渋谷に事業家・投資家の植島幹九郎による「UESHIMA MUSEUM」が6月1日開館
文=ONBEAT編集部 撮影=藤田紘那
大学在学中に起業し、事業家・投資家として多角的にビジネス展開を続けている植島幹九郎。
『ONBEAT vol.18』にて自身のコレクションについて語った際その構想についても触れた「UESHIMA MUSEUM」が、2024年6月1日、遂に開館する。
挨拶をする植島幹九郎。後ろの作品はミシェック・マザンヴ《The Power of Running Away》(2022) |
「アートを公開していきたいという思いが強い。」「日本の方も海外の方も、ここに来れば日本の現代アートを見ることができる。」
元々モダンアートから現代アートまで幅広いアートを好み、海外の美術館やギャラリーを巡っていたという植島。2016年初めてアート作品を購入し、2022年本格的にアートの収集を開始した。コレクションを始めた当初からアーティストやギャラリースタッフとの話の中で、購入された作品のその後がしばしば分からない状態にあることを聞いていた植島は、自身の「アートを公開していきたい」という強い思いから、コレクションしたすべての作品の写真とキャプションをHP、Instagramで公開してきた。
このほど渋谷に開館する「UESHIMA MUSEUM」では、そんな植島の膨大なコレクションが、階層ごとに異なるテーマやコンセプトで展示されている。コレクションは、弊誌でも過去に紹介した杉本博司、奈良美智、名和晃平といった日本のアーティストに加えて、オラファー・エリアソン、シアスター・ゲイツといった海外の現代アーティストによる作品を含む。
「2022年は500点購入しているので、一日平均1.5作品購入していることになります。海外ではパリ、ロンドン、ニューヨーク、香港や韓国のアートフェアに行ったり、国内でも毎日寺田倉庫などのギャラリーや美術館に足繫く通うなど、生活の8割ぐらいはアートに費やしました。オークションはほとんどが海外で行われているため、時差の関係で日本では深夜にやっています。しかも6時間くらいやっていて、次の作品を待っている間にどうしても寝てしまうので、服部(今日子)さん(現 Pace Gallery バイスプレジデント。植島がコレクションを始めるにあたり一番初めに相談したのが服部であり、植島にペロタン東京を紹介した)と妻からの電話だけは起こしてもらえるようにと音が出る設定にしていました。」
オークションが始まる1週間前から300もの品が並ぶオークションリストの全てに目を通し、気になる作品があればその作家のHPやSNSをチェックしていたという植島。また、オークションでは実物を見ないまま購入することがほとんどなため、作品画像のPDFを引き伸ばして実物を想像する訓練になったという。
「(コレクションの方向性や好みとしては)情報量や種類が多いのが特徴かなと思います。事業に関しても、建築、ITエンジニアの派遣事業、クリニックの経営や投資事業、ジュエリー会社やネイルサロンといった具合にいろいろ行っていますが、アートに関してもそれは同じで、インスタレーションや彫刻や絵画と種類が多いです。同時代性をテーマに生きている作家を中心にコレクションしているのも特徴で、高齢の作家の作品でも2-30年前の作品ではなく、作家が今の時代を感じながら作った作品を集めています。」
そう語る植島がこれまでにコレクションし、「UESHIMA MUSEUM」の最初の展示会に並ぶこととなった作品の中からいくつかを、それぞれの作家・作品と植島とのエピソードと共に紹介していこう。
■田島美加 《You Be My Body For Me(Unit 3)》(2020)
「(田島作品との出会いは)TARO NASU がきっかけです。この作品は昨年の Art Basel で展示されていました。パネルが透明になる仕組みなっていて、ギャラリーの方に『なぜ透明になるの?』と聞いてみたら、『自分たちの持っている電子信号に反応して透明になったりする』とのことで、それがとても刺激的だなと思い、購入しました」
■オラファー・エリアソン《Eye see you》(2006)
「テートモダンで展示されていたのですが、大きな疑似の太陽の上に鏡があり、その光に空間が照らされると、鑑賞者の服や肌の色が全く同じになるんです。観賞者自身が、人種や立場に関係なく平等で同じ人間であるというのを感じられるという、テートモダンでやっていたことをここでも再現できないかと思い、両面に鏡を置きました。現代アートを知らない人にも体感という形でコンセプトを理解してもらえるという意味でも、ここは非常に楽しい部屋になるんじゃないかなと思っています」
■池田亮司 《 data.scan [n°1b-9b] 》(2011/2022)
