シシド・カフカの『12周年記念ワンマンライブ「EDDY」』を詳細レポート。そのほか多方面にわたる活動をチェック!
文:藤田博孝(ONBEAT編集長)
弊誌最新号『ONBEAT vol.21』でもインタビュー記事とともに特集紹介したシシド・カフカが、去る10月14日(月・祝)にデビュー12周年を記念して恵比寿 ザ・ガーデンルームにて『12周年記念ワンマンライブ「EDDY」』を開催した。
本公演のタイトルは、シシド・カフカがソロデビューする前に組んでいたバンド名が「eddy12」だったことに因んで付けられたという。
ドラム&ヴォーカルという世界でも稀で、難易度の高い演奏スタイルに挑戦し続けてきたシシドの久し振りのソロライブということで、会場は開演前から熱気に包まれていた。
キーボード奏者が奏でるオープニングのSEによって観客の期待が最高潮に達すると、「Hoo Hoo!」の掛け声とともに1曲目の《100年ビール》(2013年発表の1stアルバム『カフカナイズ』に収録)がスタートした。「ビール ビール 今日もビール、100年分飲み干しちゃいましょう」と連呼するサビを持つこの曲は、12周年を記念するパーティーの始まりにはぴったりのキラーチューン。
ディオニューソスやバッコスのためのアンセムのような曲調に乗せられ、観客は既にノリノリだ。
続く2曲目は、2ndシングル『music』(2013年)に収録されていた《リカバリー》(アルバム未収録)。印象的なベースリフが生み出す独特なグルーブはご機嫌で、意表を突く選曲にやられてしまう。
そのままの勢いで3曲目の《music》へと流れ込む。ループするギターのフレーズが疾走感を高めるこの曲はカフカファンには言わずと知れたライブの定番だ。
そして息つく間もなく始まった4曲目はデビューシングルの《愛する覚悟》(2012年)。ここまで一気呵成にアップテンポの曲を披露したが、その出来栄えは天晴なものだった。
▲(左)シシド・カフカ 1stアルバム『カフカナイズ』初回限定盤 (CD+DVD) 2013年 (右)シシド・カフカ 2ndシングル『music』初回限定盤 (CD+DVD) 2013年
ドラムを叩きながら歌っているにも関わらず、シシドは十分な声量で艶と迫力を兼ね備えたヴォーカルを聞かせる。また歌いながら叩くことによって、歌の呼吸と楽曲のアクセントがシンクロして、単独でドラムを叩くことでは生み出せない、シシド・カフカならではのグルーブが生まれるのだ。やっている本人は大変なことこの上ないが、シシド・カフカのライブの醍醐味はここにある。
また、カフカはほとんどの楽曲の歌詞を手掛けている。啖呵を切るように潔い彼女の歌詞には、彼女自身のキャラクターや生き方がにじみ出ているのだろう。
それは前述の《愛する覚悟》のようなラブソングであっても例外ではない。
ダーリン見くびらないで
覚えていて
愛する覚悟は
死ぬまで続く
終わりはないのです
真正面から愛することに対峙する情念的な歌詞は、昭和歌謡にも通じるものがある。
実際にカフカが山口百恵の大ファンであることはファンの間では有名な話だが、今回のライブでは「昭和歌謡コーナー」が設けられ、5曲目はサザンオールスターズの《夏をあきらめて》、6曲目は中森明菜の《飾りじゃないのよ涙は》のカバーが披露された。
桑田節には意外なほどシシド節がしっくりはまり、中森明菜のカバーはシシドのイメージ通りで、両曲とも歌の世界に浸ることができた。
続く7曲目に絶妙の流れで演奏されたのが、クレイジーケンバンドの横山剣が作詞・作曲し、カフカに提供した昭和テイスト満載の楽曲《羽田ブルース》(2018年発表の3rdアルバム『DOUBLE TONE』に収録)。
横山剣とのデュエットとしてレコーディングされたこの曲を、シシドは正面のスクリーンに歌詞を映し出すことで、観客とデュエットできるよう演出した。
♥覚えてらっしゃい ♠忘れらんない
♥こんないい女 ♠SEXY SEXY SEXY
♥泣かしたこと ♠許してちょうだい
♥後悔させてやる ♠ショック!
