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菊地良博(右)と廣田郁也(左)。萬福寺にて

2023年1月29日(日)までの会期中の週末(金・土・日)、京都・宇治の禅寺、⻩檗宗大本山萬福寺の境内に位置する「萬福寺アーティスト・イン・レジデンス 香福廊」にて、「ワークインプログレス 菊地良博、廣田郁也」展が開催中だ。

同展では、第8期滞在アーティストに選出された菊地良博と廣田郁也が、11月より同所に滞在する中で、フィールドワーク・坐禅体験など重ね、 東アジア伝来の禅の哲学に触れ、制作した作品のほか、寺院や地域の人々との対話のプロセスなどを発表していく。

廣田郁也の制作方法はユニークで、絵筆を使わない。染料や水分で滲ませてたトイレットペーパー200ロールほどを、布の上に乗せ、乾くまで待つという。アナログな方法ではあるが、作家自身の手を離れ、植物が成長するかのように、また人間の細胞が増殖するかのように、有機的な模様が残る偶然性と、「そこに少しでも自分の痕跡を残したい」と語る廣田の意志が表れる。

廣田の作品は、布自体に染料で色がついているために、キャンバスに絵の具を塗る絵画に対して、「0地点にある」ともいえるだろう

また自分のイメージを超越し、浮遊感あるものを表現するために、いくつもの模様を組み合わせ一つの作品に仕上げるなど、自分の体を超えるサイズ展開をしており、没入感あふれる廣田の作品の前に立つと、その世界観に取り込まれ、自分がどこにいるかわからなくなる感覚さえある。

ここに並べられた作品も本来は組み合わせ、一つの作品になる

そうした廣田の没入感や浮遊感あふれる作品は、なぜ生まれたのだろうか。

その背景には、複雑な家庭環境で育ったことがあるという。廣田にとって、そうした環境を打破して生きるためには、想像を膨らませ、夢を見なければならなかったのだ。

「普段わたしたちはなにかしらのところに所属して生きていますが、そこにはルールがあるものです。そんな中、アートはそれらから離れ、個人として自由になる時間や機会を与えてくれます。そのために僕は一瞬でも没入感や浮遊感を与えるような作品を目指しています。そういう意味では、普段からアートをご覧になるような余裕のある方だけではなく、もう少しパブリックな場所で、家族や会社など組織や制度の中で生きづらさなどを感じている人や、子どもたちにも見てほしいと考えています」と廣田は語る。

この作品は、本来20mほどある作品で、3mほどのカーテンレールに吊るした状態で、ドレープ上になった部分に、染料や絵の具をかけたり、スプレーをしたりして制作しているという。

「これもまた狭い限られたスペースで、より自分の想像を超えた大きいものへ拡張していく」廣田ならではの作品といえるだろう。

その制作プロセスは、環境によって変わる自然の姿とも重なる。広大な萬福寺の自然を前に、廣田が今後どのような作品を展開するのか、愉しみだ。

一方、学生の頃から言語の構造や在り方に興味があったという菊地良博は、言語を視覚的に表現しようと試みている。
例えば足の指で油性ペンを持ち、文章を書き写したドローイングなどは、言語から意味を取り除こうと制作された。

このように、菊地自身は作品にテーマ性を強く持たせているものの、あえてそれらの意味を解体し、偶然性も大事にしながら制作することで、鑑賞者には疑問を残す。

例えば《BLACK CORRECTION》は、一見、美しい油絵だ。しかし、実は本作は24時間テレビのロゴに、イギリスの音楽レーベルのロゴを組み合わせたものだという。

「80年代、欧米を中心に、簡単にいろいろなものを組み合わせてつくる風潮がありましたが、それを真似するだけの日本の状況を風刺しています」

幼少期からパンク音楽などが好きだったという菊地だからこそ、こうした批評性のある作品が生まれたのだろう。

本作《BLACK CORRECTION》は、デュシャンの渦巻きの写真も引用しているという

また菊地を読み解くもう一つのキーワードとして、エロティシズムがある。

「人間は動物と異なり、言語を用いて労働を行い、社会生活を送っていますが、その対極として、性的な活動があります」

例えば、ポルノ小説を解体したシリーズの一作で、点字にする過程から抽出した要素を組み合わせた作品がある。赤字は校正の痕跡を、また楕円で囲われた部分は、文中のセクシャルな情報の濃度を上げようと塗りつぶした固有名詞の位置を表している。このように、抽象的な表現に落とし込む過程にも、その性質を強化する工夫を凝らしているという。エロティシズムと言語がセットになっている官能小説の解体は、菊地のコンセプトを強く表現した作品と言えるだろう。

