2023年9月30日(土)~2024年2月25日(日)まで、WHAT MUSEUMにて「感覚する構造 -力の流れをデザインする建築構造の世界-」が開催。
古代建築から現代建築、そして月面構造物まで、40点以上の構造模型が展示される。
1923年の関東大震災から、今年で100年が経つ。
我々人類は、地震力や風力をはじめ自然の力が及ぶ世界に生き、さらには地球という重力空間において、建築における力の流れをどうデザインしてきたのだろうか。
そうした力の流れや素材と真摯に向き合い、技術を駆使し、建築の骨格となる「構造」を創造してきたのが、構造デザインの世界だ。
「建築家」と構造を デザインする「構造家」の協働により、数々の名建築が生み出されているが、構造家や構造について詳しく紹介される機会は多くない。
構造家は数学や力学、自然科学と向き合い、計算と実験、経験を積み上げた先に、やがて力の流れが自身の中に感覚化し、感性を宿すといわれている。
このことから、WHAT MUSEUMでは構造デザインについて、模型を介して体感から理解を深める展覧会を企画。
本展では鑑賞者自身が構造模型を通して、構造デザインという創造行為の可能性とその哲学を体感することができる。
また、 建築の構造を「感覚」することで、自らが住む世界にはたらく力の流れと、その力と自身の感性との結びつきについて思考を促す。
本展は、導入展示と3つのテーマ展示で構成し、40点以上の構造模型が鑑賞できる。
導入展示では、古代から現代までの名建築の構造模型を通して、建築における力の流れを感覚的に捉えられる。
テーマ展示では、建築家・ 磯崎新、伊東豊雄、妹島和世+西沢立衛/SANAAと構造家・佐々木睦朗の協働を取り上げた展示から、佐藤淳らとJAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発中の月面構造物を紹介する展示、近年サステナブルな建材として注目される竹を使った建築作品の模型展示を展開。
なお2024年春からは、後期展「感覚する構造 -法隆寺から宇宙まで- 」を予定している。
1年を通して、建築構造の魅力を発信していく。
本展の見どころ
■月に人間が滞在するための月面構造物1/10の模型、本展初公開
■古代から現代までの名建築の構造模型を40点以上展示
■建築家・磯崎新、伊東豊雄、妹島和世+西沢立衛/SANAAと構造家・佐々木睦朗の協働による建築作品
■サステナブルな素材である竹の新たな可能性を切り拓く建築作品と原寸モックアップ模型
■47都道府県・全国構造マップ
■来館者が実際に触れて、体感できる構造模型
建築家と構造家の協働
日本では、建築家と構造家がコラボレーションして建築をつくるというスタイルは、世界的に見て最も一つの特徴といえるのではないだろうか。
建築家の名前は耳にするが、その陰には必ず構造家おり、一緒にアイデアを具現化していく。
本コーナーでは世界を代表する建築家の磯崎新、伊東豊雄、妹島和世、西沢立衛の協働に迫る。
建築界のノーベル賞といわれる「プリツカー賞」を受賞している4人の建築家と、構造家の佐々木睦朗とのコラボレーションの中から生まれた作品の模型を展示。
《せんだいメディアテーク》の作品ができるきっかけとなった伊東豊雄のスケッチと、それに応答する形でそれをどう実現させるか考えた佐々木睦朗のスケッチで、建築家の構造を象徴的なものとして掲げている。
双方のアイデアを刺激し合いながらいい建築が生まれていくことに最たる技術的な最後を飾るものとして、《せんだいメディアテーク》は構造的にも画期的な作品といえるだろう。
免震構造により、2011年の東日本大震災の際も建築自体がそのまま安全に維持したという。
《フィレンツェ新駅》は、力学的に合理的な形を見つけ出し、それを建築にしていくという考え方を磯崎新と佐々木睦朗の協働の中で、現代のテクノロジーに置き換えて考えられた作品だ。
力学的に安定する形を見つけ出し、そこから形態をブラッシュアップさせている。
宇宙空間へ
東京大学の佐藤淳教授とJAXAが共同開発をしている月面のベースキャンプ。
約半年間、酸素だったり植物を育てたりしながら4人が滞在するには、200平米ほどの大きさが必要だと考えられている。
月面構造物を考える上で宇宙に持って行くにあたり、ロケットの中でできるだけ軽量かつコンパクトに持っていくという点がポイントとなる。
また、広い空間をパッと展開できるような機構を考えて開発されている。
地球上には重力があり、それによって地震力、風力といった横の力が発生していく。
それに対して建物をどう安全につくっていくかということが必要になってくる。
