くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの

「GO FOR KOGEI 2024」

文=ONBEAT編集部/撮影=藤田紘那

北陸から工芸の魅力を発信する取り組み「GO FOR KOGEI」。2020年に開始し、これまでに工芸を、それと隣接する現代アート、アールブリュット、デザインなどとともに横断的に紹介することで、豊かで広がりをもった姿として提示してきた。

第5回目となるGO FOR KOGEI 2024では、アルチザン、クラフトマン、デザイナー、アーティストが集まり、素材、技法、用途、表現といった近代工芸の特徴に改めて着目して、今日の多様な工芸と隣接するアートを紹介している。会場は、昨年からの継続となる岩瀬エリア(富山市)に、新たに金沢市の東山を加えて、二つのエリアで開催。金沢を代表する観光地「ひがし茶屋街」を擁する東山エリアでは、作品展示のほか2021年に実施した「工芸× デザイン13人のディレクターが描く工芸のある暮らしの姿」をもとに発展させた、「もの」と「こと」が織りなすイベントを開催し、「工芸、アートにおける哲学的なもの」と言える深みを提示する。

暮らしの中の、光、雨、匂い、音など、雑多な時間の中に存在する工芸は、単なる装飾物を超えてまちに溶け込み、社会と関わりを持つ事物として現れて、新たな価値と意味を加えていく。

※岩瀬エリアについてはこちらをご覧ください。

H-6|四知堂 kanazawa 川合優×塚本美樹(四知堂)

奥:川合優《経木の蓮弁皿》

温暖多雨に恵まれた気候を背景に、日本は膨大な森林資源を抱える。かつて大量に植えられた針葉樹の森を美しい山に戻すには、山に意識を向け木材を使ってみることだと言う木工作家・川合優。今回、四知堂 kanazawaの昼食・喫茶メニューにて、川合優さんの《経木の蓮弁皿》を用いた料理提供を行う。《経木の蓮弁皿》は、針葉樹を薄くスライスした経木をハスの花の形に仕上げた使い捨ての皿で、実際にさわってみることでその繊細さや木の温かさが手に伝わってくる。紙皿に比べ、製造にかかるエネルギーが少なく、使い終わった後は有害な廃棄物も出ない。四知堂のオーナーである塚本美樹さんとシェフは、蓮弁皿のコンセプトや川合さんの考え方を共有し、使いやすくかつその存在感を示せる提供方法を検討した。台湾料理と蓮弁皿のコラボレーションで、自然との向き合い方や資源の循環に思いをはせる時間を過ごすことができる。役目を終えた皿は塚本自身が手がける田畑で土に還す。土に還る道具から自然との向き合い方や資源の循環に思いを馳せる。

四知堂ではさらに、和栗専門カフェ・和栗白露の能登産の和栗を使った2種類のモンブラン「榛摺(はりずり)」(2,750円)と「金茶」(1,980円)を能登・輪島に工房を構える赤木明登が同店のために制作した漆の器と金沢を拠点とする金工作家竹俣勇壱のナイフとフォークでいただくことができる。(10:30-17:00、L.O.16:30)

川合優《経木の蓮弁皿》《紙棚》

 

 

H-4|LOCOLOCO HIGASHI 204号 八木隆裕(開化堂)

八木隆裕《茶筒》

1875年に京都で創業した手づくり茶筒の老舗・開化堂は、お茶やデザイン、インテリアの業界でも支持され、国内外に多くの顧客やファンがいる。六代目となる八木隆裕は、初代から続く手づくりの手法を守り続け、へこみや歪みが生じても修理して使い続けることができる。ブリキの茶筒は時間の経過、人が使うことによる色味の変化していき、100年以上経っても使い続けることができる。蓋を乗せると自動で降りていき、中の空気が抜けていくが、展示では世界中どんな環境でも同じ速度で落ちていく様を動画でもあらわしている。近年はこの技術を応用して、古いオイル缶やトマト缶、旅先で手に入れた缶詰、知人から譲り受けた銅板など、捨てられるものをリメイクした缶づくりに挑戦し、工業製品でも使い続けることの価値を新たに見出すことに取り組んでいる。今回はLOCOLOCO HIGASHIでリメイク缶を中心に展示や店舗とのコラボレーションを行う。

八木隆裕《リメイク缶》

H-2|tayo ⽵俣勇壱×⻤⽊孝⼀郎

彫金を学び、オーダージュエリー、生活道具、茶道具などを製作している竹俣勇壱は自らの仕事を「手工業」と呼ぶ。機械と手仕事の長所を取り合わせた仕事を行い、カトラリーや食器、ジュエリーの製作を行う。建築家・デザイナーの鬼木孝一郎は主に空間デザインを得意とし、ミニマルにデザインされた透明感のある空間が高く評価されている。スタイルと美意識を持つ者同士の初のコラボレーションとなった2021年には、鬼木が持ち運びできる照明器具をデザインし、竹俣が製作した。今回は、東山に構える竹俣のビューイングルーム「tayo」にて新たに家具を製作し、金属のある暮らしを提案する。

H-3|KAI 離 三浦史朗+宴KAIプロジェクト

六角屋の代表として、建築の企画・設計・デザイン監修・地域づくりプロデュースなどに取り組んでいる三浦史朗。「KAI 離」は、三浦と大工や木工、紙、竹、アルミなど各素材の職人が実験や実践によって手がけてきた作品を収めている場所である。通常は非公開で、特別に招かれたゲストに食事やお茶を振る舞う場として使用されてきた。つくる人とつかう人の双方の好みを引き出した道具や室礼などを、今回のプロジェクトではじめて広く公開する。公開にあたり、三浦は室町時代中期に流行した「淋汗茶湯」から着想された宴席を開く。淋汗茶湯は茶の湯の様式が整う前の茶事と言われ、風呂に入り汗を流し、茶を飲んで、酒宴を行うというもの。今回は草(茶)を軸にした「淋汗草事」として、手軽にお茶を一服できる振る舞いもあれば、入浴や食事を伴う特別な宴も開かれる。

三浦史朗

中川周士(中川木工芸)

1F 茶室

2F 茶室

H-1|KAI ⾚⽊明登×⼤⾕桃⼦

赤木明登

漆作家の赤木明登は、伝統的な漆の技法を用いながら、シンプルで洗練されたデザインを特徴とし、日常生活に溶け込む漆器の新しい可能性を探求している。陶芸家の家庭に生まれた大谷桃子は、伝統的な技法と素材を生かしながら、東南アジアの自然をモチーフに信楽焼の新たな表現を探求している。今回は東山エリアの「KAI」を会場に、「今は亡き数多の工人と共に」をテーマのもと、赤木が蒐集する輪島塗の歴史的資料を軸に、赤木の漆器や大谷の蓮の絵の展示を行う。分業制の輪島塗の歴史や軌跡を辿ると共に、今年1月の地震によって甚大な被害を受けた産地の再生に向けた赤木の思いを表すものとなる。

大谷桃子による壁面の平面作品

開催概要

会期:2024年9月14日(土)- 10月20日(日)
休場日: 沙石(火曜)、四知堂(水曜)、SKLo(水曜)ほか会期中無休
時間:10:00-16:30(最終入場16:00)
会場:富山県富山市(岩瀬エリア)、石川県金沢市(東山エリア)