かつてアダルトビデオ上のモザイクを消すために用いられていた詐欺商品(左)の模刻《Sex Alchemy》(右)。「映像に施された不可逆的な効果を除去することなど不可能である。このビジネスは金を生み出す魔法であり、このスカルプチュアはそのメタファーである」(菊地提供資料より)

《Optic Scissure》「この作品の最終的なイメージが色彩的に美しく、構成的に洒落ていようとも、これらの作品に使用されているのは、損壊部の肉を露出した人間の死体写真と、性器を露出したハードコアなポルノグラフィーである」(菊地提供資料より)

会期中の週末(金・土・日)には、実際に彼らが制作するプロセスも一部公開される。萬福寺の歴史と広大な自然も相まって、自分自身の内面と向き合い新たな発見を見出す機会にもなるだろう。ぜひそのプロセスに立ち会ってほしい。

Interview & Photo: H.F., text: A.N.

萬福寺

萬福寺

萬福寺

アーティストプロフィール:菊地良博

1980年宮城県生まれ。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。動物と峻別される、人間のみに現れる特質(言語、社会システムにおける性など)の論理的な否定的解体および再構築を、さらにはその行為者である自身の論理性の否定を、ドローイング、コラージュ、ペインティング、印刷、彫刻、映像、インスタレーション、写真など多様なメディアを用いて行う。それらは人間中心主義の再検討であり、真の反芸術召還へと向かう途上の行いである。

個展
2021 「VACCINE(ワクチン)」 ARTS ISOZAKI (水戸)
2019 「Flesh Generates(生成する肉)」 Gallery TURNAROUND (仙台)
2019 「Super Processor」 AISHONANZUKA (香港)
2015 「Solo Exhibition + Open Studio」 Autocenter (ベルリン)

グループ展 / アートフェア
2021 「HELLO KONNICHIWA」 AISHONANZUKA (香港)
2017 「VOCA展 2016」 上野の森美術館 (東京)
2016「ART COLOGNE」 (ケルン)
2015 「PROCESS」CMAE (アストゥリアス[スペイン])

アーティストプロフィール:廣田郁也

1989年、東京都生まれ。2012年に東京工芸大学アニメーション学科ゲームコース卒業。2014年京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)大学院総合造形領域修了。水分や色料を含ませた紙などを布の上に置き、襞、花びら、細胞のような模様を浮かび上がらせ、絵筆を使わない手法で作品を制作してきた。その布を木枠に張り、それらの木枠を自身の身体の届く範囲よりも少し大きなサイズに繋ぎ合わせた作品《transition game》が代表作。

グループ展
2022 「青山行不尽3:唐詩の道中日芸術家作品特別展」(浙江展覧館 中国/杭州)
2022 「あまがさきアート・ストロール」尼崎区役所 (兵庫/尼崎)
2022 「Collectors’ Collective vol.6 Osaka」 TEZUKAYAMA GALLERY (大阪/南堀江)
2021 「Colors -染めの世界」ギャルリ・オーブ  (京都/瓜生山)
2019 「将来を期待される新鋭染色作家展」染・清流館 (京都/烏丸)
2019「CROSS DOMAIN 交伹域」金鶏湖美術館 (中国/蘇州)
2018 「今、注目すべき若手アーティスト20名によるグループ展」ホテルアンテルーム京都 (京都/九条)
2017 「SQUARE 染 textile 3 」GALLERY ART POINT (東京/銀座)
2014 「混沌から躍り出る星たち2014」青山スパイラルガーデン (東京/青山)
2014「アートアワードトーキョー丸の内2014」行幸地下ギャラリー (東京/丸の内)

レジデンス
2018  「金鶏湖美術館」(中国・蘇州)

受賞
2014 「大学院賞(最優秀作品賞)」2013年度京都造形芸術大学 卒業展/大学院修了展

開催概要

開催日:2022年12月2日(金)~2023年1月29日(日)の毎週(金・土・日)
時間:10:00~16:30(イベントなどによって変更の可能性があります)
会場:黄檗宗大本山萬福寺 アーティストインレジデンス香福廊
住所:京都府宇治市五ケ庄三番割34
拝観料:大人500円 / 香福廊(セルフサービス)コーヒー500円(境内の香福廊入場時にご利用ください)

※香福廊では、滞在アーティストが萬福寺からインスピレーションを得て特別に制作したアート御朱印を展示するほか、土曜日10時から12時には、2022年夏季滞在アーティストの布弥(ふみ)が、訪れる方と対話をしながら、書き下ろしの御朱印を描きます(先着10名限定)。

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