自らが生きる場所について問う
初の大規模個展「今津 景 タナ・アイル」

文=ONBEAT編集部、写真・動画=株式会社いろいろ提供、展示風景写真=藤田絋那撮影

展示風景

今津景(1980- )は、インターネットやデジタルアーカイブといったメディアから採取した画像を、コンピュータ・アプリケーションで加工を施しながら構成、その下図をもとにキャンバスに油彩で描く手法で作品を制作している。今津は、2017年インドネシアのバンドンに制作・生活の拠点を移し、近年の作品は、インドネシアの都市開発や環境汚染といった事象に対するリサーチをベースにしたものへと移行している。それらは作家自身がインドネシアでの生活の中でリアリティを持って捉えたものだ。

「Anda disini / You are here」カスヤの森現代美術館展示風景 2019 photo: 岡田顕 courtesy of MUSEUM HAUS KASUYA courtesy of MUSEUM HAUS KASUYA

同時に、今津は現在起きている問題の直接的な表現にとどまらず、さまざまなアーカイブ画像を画面上で結びつけることで、インドネシアの歴史や神話、生物の進化や絶滅といった生態系など複数の時間軸を重ね合わせ、より普遍性を持つ作品へと発展させている。地球環境問題/エコフェミニズム、神話、歴史、政治といった要素が同一平面上に並置される絵画は、膨大なイメージや情報が彼女の身体を通過することで生み出されるダイナミックな表現だ。

展示風景

本展は、 近年国内外で注目を集める今津の初めての大規模個展。 タイトルにある「タナ・アイル」 とは、インドネシア語で「タナ (Tanah)」 が土、 「アイル (Air)」 が水を指し、 故郷を意味する言葉です。 現在生活するインドネシアと自身のルーツである日本という二つの土地での経験と思考にもとづく今津の作品は、鑑賞者に対しても自らが生きる場所について考える契機となることでしょう。

展示風景

開催概要

会期:2025年1月11日(土)~ 3月23日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー1, 2)
開館時間:11:00-19:00(入場は18:30まで) 休館日:月曜日(祝休日の場合は翌火曜日)、2月9日(日曜日・全館休館日)
入場料:一般 1400[1200]円/大・高生 800[600]円/中学生以下無料
*同時開催「紙の上の芸術|収蔵品展082 寺田コレクションより」、「project N 97 福本健一郎」の入場料を含みます。
*[ ]内は各種割引料金。 *障害者手帳等をお持ちの方および付添1名は無料。 *割引の併用および入場料の払い戻しはできません。

みどころ

今津の作品には、さまざまなメディアから採取した画像がモチーフとして採用される。特にインドネシアに移住した後は、その土地で経験した様々な事柄、インドネシアの歴史や神話、都市開発や環境問題に関するイメージが画面に配置されている。

《Hainuwele》2023 油彩、ジュート 350×800 cm トゥムルン美術館(インドネシア) courtesy of The Artist and ROH

①神話「ハイヌウェレ」
インドネシア・セラム島の神話。ハイヌウェレとは、ココナッツから生まれ、自分の排泄物から異国の宝物を生み出す力を持つという女性の名前。その神秘的な力を恐れた男たちによって生き埋めにされてしまいますが、彼女の遺体を切断し土地に埋めると、そこからさまざまな芋が育ち、島の人々を支えたといわれている。今津はこの神話を、フェミニズムや植民地史などさまざまな角度から読み解き、さらに自身の出産といった個人的な体験と結びつける。

《When Facing the Mud(Response of Shrimp Farmers in Sidoarjo)》油彩、アクリル、泥、UVプリント、キャンバス 194×388 cm 2022 個人蔵 courtesy of The Artist and ROH

②開発と環境汚染
インドネシアで生活する今津にとって、先進国により繰り返される資源の収奪や、その結果生じている地球規模での環境問題は、日々リアリティを持って捉えられるもの。今津は「世界でもっとも汚染された川」と呼ばれるチタルム川や、シドアルジョの天然ガスの採掘現場でおこった泥火山の噴出とそこで暮らす人々の生活など、現地を取材した作品を制作している。

《Anda Disini (You are here)》2024 油彩、キャンバス 300×200 cm 作家蔵 courtesy of The Artist and ROH

③日本とインドネシア
インドネシアは、近代にはオランダの植民地とされ、また第二次世界大戦時には日本の占領下におかれた。今津は、さまざまな歴史資料のイメージを画面上に引用することで、現在生活するインドネシアと自身のルーツである日本との関係を批評的に思考し、自らの立ち位置を確かめるように絵画を制作している。

《Bandoengsche Kininefabriek》2024 ミクストメディア サイズ可変 作家蔵 courtesy of The Artist and ROH

④平面から空間へ
近年、今津の創作は絵画に留まらず、3Dプリンターによる巨大な立体作品や、インスタレーションなど空間へと展開している。本展覧会でも、バンドンで行われていたというマラリアの特効薬であるキナの栽培をめぐる、新作インスタレーションが展示されるほか、会場内には骨格標本や土器などの巨大な彫刻が点在し、会場全体を通して今津の作品世界を楽しめる。

展示風景

展示風景

展示風景

展示風景

展示風景

開催概要

会期:2025年1月11日(土)~ 3月23日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー1, 2)
開館時間:11:00-19:00(入場は18:30まで) 休館日:月曜日(祝休日の場合は翌火曜日)、2月9日(日曜日・全館休館日)
入場料:一般 1400[1200]円/大・高生 800[600]円/中学生以下無料
*同時開催「紙の上の芸術|収蔵品展082 寺田コレクションより」、「project N 97 福本健一郎」の入場料を含みます。
*[ ]内は各種割引料金。 *障害者手帳等をお持ちの方および付添1名は無料。 *割引の併用および入場料の払い戻しはできません。

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