「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2024」において、ヴィヴィアン・サッセン「PHOSPHOR|発光体:アート&ファッション 1990–2023」が京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)にて開催中!(2024年4月13日[土]~2024年5月12日[日」)
「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」は、世界屈指の文化都市・京都を舞台に開催される、日本でも数少ない国際的な写真祭だ。一千年の長きにわたって伝統を守りながら、その一方で先端文化の発信地でもあり続けてきた京都。その京都がもっとも美しいといわれる春に開催される。
日本および海外の重要作品や貴重な写真コレクションを、趣のある歴史的建造物やモダンな近現代建築の空間に展開し、ときに伝統工芸職人や最先端テクノロジーとのコラボレーションも実現するなど、京都ならではの特徴ある写真祭を目指す。
KYOTOGRAPHIEの共同設立者/共同代表のルシール・レイボーズと仲西祐介は、2011年の東日本大震災で日本と海外の情報交換の稀薄さを目の当たりにした。それはおのずと双方の情報を対等に受信発信する、文化的プラットフォームの必要性への確信となった。日本はカメラやプリントの技術において世界を先導しているにもかかわらず、表現媒体としての「写真」はまだまだ評価されていない。二人はここに着目し、「写真」の可能性を見据えるべく国際的フェスティバルを立ち上げた。
2024年は「SOURCE」をテーマに、12の会場で13の展覧会を展開。
二人は今回のテーマについて、以下のメッセージを寄せている。「源は初めであり、始まりであり、すべてのものの起源である。それは生命の創造であり、衝突が起きたり自由を手に入れたりする場所であり、何かが発見され、生み出され、創造される空間である。人生の分岐点にかかわらず、私たちは岐路に立っており、原点に戻るか、 新しいことを始めるかの間で揺れ動いている。 生命、愛、痛みのシンフォニーが響き渡るのは、この神聖な空間からなのだ。 その源で、無数の機会が手招きし、何か深い新しいものを約束してくれる(プレスリリースより一部抜粋)」。 SOURCEを探求し、オルタナティブな未来を望む。
ヴィヴィアン・サッセン「PHOSPHOR|発光体:アート&ファッション 1990–2023」
KYOTOGRAPHIEは、ヴィヴィアン・サッセンの日本初となる大規模個展を開催。
本展は2020年から続くMEP(ヨーロッパ写真美術館 フランス パリ)とのパートナーシップの一環であり、2023年にMEPで開催されたヴィヴィアン・サッセンの回顧展の巡回となる。
本展では多様性あふれる十数のシリーズ作品を展示するとともに、過去作、未発表作品、ビデオインスタレーションなど、200点以上の作品を通じサッセンの30年にわたる創作活動の足跡をたどる。表層と深層、静謐さと力強さという両極で揺れ動きながらもそのあわいにある本質を浮かび上がらせることで、サッセンがいかに作品を繊密に作り上げていくかについて迫る。
ヴィヴィアン・サッセン(1972年生まれ、アムステルダム在住)はファッションデザインを学んだ後、オランダのユトレヒト芸術大学で写真に取り組む。1992年に卒業してからは、アーティストおよびファッションフォトグラファーとして写真に専心。そうしてアートとファッションという異なる2つの領域を横断することで、作品における鮮やかな色彩、仕掛け、フレーミング、被写体へのアプローチにおいても異彩を放ち、唯一無二で多彩な視覚表現を生み出している。
子どもの頃にアフリカで育ったバックグラウンドや、文学や美術史も、サッセンにインスピレーションを授けている。またシュルレアリスムの遊び心、曖昧さ、神秘性にも通じるものを見出し、作品にもその影響が見受けられる。死、セクシャリティ、欲望、他者──そのすべての関わりが、写真や映像、ペインティング、コラージュを組み合わせる作品群を構成するモチーフへと昇華されている。そうしてリサーチプロジェクトさながらに、サッセンは首尾一貫したコンセプチュアルな作品を生み出すことで、自身を捉えて離さない観念の深淵へと踏み入る。サッセンの作品が持つさまざまな表情が、本展であらたに解き明かされることだろう。
Etan & Me, 2023
Etanと私2012年のスリナム訪問時、ヴィヴィアン・サッセンはEtanに出会います。Etanはピキン・スリーの村にあるサマカ・マロン博物館で料理人として働いていました。サッセンはEtanのポートレートを10枚ほど撮り、それらを鏡面加工された紙に映った自分自身の顔がぼんやりと映るセルフポートレートと対比させました。《Etan & Me》は、人間関係の複雑さに焦点を当てています。私たちは他人や自分に何を投影しているのでしょうか?他人や自分自身を完全に理解することは可能なのでしょうか? このシリーズは心理的な肖像を描くのではなく、二人の間の出会いを明るみにし、それでいて彼らの謎を保持しています。