例えば、宇宙空間で6分の1の重力になっている月であったり、その他の惑星であったり、そういった惑星や衛生の地表面に何かを構築する際にも、地球上、建築の構造という考え方が応用できるのではないかといったところから設計された。
建築の構造が活用できる場所になるのではないかと、期待できるプロジェクトだといえるだろう。
素材と構造
本コーナーには滋賀県立大学の陶器浩一という構造家と学生たちが作り出した格子状の構築物を展示。
建築物の素材を追究することと構造デザインは密接に連動している。
サステナブルな素材である竹に着目し、竹を活用した建築空間の可能性を提示。
今回は、竹という素材に着目。
竹は成長が早く、解体後もチップにして自然に返していけるため、これから注目するべき素材だといえる。
自然のものを削り出して薄くして集成材にすることで、非常に強度が高くなる。
杢の無垢だとこんなに細く成り立たないが、非常に強度がある部材だ。
強度が出てくると接合をどうするかということが重要になってくる。
古くからの接合方法・三方格子で、釘を使わずに3つのものを組み合わせており、非常に強固な結合部だ。
釘を使っていないため分解すればバラバラになり、別の所でも組み立てられるという観点からも、非常に環境に良い素材と方法であるといえる。
竹に注目し始めたきっかけは、2011年の東日本大震災の際に何もなくなってしまった中で、「地域の方が集える場所をまず作っていったらどうか」ということで現地へ向かった。
現地には何もなく、生活するだけで精一杯な中で竹林があった。
竹林の竹を使ってなんとか何かできないかと強度や曲げの実験を行い、それを使いながら学生たちと簡単にできる建築はないかというのがきっかけとなり、その後もこういったいろいろな構築物を作っている。
身近にある竹林を利用して建築をつくっていくというのは、これから均質ではないものをうまく活用しながらメンテナンスをして、物や空間を作っていくというのは、さまざまな可能性を秘めているのではないだろうか。
力の流れと建築
古代から現代までの名建築の構造模型を展示。模型を通して建築における力の流れを感覚的に捉える。
日本の伝統的な建築物の多くは、ドイツ語で「枠」を意味するラーメン構造で、その構造体の模型のほか、三角形のトラスを利用した《白川郷合掌造り民家-旧田島家》などが展示されている。
白川郷を実写として作られており、かなり正確な模型だ。
実際に触れられる作品もあり、触りながら仕組みというものを体感していただける。
47都道府県 構造MAP
建築の模型というのは、何かを作っていく上で重要なものであり、出来上がった姿をみんなで共有していく上でも、とても重要なツールであるといえるだろう。
しかしながら日本では、そういった建築模型をこれまできちんと十分に保管されてこなかったという背景があり、例えば、丹下健三の代表する《東京都庁舎》や《広島平和記念公園》などは、現在ハーバード大学に全部保管されている。
日本ではそうした建築の資料というのがなかなか十分に保管されていない背景の中で、寺田倉庫は保管環境を提供できる場所ということで、建築家のそういったニーズに答えるような形で、2016年にこの施設がオープンした。
建築家から預かっている模型が、ここには約600点ほどあり、温度と湿度が管理された場所で保管されている。
一つ大きな特徴としては、あくまで倉庫の場所を建築家が活用しているということで、1カ月に1平米を500円で場所を貸出し、そこに保管しているという。
いわゆる倉庫をそのまま見ていただく、保管と展示をイコールにした場所になっている。
実際に建った建築の模型だったり、未完に終わったものだったり、アンビルトの模型だけでしか実在しなかったりするものもあり、そういったところも見どころになっている。
開催概要
開催日:2023年9月30日(土)~2024年2月25日(日)
※後期 「感覚する構造 – 法隆寺から宇宙まで – 」は2024年春より開催予定
時間:11:00~18:00 ※最終入場 17:00
休館日:月曜(祝日の場合、翌火曜休館)、年末年始
会場:WHAT MUSEUM 1階
住所:東京都品川区東品川 2-6-10 寺田倉庫G号
入館料:一般 1,500 円、大学生 / 専門学生 800 円、高校生以下 無料
※同時開催のTAKEUCHI COLLECTION「心のレンズ」展の観覧料を含む
※チケットはオンラインにて事前購入可能
※本展会期中に何度でも入場できるパスポートを販売 展覧会パスポート 2,500円(本展と同時開催中の展覧会とセットで鑑賞可能)
※当ミュージアムの「建築倉庫」では、建築家や設計事務所からお預かりした600点以上の建築模型を保管しており、その一部を公開
料金:建築倉庫入場料 700円、セットチケット(本展入場料+建築倉庫入場料)2,000円