「杉本博司 絶滅写真」展が東京国立近代美術館で開催(2026年6月16日[火]~9月13日[日])
文・撮影=藤田博孝(ONBEAT編集部)

展示風景:1章「時間・光・記憶」より〈海景〉シリーズ
さまざまな領域で活動する現代美術作家、杉本博司 (1948) は、小田原文化財団 江之浦測候所をはじめ建築分野でも活躍し、日本の古典芸能など舞台芸術の演出では国内のみならずヨーロッパ数都市や
ニューヨークにも進出している。そのほか書、陶芸、和歌、料理など多岐にわたって才能を発揮する杉本の芸術の原点は銀塩写真にある。
確たるコンセプトに基づく独自の表現による杉本の作品は、銀塩写真の技術としても頂点を極めるものであるが、写真がデジタルに置き換わった今、その技法はまさに「絶滅が危惧される」ものと言える。
本展では杉本の初期(1970年代後半) から現在に至る銀塩写真約60点を展観するほか、所蔵品ギャラリー3階では東京国立近代所蔵の杉本作品を全点、また制作の秘密を明かす未公開資料 「スギモトノート」(写真作品制作における、撮影時および暗室での作業工程の覚書を記したノート)をサテライト展示する。

展示風景:3章「絶滅写真」より〈肖像〉シリーズ
本展は、初期から近作まで全13のシリーズを3章構成で展示し、ゆるやかに時系列に沿いつつ杉本博司の作品世界の展開をたどる。
その1章では、1970年代から80年代に着手され、杉本の評価を確立することになった〈ジオラマ〉〈劇場〉〈海景〉シリーズなどにより、作品世界の始まりを紹介する。
また2章「観念の形」では、人間の知性や想像力がつくりだしたさまざまな「かたち」を主題とした〈建築〉〈観念の形〉〈スタイアライズド・スカルプチャー〉の90年代末から展開されたシリーズにより、作品世界が拡張・深化していくプロセスを紹介する。
そして3章「絶滅写真」では、終焉を迎えつつある銀塩写真というメディアの始原にさかのぼる〈前写真、時間記録装置〉〈フォトジェニック・ドローイング〉から〈肖像〉、近作〈Opticks〉まで、6つのシリーズにより、杉本が予見する“絶滅”をめぐるヴィジョンの行方を探る。

展示風景:3章「絶滅写真」より〈Opticks〉シリーズ
本展を鑑賞して驚かされたことの一つは、杉本作品を鑑賞するために調整された照明があまりに完璧なため、観客を含めた展示風景もまた杉本作品のように見えてくるということだった。
作品の素晴らしさは言うまでもなく、リアルを超えたリアルがそこにあった。杉本はPHOTOGRAPHYという英語を「私なら『抜霊画』と訳しただろう」と語っているが、杉本の写真はまさしく「抜霊画」だと感じた。
また、冒頭の1章が〈ジオラマ〉シリーズの類人猿をモチーフとした写真で始まり、最後の3章がプリズムで分光した光で彩られた〈Opticks〉シリーズで終わるという展示構成は、人類の始まりから絶滅までを見つめる杉本の壮大な視座も相まって、筆者にSF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』を連想させた。
作品に添えられた杉本の解説文や味わい深い和歌も、作品を深く鑑賞する助けとなった。
さまざまなものが急速にデジタルに置き換えられ、AIが台頭する現代において、杉本の芸術が我々に提示する「問い」や「美」に向き合うことは非常に有意義な時間となるだろう。
強固なコンセプトに裏打ちされた、杉本博司の深遠な表現に浸ることのできる本展は、9月13日(日)まで。
本展の見どころ(プレスリリースより)
初公開の新作
本展では初期代表作として知られる〈ジオラマ〉 〈海景〉のシリーズ、 そして〈スタイアライズド・スカルプチャー〉 〈Opticks〉 において、 初公開となる新作の展示を予定しています。 とくに杉本のデビュー作として知られる 〈ジオラマ〉では、 《ポコット族》 などいくつかの新作を加えた構成により、 1975年、シリーズの始まりからひそかに構想され、 半世紀を超えてついに実現に至った、人類史をめぐる深淵なストーリーが初めて提示されます。
”絶滅”をめぐって
本展のタイトルでもある 「絶滅写真」 とは、作家のステートメントにもあるように、 銀塩写真というメディアの終焉と自らの作家活動の終幕を見すえて浮上した主題です。 しかし本展で示される “絶滅”をめぐるヴィジョンとは、それにとどまるものではありません。 それではいったい何が “絶滅” しようとしているのか? 半世紀にわたって写真というメディアによる表現の可能性を拡張・深化させてきた杉本の作品世界の全体像を見わたす本展において、通奏低音として示される“絶滅” という主題にご注目ください。
杉本博司 略歴
1948年生まれ。 1970年渡米後、1974年よりニューヨークと日本を行き来しながら制作を続ける。
初期代表作に 〈ジオラマ〉〈海景〉〈劇場〉シリーズがある。 2008年に建築設計事務所 「新素材研究所」、2009年に公益財団法人小田原文化財団を設立。2017年には構想から10年をかけて建設された文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」を開設。
古美術蒐集、 舞台芸術など活動分野は多岐にわたり、 演出と空間を手掛けた 『At the Hawk’s Well/鷹の井戸』が2019年秋にパリ・オペラ座にて上演。
著書に『苔のむすまで』 『現な像』 『アートの起源』 『江之浦奇譚』 『影老日記』 などがある。 2001年ハッセルブラッド国際写真賞、 2009年高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門) 受賞、2010年秋の紫綬褒章受章、2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲。
2017年文化功労者に選出、2023年日本芸術院会員に就任。
杉本博司 絶滅写真 HIROSHI SUGIMOTO: EXTINCTION
会期:2026年6月16日(火)~ 9月13日 (日)
開館時間:10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00) 入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし7月20日は開館)、 7月21日
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
主催:東京国立近代美術館、 日本経済新聞社
特別協賛:DIOR
協賛:セイコーグループ、サンエムカラー
特別協力:公益財団法人小田原文化財団、 ギャラリー小柳
観覧料:一般 2,300円 (2,100円)、 大学生 1,200円(1,000円) 高校生 700円 (500円)
※いずれも消費税込)内は20名以上の団体料金、ならびに前売券料金 [前売券販売期間:4月21日 (火) 10:00−6月15日 (月) 23:59] 中学生以下、障害者手帳をご提示の方とその付添者(1名)は無料
※本展の観覧料で入館当日に限り、 所蔵作品展 「MOMAT コレクション」(4-2F) もご覧いただけます
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト: https://art.nikkei.com/sugimoto/
開館記念特別講演会 「絶滅について」
日時:2026年6月20日(土)14:00-15:30
登壇者:杉本博司、浅田彰(京都芸術大学教授·批評家)、増田玲(東京国立近代美術館 主任研究員)
会場:東京国立近代美術館 地下1階講堂
※詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。