Pikin Slee, 2012
ピキン・スリーピキン・スリーはスリナム共和国のスリナム川上流にあり、集落の中で2番目に大きな村です。住民の大部分は、18世紀にオランダのプランテーションから奴隷制を逃れたサラマッカ人の子孫たちです。サラマッカ人は外の世界から隔てられた生活を送っており、彼らの村へ行く唯一の手段は川を使うことで、これにはカヌーで数時間かかります。2012年にサッセンは、サラマッカ人の歴史や、彼らとアフリカ・オランダとのつながりに自身のバックグラウンドと通じるものを感じ、ピキン・スリーを訪れました。
ピキン・スリーで撮影した写真は以前のサッセンの作品と異なり、演出されたものではなく、カラーと白黒が混在しています。しかし、ドキュメンタリーのような手法で撮影しているわけではありません。サッセンは彼女の美的センスを忠実に保ち、謎めいた被写体を撮影し、抽象的な構図を用いています。何よりも彼女は、対象や物質の彫刻的な特徴を強調することによって、日常生活の美しさを捉えようとしています。
Paint Studies, 2021
ペイントスタディインク、絵の具、コラージュを駆使して、サッセンは自身のアーカイブに収められた写真に新たな息吹を与えます。いくつかの作品では身体が塗料でふち取られ、大胆なタッチが写真の中の自分の姿かたちや動きを明らかにし、作品全体から被写体が浮かび上がってくるようです。一方、墓をモチーフにした〈Umbra〉シリーズでは、土と石の中に植物が生命を吹き込み、生と死、生命力と弔い、その両者の間に緊張を生み出しています。
SURREALIST SASSEN
サッセンとシュルレアリスム「魔法を信じないかもしれませんが、今、この瞬間にも不思議なことが起こっています」
レオノーラ・キャリントン『Le Cornet acoustique』(フラマリオン社 1974年)このセクションは、ヴィヴィアン・サッセンの近年のシリーズ(2017-2022)と、シュルレアリスムの芸術家であり作家であるレオノーラ・キャリントンの言葉からスタートし、その傾向――女性の体にはキノコが生え、混成生物が壁に沿って無秩序に踊り、物体や身体の断片が奇妙な風景と一体化している――を紹介します。〈泥と蓮〉(2017)と〈ペイントスタディ〉(2021)のシリーズを通じて、サッセンの最も実験的な作品が展示されます。サッセンはこれらの作品の多くを、自身のアーカイブの写真を加工し、絵の具やインク、コラージュを用いて生まれ変わらせています。とくに2017年以降は、人間の姿かたちと植物や動物の要素を意図的に融合させ、神話的な領域に達するかのような画づくりに注力しています。そのありありとした美しさはしばしば挑発的であり、世界とどう関わるかを鑑賞者があらためて再考させられるような、鮮烈な視覚表現となっています。
NEW NARRATIVES
Venus & Mercury, 2019
新たな物語:ヴィーナス&マーキュリー〈ヴィーナス&マーキュリー〉は、ヴェルサイユ給電の依頼により、アルフレッド・パックマンとジャン・ド・ロワジーがキュレーションした、トリアノン給電での展覧会「Visible / Invisible」のために制作された作品です。サッセンには6カ月間、時間外にヴェルサイユ宮殿への特別立ち入りが許されました。この間、彼女は宮殿のアーカイブを熱心に探究し、その遺物や建築を用いて新たな写真、コラージュ、ビデオインスタレーションの作品群を生み出しました。これらの作品には、遺物や書簡を通じて浮かび上がるエロティシズム、権力闘争、ジェンダーの不均衡、病気、そして死が反映されています。サッセンは、17世紀から18世紀にかけてのフランス宮廷の親密な歴史に関心を寄せていました。彼女は、その次代の社交界の中心を、現代の社交界と重ね合わせようとします。隣の町から若い女性たちを招き、ポーズをとらせて空間と関わり合い、宮廷の中心でそのプロジェクトに参加させて、現代の社会力学とその空間を遊び心でもって結び付けました。シリーズのタイトルは「ヴィーナス(金星)との一夜、マーキュリー(水星 / 水銀)との一生」ということわざにインスピレーションを得ています。中世において水銀は梅毒の治療に用いられました。人口の大半が罹患し、ヴェルサイユや宮廷の人々も免れることができなかった性病です。時として水銀治療が一生続くこともあったことから、このことわざが生まれたとされています。
Venus & Mercury, 2020