ファンにとっては、カフカと一緒にカラオケボックスに入ったような疑似体験ができるのでこの曲は今後ライブの定番になるだろう。お客さんがこなれてくれば相当面白い掛け合いになるはずだ。
「昭和歌謡コーナー」が終わると、デビュー以来不動のバンドメンバーと共にスライド画像を交えて12年間の歩みを振り返ったり、カフカの人物像についてメンバーが答えたりするトークコーナーが始まった。
カフカがデビュー当時に身に着けていたネックレスやブレスレットは母親の手作りだったことや、ライブのチラシをイラストや文字に至るまで全て彼女が手書きで制作していたことなど、興味深いエピソードが披露された。
また、カフカの人物像についてベーシストが「真っ当な人」と回答したことに対して、彼女の音楽性や活動などを通じて同様に感じていた筆者も「我が意を得たり」と納得した。
▲(左)シシド・カフカ 1stミニアルバム『Kの累乗』[CD+DVD]初回限定・紙ジャケット仕様 2015年 (右)シシド・カフカ 2ndアルバム『トリドリ』2016年
トークコーナーが終わると、8曲目はドラムを叩かずハンドマイクでシシドがデビュー当時から歌ってきたというバラード《いつまでも》(アルバム未収録:2022年にデビュー10周年記念のアナログ盤としてリリース)を披露。
続く9曲目はドラムを叩きながら、バラードの《最低な夜のあと》(2016年発表の2ndアルバム『トリドリ』に収録)を情感たっぷりに歌い上げた。
R&B調ではない昭和歌謡ゆずりの素直な歌いぶりが逆に新鮮で心地よい。
ディズニー/ピクサー映画『リメンバー・ミー』の日本画版エンドソングにシンガーとして抜擢された要因もそこにあるのだろうと推察する。
▲シシド・カフカ デビュー10周年記念アナログ盤「いつまでも 2022ver.」「いつまでも〜original」
バラードを二曲披露した後は、フィナーレに向かってバンドはエンジン全開で会場を盛り上げていく。
10曲目の《無敵のロックスター》、11曲目の《2つの太陽》、12曲目の《ラブコリーダ》は、いずれも10年以上前に発表した1stアルバム『カフカナイズ』からの楽曲だ。
そうした楽曲や当時のシングル曲が全く風化していないこと、そして演奏力が力強さと円熟度を高めていることは特筆に値する。
それは安易に流行に乗らず、ポップでありながら骨太で「真っ当な」バンドサウンドを、チームとして追及してきたからにほかならない。
本編ラストに演奏された《タチアガレ》(2017年発表の2ndミニアルバム『DO-S』に収録)は、さまざまなコピーライティングを手掛ける渡辺潤平がカフカの個性にぴったり合った歌詞を提供した楽曲だ。
「返事がない!」、「元気がない!」、「ガンガン攻めて散るの 燃えて燃えて 立ち上がれ今!」などと聴き手を鼓舞するような歌詞と、観客がシンガロングできるパートを備えたこの曲は、カフカのセットリストに不可欠なアンセム的存在に定着するだろう。
▲(左)シシド・カフカ 2ndミニアルバム『DO_S』2017年 (右)シシド・カフカ 3rdアルバム『DOUBLE TONE』2CD+DVD (初回デジパック仕様) 2018年
アンコールの1曲目は、《リメンバー・ミー》(2018年発表の3rdアルバム『DOUBLE TONE』に収録)を披露。
前述の通りこの曲はディズニー/ピクサー映画のエンドソングであるが、このシチュエーションで演奏されると、シシドが観客に向かって「みんな、次のライブまで私を覚えていてね(リメンバー・ミー)」と呼びかけているように聞こえてくるから面白い。コンサートの終盤にぴったりの選曲だ。
カフカの「これをやらないわけにはいかないでしょう!」という掛け声で最後に演奏されたのが、甲本ヒロトが作詞・作曲を手掛けた《バネのうた》(2015年発表の1stミニアルバム『K5(Kの累乗 )』に収録)。「5 4 3 2 1 ビヨ~ン」という甲本らしいユニークなリフレインが効果的なこの曲はフィナーレを飾るには持って来いの楽曲で、会場は大いに盛り上がった。
内容盛りだくさんのライブを体験した後で改めてそれを振り返ると、シシド・カフカは12年というキャリアの中で、自らを表現するための優れた楽曲を数多く獲得してきたのだと再確認させられた。それを可能にしたのは彼女の人間力、求心力、タフな持続力であろう。このシシド・カフカの「真っ当な」バンドサウンドの面白さを、もっともっと多くの人々と共有したいと心から思った。
カフカはまた、2018年からはハンドサインによる即興演奏でリズムを奏でてセッションしていくパーカッション・プロジェクト「el tempo(エル・テンポ)」をディレクションしている。
彼女がこのプロジェクトを始めたのは、そのサインシステム「Rhythm with Signs」を使った音楽の楽しさをブエノスアイレスで体験したことがきっかけであり、el tempoもRhythm with Signsを土台に即興演奏を行っている。
そして来たる11月24日(日)、そのサインシステムを開発したブエノスアイレス出身のパーカッション奏者、サンティアゴ・バスケスとel tempoが「SHIBUYA DIVE」にて遂に共演を果たす。
どんな内容になるのか期待して待ちたい。
また、カフカは昨年9月に始動した〈シシド・カフカ「ハードロック計画」〉から誕生したバンド「BONE DAWN」に、ドラマー専念という形で携わっている。
今年8月にデビューライブを果たしたBONE DAWNは、12月12日(木)には原宿RUIDOで三度目のライブを行うことが決まっており、こちらはバンドの成長を見守るのが楽しみなプロジェクトとなっている。
音楽活動のほか女優、モデルなど、多面的に活躍する稀有な存在、シシド・カフカの独占ロング・インタビューを弊誌『ONBEAT vol.21』に掲載している。
ドラム・ヴォーカルとしてデビューするまでの紆余曲折や、その後のさまざまな活動までを網羅した内容となっているので、興味のある方にはぜひご一読いただきたい。
el tempo with Santiago Vazquez
会期:2024年11月24日(日)
時間:開場 16:00 開演 17:00
チケット:¥7,000(税込・ドリンク代別途)
場所:渋谷DIVE(東京都渋谷区東2-22-5 シブロジ1F / B1)
一般チケット発売(先着順)
:https://eplus.jp/sf/detail/4181030001-P0030001 /
BONE DAWN 「原宿RUIDO presents TAKESHITA GIG」
会期:2024年12月12日(火)
出演:BONE DAWN / THE&
時間:開場 18:15 開演 19:00
チケット:前売り ¥4,000 当日 ¥5,000(ドリンク代別途)
場所:原宿RUIDO(渋谷区神宮前1-15-2)
チケット発売
:https://eplus.jp/sf/detail/4209280001-P0030001https://eplus.jp/sf/detail/4181030001-P0030001 /