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【本誌アーカイブ】隈研吾 ヴォリュームを解体し、人と環境をつなぎ直す(vol.13)

隈研吾 ヴォリュームを解体し、人と環境をつなぎ直す
聞き手・文=藤田博孝(ONBEAT編集長)
2020年12月22日発行『ONBEAT vol.13』掲載

 

角川武蔵野ミュージアム 外観 撮影:成富彩乃

 

その土地の環境、文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのデザインを提案する建築家・隈研吾。新しい素材の探求を通じて工業化社会以後の建築の在り方を追求する隈へのインタビューを、代表的な建築作品とともに紹介する。  

 

隈研吾インタビュー

―この11月にグランドオープンした《角川武蔵野ミュージアム》は、数ある隈研吾の建築作品の中でも、人々の感性に訴えかける、非常にモニュメンタルな作品となりましたね。

隈:僕は今まで「自然素材を建築に取り戻す」ということをずっとやってきていて、どちらかというと木や和紙など、柔らかい素材を中心に扱ってきました。ところが、所沢の武蔵野台地というのは地球の核とつながったような非常に不思議な力がある場所だと感じ、その場所の力を表現するには、石が適していると思いました。それで、石という素材に初めて本格的に挑戦した建物が、角川武蔵野ミュージアムなんです。非常に強いパターンを持っている花崗岩に対して極限まで粗い表面仕上げをして、あのような「石そのもの」みたいな建物を造ってみたのですが、周囲の武蔵野の景観に対してうまくバランスが取れたので、自分でも非常に満足しています。

―国立競技場をはじめ、東京のシンボル建築に次々携わられている巨匠・隈研吾も、その道のりは決して平たんではなかったそうですね。

隈:僕が大学を出て社会に飛び出した頃、1980年代の日本の建築界というのは本当に居心地が悪かったんですね。「完璧に抽象化された空間こそが美しい建築だ」と、もてはやされる空気が漂っていて、人間が置き去りにされて建物が造られているように感じました。それで1年間ほどニューヨークに飛び出した後、日本に戻って自分の事務所を立ち上げました。しばらくはバブル景気で仕事があったのですが、すぐにバブルがはじけて東京の仕事が全部無くなってしまいました。そんな状況で時間を持て余していたところ、高知県の山中にある梼原という町の木造芝居小屋の保存運動をやっている友達に誘われて、その梼原町に行くことになりました。すると、そこには東京の息の詰まる感じとは全然違う雰囲気があり、「日本のこういう山の中の暮らしってなんて魅力的なんだろう」と魅了されました。梼原町の人たちともすっかり意気投合し、自分にとってはある種ふるさとのような感覚で、結局30年間に、6軒の建物をその町で設計することになりました。「地元の職人さんと一緒に、現地の素材を使って建物を造るということが、どれほど楽しいものなのか」ということを僕も学ばせてもらいました。その梼原で学んだ方法が、その後の自分の仕事のベースになり、ヨーロッパやアメリカで仕事をするときも、その方法を自分の建築の核にして建築を造っていくことができるようになりました。

 

角川武蔵野ミュージアム 全景 撮影:新津保健秀

角川武蔵野ミュージアム 本棚劇場 撮影:藤田紘那

国立競技場(日本) 2020 ⒸJAPAN SPORT COUNCIL

 

―地域との交流という意味では、新潟県の長岡市役所《アオーレ長岡》も忘れられないプロジェクトだそうですね。

隈:長岡市は人口27万人ほどのそこそこ大きな街ですが、中央市街地では空洞化が進んでおり、それを憂えた当時の長岡市長・森民夫さんと一緒に長岡市役所の設計に取り組みました。僕にとって大規模な市役所建築は初めての経験でしたが、長岡市には越後杉や小国和紙など良い素材がたくさんありましたので、そういう地元の素材をふんだんに使い、結果的に普通の堅いイメージの市役所とは違う、温かい質感を持った市役所が完成しました。三和土(たたき)を使って昔の農家の土間のようなイメージで仕上げた共有スペースは、市民の皆さんに自分の居間代わりに使ってもらえるようになり、年間100万人以上が訪れる市役所になりました。「人間はやはり質感に反応するんだな」と改めて思いましたし、「こんな公共建築もできるんだ」という手応えを得たプロジェクトでした。  

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