ヴィーナス&マーキュリー〈ヴィーナス&マーキュリー〉に収められた作品には、マリー・アントワネットの私的な書簡や彫刻の破片などが含まれており、ヴェルサイユ宮殿に隠された未知の物語をほのめかしています。このプロジェクトの核となるのは、サッセンの写真と、オランダの詩人マジョリーン・ファン・ヘムストラのテキストを女優ティルダ・スウィントンが朗読するインスタレーションです。これらの要素が組み合わさり、宮殿に秘められた秘密や隠された物語を伝えます。画像は二つのスクリーンに同時に映し出され、映像と音が一体となった渦のような空間を作り出し、見る者をその時代へと誘います。
THE DEVELOPMENT OF AN ARTISTIC LANGUAGE
芸術言語の形成ヴィヴィアン・サッセンの最新作品群あkら一歩戻り、1990年から2001年にかけて生み出された初期作品を振り返りましょう。展示の第2部では、これまで公開されていなかった貴重なアーカイブ資料を紹介します。学生時代のノート、最初のセルフポートレート、卒業制作の写真プロジェクト、そして初期のシリーズ〈Folio〉などです。これらをサッセンの後期作品と関連付けて見ることで、彼女の視覚言語の根底にあるものとその形成過程をたどることができます。身体を彫刻のように捉えるアプローチ、幾何学的形態や断片化、色、影、反射、絵の具の使い方に至るまで、その技術的な巧みさは、サッセンの初期作品がテーマ性においても視覚的な表現においても、すでに一貫性を持っていたことを示しています。
Folio, 1996
フォリオ「私は、彫刻のような形を求めています。目の前のカオスに、何らかの構造を見出そうとしています。カオスそのものに心惹かれるんです」
ドーン・エイズ「ヴィヴィアン・サッセン:写真家、シュルレアリスト、彫刻家」より、『Phosphor』収録(プレステル出版 2023年)1990年代には、ナン・ゴールディン、ラリー・クラーク、コリーヌ・デイなどが提示した、日常のリアルなイメージや親密な瞬間を捉える写真スタイルが流行しました。この潮流はサッセンにも大きな影響を与えました。彼女の〈フォリオ〉シリーズでは、親しい友人や家族を撮影しながらも、先人たちと異なる表現方法を切り開いていきます。サッセンは通常のドキュメンタリーや即興の写真とは異なるアプローチを撮り、モデルの動きを演出し、彼らの身体をまるで彫刻の材料のように表現しました。このシリーズでは私たちの日々の出来事にひそむ不思議や非日常性を浮き彫りにしています。
Emmeline, 2001
エメリンこれらの写真は、オランダのアーティストでありファッションデザイナー、エメリン・デ・ムーイとの共同作業から生まれました。撮影が行われ、かつてエメリンが暮らしていたこの建物には、教会関連施設とスペイン語圏の移民が利用する施設が入っていました。サッセンとエメリンは、建物内のさまざまな場所を使い、見つけたものを小道具や背景にしてセットを作り上げました。写真に映る女性たちはまるで背景に溶け込もうとしているかのように、本棚や植木鉢の後ろに隠れたり、ソファになりきったりしています。また、食卓の上で体を平らにしている姿は、まったく異なる動きを見せます。このシリーズは、サッセンの演出へのこだわりやユーモア、そして彼女の作品におけるコラボレーションの様相や、モデルへのリスペクトをあらわにしています。
Anna, 2011
アンナサッセンは、創作において身近な存在であるオランダのモデルであるアンナ・デ・ライクと撮影した写真を選りすぐり、映像としてまとめました。アンナは、サッセンの芸術的アプローチについて自身の見解を次のように語っています。「ヴィヴィアンと仕事をするとき、彼女が作り出す作品に純粋な力が宿っているように感じます。彼女が明確なビジョンを持っていることがすぐに分かります。時にはかなり官能的になることもありますが、決して「陳腐なセクシーさ」ではありません。もっと根源的で、もっと生々しい種類の官能性です」
ハウス・マルセイユでのサッセンの展示
「In and Out of Fashion」のためのインタビュー(2013年)
Modern Alchemy, 2022
現代の錬金術〈現代の錬金術〉は、シャンパーニュメゾンであるメゾン・ペリエ・ジュエの依頼のもと、言葉とイメージの対話を深める試みから生まれました。サッセンは哲学者エマヌエーレ・コッチャと、写真とエッセイが交錯してぶつかり合う作品を共同制作しました。そしてあらゆる生物における物質の創造性に驚嘆させられる空間を生み出し、視覚と思考が根底からくつがえされ、アップデートされるような現代の錬金術を確立しました。本展では、この本から数点のコラージュ作品が展示されています。人間、動物、植物は溶け合い、創造的な生き物となってまなざしを挑発します。その過程で、身体は自由に姿かたちを変え、自然のエネルギーと深く結びついたセクシュアリティがあらわれます。
