、焼き物がアートへと変質をとげた歴史と、同様の転換を社会にもたらすかもしれない。大量生産であった器をアートに転換することが可能だったのだから、器を建築に転換することが、できないわけがない。祐希君はそんなことを考えながら、あの暴力的なまでに鋭角を多用した器を焼いているのではないかと、僕は想像する。
さらにそこに金沢という場所が新たな刺激を与えることも、僕は期待する。そこで祐希君が向き合うのは、大樋焼を生んだ前田の殿様の時代の金沢ではなく、地方が主役となる、新時代の日本の中での金沢である。その新しい金沢は、日本海や、中国の重要度が増す新しい地勢学的バランスに応じて、生まれ変わりつつあり、重さを増しつつある。その二つの遭遇が、祐希君に何をもたらすか。しばらくは彼から目を離せないのである。
Frozen vibration ー長谷川祐子(美術評論、キュレーター)
奈良は建築空間を設計できる陶芸家である。建築はfrozen music(凍れる音楽)と呼ばれる。音楽のリズムやシンメトリーなどの幾何学的要素が、空間に凍結され、形としてあらわされているからだ。私たちはいつごろから形を静止したものとして分析的に見るようになったのだろう。縄文の火焔土器は炎の揺らぎをそのまま手の中で抱いていたい、その生命感と共にいたいと思った者がつくりだしたのではないか。それは「装飾」ではなく、現在進行形でその者が感じていた「炎」の体験だったのだ。ゆえにそのエネルギーは中で煮炊きされたものにのりうつり、そしてエネルギーは食べ物を通してヒトの生命の源となる。
奈良の縄文土器への関心はそのこととレゾナンスしている。彼の作品は、生命あるものが互いに響き合うために発している1/fゆらぎーノイズやリズム、ヴァイブレーションを凍結する。Frozen vibration、奈良のつくりだしたものを、私はこのように呼びたいと思う。彼がつくりだしたものは、そこにあるオブジェとしての陶芸作品を指すのではない。彼がつくりだしたものは、時間を空間を微分し震わせ、境界を失わせ、新たにモトモノ、現象と現象をであわせる、装置あるいは触媒のようなものだ。
奈良は2020年の12月から始まったという「風の時代」の申し子である。花の命をパーテイクル(粒子)、あるいはモナド(原子)に還元して練密に複雑にレゾナンスさせるニコライバーグマンと奈良とのコラボレーションが実現するという。
私はそこで、ゆっくりと会場にはいっていくだろう。そして何にも視点をあわせることなく、その場のヴァイブレーションだけを感じて立ち去るだろう。それが奈良の仕事への最大の敬意の示し方、味わい方だと思うからだ。
佐藤可士和より
ニコライバーグマンさんがフラワーボックスアレンジメントを発表した2000年、僕は広告代理店から独立して「SAMURAI」を立ち上げた。当時、高樹町の交差点近くに小さなオフィスを構えたのだが、ニコライのショップも近くにあり、骨董通りから表参道に抜けようと通った小道で、フラワーボックスアレンジメントを目にした時の衝撃は、今も鮮明に覚えている。
「クリエイティブのパワー」とは何かということを、僕は常々自問自答しているが、「希望の光をもって、未来に通じる新しい道を切り拓く力」というのが、ひとつの答えなのではないかと思っている。フラワーボックスアレンジメントの先に、固定概念や既存の前提から解き放たれた、自由で軽やかな世界が大きく広がっていて、なんて素晴らしい表現の力なんだろと、心の底から感動し、こんなにも人の心を動かすようなクリエイションができるよう僕も頑張ろうと背中を押してもらった。
それから20年、ニコライの活動の領域はどんどん広がり、「フラワーデザイン」という概念さえも軽々と飛び越え、新しいパースペクティブを提示し続けている。 今回の「JAPANDI-NA」では、奈良祐希さんとのコラボレーションを通して、見たことのない世界をまた披露してくれるだろう。
その景色は、この難しい時代にあって、僕を含め多くの人々に未来に進む希望の光を見せてくれるだろうと確信している。
西高辻信宏 太宰府天満宮宮司より
ニコライとの出会いは平成26年(2014)に遡ります。
彼が縁あって、文化芸術の神様菅原道真公をお肥りする太宰府天満宮を訪れたことにより、母国デンマークで育んだ豊かな感性と日本特有の細やかな美意識が、その後すばらしい化学反応を起こすことになりました。神道と北欧との共通点は、敬意と感謝の念をもって自然とともに生きる精神、そして自然を美しいと感じる心だと思います。太宰府の地で、日本の伝統美と北欧のミニマリズムが共鳴し、当宮職員も積極的に関わりながら、ともに展覧会を作ってきました。彼が初めて伝統工芸と向き合った「伝統開花」、歴史が息づく場所で新しいフラワーデザインを提案した「新花-SHINKA-」、そして未来の花見を体現してみせた「HANAMI2050」では、私たちは時空を軽やかに飛び越える彼の発想により、文化の垣根が取り払われ、新たな境地が切り拓かれてゆくのを目の当たりにしました。
脈々と伝わる日本の伝統文化を重んじながらも、そこに自身の創作性を融合させ、センセーショナルな作品へと昇華させる術をもつニコライは、数々のアーティスト、ブランド等とのコラボレーションを果たし、いつも私たちを驚かせてくれています。今回、350余年の大通焼の歴史を継承する奈良祐希氏との共演にあたり、どんな化学反応が起きるのか、大いに期待しています。
奈良は本展のためにニコライのシグネチャーアイテムであるフラワーボックスをイメージした新作を披露。 また、 奈良が陶芸を設計する際に描くCADのドローイングに、 ニコライのアートを組み合わせた作品も発表している。
奈良の処女作のテーマは「Bone Flower」。 建築家でもある奈良は3D CADを駆使して設計し、 板状に切り出した白磁を有機的に重ね合わせることで「花」を表現してきた。 一方、ニコライは建築物のフォルムや空間から触発されてフラワーアートを作ることも多い。 出会うべくして出会った2人が対峙し、 内なるDNAを表現した作品群をぜひ見てほしい。
アーティスト紹介
Nicolai Bergmann(ニコライ・バーグマン)/ フラワーアーティスト
デンマーク出身。 スカンジナビアン・スタイルのセンスと、 細部にこだわる日本の感性を融合させ、 フラワーデザインの世界でユニークな作品を発表し続けている。 活動の幅は広く、 ファッションやインテリアの分野でも世界有数の企業と共同デザイン・プロジェクトを手がけている。 現在、 国内外に13店舗のフラワー・ブティック、 カフェ、 アートギャラリーを展開。 2022年春に「NICOLAI BERGMANN HAKONE GARDENS」を箱根・強羅にオープン予定。
奈良祐希/ 陶芸家・建築家
石川県金沢市出身。 350余年の歴史を誇る大樋焼十一代大樋⾧左衛門氏を父に持ち、 祖父である十代目(現・大樋陶冶斎)は文化勲章受章者。 伝統家系の⾧男である奈良は当初は陶芸から距離を置き、 東京藝術大学で建築を学び、 同大学大学院(美術研究科建築専攻)を主席で卒業。 2021年には若手建築家の登竜門であるUnder 35 Architects exhibition 2021ファイナリストに選出されるなど、 建築家としても将来を嘱望されている。 2021年8月佳水園(京都)での個展では、 800名以上を集めた。
開催概要
開催日:2021年12月15日(水)~2022年1月14日(金)
時間:11:00~18:00
料金:無料
会場:東京都港区南青山5-7-2 Nicolai Bergmann Flowers & Design Flagship Store 2F