Consequences / Cadavre Exquis, 2020
結果 / 優美な屍骸このコラージュ作品のシリーズは、サッセンによってユトレヒトのセントラル美術館で2020年に開催された「エロスの涙:モーズマン、シュルレアリスム、そして性たち」展に出品するために制作されました。〈結果 / 優美な屍骸〉は、アンドレ・ブルトンが著書の中で説明したように「何人かの人がそれぞれ文章や絵を描いていき、その共同作業が誰にもわからないように紙を折る」(『Dictionnaire abrégé du surréalisme』、1938刊行)といった、シュルレアリストのあいだでよく知られた遊びである「優美な屍骸」という共同制作の技法に基づいています。しかし、サッセンのプロセスはそれとは異なり、身体の断片をさまざまなオブジェ(水入れ、ロープ)、植物、動物(トカゲや鳥を含む)と結びつけながら、これらの大規模なアッサンブラージュ(寄せ集め)をひとりで作っています。奇妙で、愉快で、おぞましくもあるこれらの幻想的な存在は、このスペースのために特別にデザインされた新しい構成で壁面に展示されています。
Lexicon, 2013
用語集「光と影、色彩、そして人々――私の人生はアフリカ抜きには考えられません。彼の地に両親と再び戻ったのは、ケニアを離れてから10年後のことでした。夜、ベッドに横になると、孔雀の呼び声が聞こえ、戸惑いながら泣きました」
「失われたものと憧れ」ロバート・アマラーンによるインタビュー、『See All This』収録(2017年)2013年、サッセンはマッシミリアーノ・ジオーニが総合キュレーターを務めた第55回ヴェネツィア・ビエンナーレに招待されて参加し、〈Flamboya〉や〈Parasomnia〉のシリーズは、時間や場所にとらわれず、サッセンの作品に何度も登場するテーマを集めた用語集のような形態をとっています。死、追悼、欲望、夢、そして他者とのつながりが、〈Lexicon〉を通じて反復されます。展示された壁には、棺や墓、植物の写真がポートレートと交互に並べられています。これらのイメージには、日常と非日常の境界にあるあいまいさがあります。サッセンはこの微細な境界線で、彼女自身の希望と恐れを写真の主人公たちと繋げる、個人的な物語を見事に描き出しています。
ヴィヴィアン・サッセン / Viviane Sassen
1972年、アムステルダム(オランダ)生まれ、同地在住。ファッションデザインを学んだ後、ユトレヒト芸術大学(HKU)とアトリエ・アーネムで写真を学ぶ。彼女の作品は大規模な個展の対象となっており、「Lexicon」、Foto Kunst Stadforum(インスブルック、オーストリア、2017年)、「Umbra」、Deichtorhallen(ハンブルク、ドイツ、2017年)、「Umbra」、Museum of Contemporary Photography(シカゴ、アメリカ、2017年)などがある。サッセンは数多くのグループ展にも参加しており、2017年にピューリッツァー芸術財団、アムステルダムのライクスミュージアム、2018年に中国のCAFA美術館、2020年にサンフランシスコのマッケヴォイ芸術財団、2022年にヴィンタートゥールのフォトミュージアムなどがある。また、彼女の作品は2013年の第55回ヴェネツィア・ビエンナーレのメイン展示「The Encyclopedic Palace」で紹介された。2011年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)のインフィニティ賞(応用/ファッション/広告写真部門)を受賞。2015年にはドイツ写真アカデミーからダヴィッド・オクタヴィウス・ヒル・メダルを授与された。また、出版物でも数々の賞を受賞している。
開催概要
ヴィヴィアン・サッセン「PHOSPHOR|発光体:アート&ファッション 1990–2023」
会期:2024年4月13日(土)~2024年5月12日(日)
時間:10:00~18:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:4月16日、23日、30日、5月12日
会場:京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)
住所:京都市中京区烏丸通夷川上ル少将井町239
アクセス:地下鉄烏丸線「丸太町」駅 7番出口から徒歩1分
入場料:特別会場
各種KYOTOGRAPHIEパスポートもしくは限定無料チケット(オンライン配布)で入場
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※他の有料会場で単館チケット購入される場合は、ミニパスポートをおすすめします。