「世界のあらゆる情報をデータとして捉えそれを可視化するという表現をしていた池田亮司の作品です。空間・音・映像の中で繰り広げられる彼の緻密さにこだわって作られた空間となっています」
■チームラボ 《Matter is Void – Fire》(2022)
「この作品はNFTで、皆さんもHPでダウンロードして見ることができます。コピーが出来てしまう時代において、『デジタル作品の著作権とはどういうものなんだろう?』と疑問に思うでしょうが、実はオーナーだけがこの文字(”Matter is Void”)を変えることができるんです。つまり、私がこの文字を変えたら、ダウンロードした全員の文字が変わります。『変える権利だけがある』という、ブロックチェーンでできたデジタルアート作品なのです。私が購入したこの炎のシリーズは、イーロン・マスク氏のパートナーがニューヨークでイベントを行った際に既に一度文字を変えてしまっています。私自身はまだ変えていません」
■名和晃平 《PixCell – Deer 40》(2015)(左)、《PixCell – Sharpe’s grysbok》(2023)(右)
「(《PixCell – Sharpe’s grysbok》について)名和さんの京都のスタジオに訪問させていただいた時に、鹿の作品の色が青や紫や緑だったりしたので『これはどうなっているんですか?』と聞いたところ、「新作は鹿にこうやって色をつけているんです」とおっしゃっていて、『欲しいです』とお願いしました」
■今津景、近藤亜樹、津上みゆき、工藤麻紀子、アグネス・マーティン
今津景 《Mermaid of Banda Sea》(2024) | 今津景 《Drowsiness》(2022) |
近藤亜樹 《いたいのいたいのとんでいけ》(2022) | 津上みゆき 《View, Flowing, Evening, 8 Feb 2019/2022》(2022) |
工藤麻紀子 《あの時1人でたのしかった》(2022) | アグネス・マーティン 《Untitled》(1995) |
「今津さんは、私たちが持っているデジタルを通した現実認識を絵画で捉えなおしていく作品を作られる方です。インドネシアの方とパートナーになり移住して、そこで出会った土着の文化・信仰とも結びつき民族学的な視点も加わった、非常にハイブリッドな視点をお持ちの作家だと思います。近藤亜樹さんは、パーソナルな感情と向き合いつつ彼女が出会ってきた人たちへの思いや関心を表現しています。アグネス・マーティンは、シアスターが彼女の作品が大好きで、彼女の作品をイメージしたネオン作品も作っており、その流れで関心を持ちました」
■さわひらき、宮島達男、三嶋りつ惠、宮永愛子
さわひらき 《/home, /home (absence)》(2021) | 宮島達男 《Vertical in Green》(2022)(左)、《Counter Fragile No.4》(2004)(右) |
三嶋りつ惠 《FENICE》(2023) | 三嶋りつ惠 《VENERE》(2023) | 宮永愛子 《くぼみに眠るそら -寝虎-》(2022) |
「さわさんの作品には、ある種の儚さやうつろいがありますよね。宮島達男さんの作品では、カウンターがずっと回り続けゼロになるというところから、生命の巡りを想起させられます。三嶋りつ惠さんのガラスの作品では、光あるいは流体の揺らぎといったようなものを感じられる。宮永愛子さんの作品は、気温・光の影響を受けながら形を変化させていくナフタリン彫刻となっています」
■シアスター・ゲイツ
「シアスター・ゲイツは銀行を図書館に変えるなど、自身でもいろいろなビューをリノベして活用していることもあり、『内装工事中でも、自分の展示場所を見たい』と来てくださいました。数日前も音響を確認しにふらっときて、この空間に合う音楽を提供してくれました。設置場所についても本人が『こういう風にしたい』と考えて作られたルームになります」
「ここに展示してある作品を事前に調べて見に来て学んだりというように、学校の授業の中でこの美術館を活用してもらい、学生にアートや多様性について考える機会を提供していければと思っています。」
植島の母校でもあり、国際的な視野や高い倫理観を重視した教育で高い評価を受けている渋谷教育学園。その敷地内でブリティッシュ・スクール・イン・東京が利用していた建物を「渋谷教育学園植島タワー」としてリノベーションし開館した「UESHIMA MUSEUM」。
ただコレクションを展示するだけでなく、学生や若手のアーティストの支援といった社会的な活動についても今後展開していく予定だという。
「お金や場所や作品がなかったりで、若手のキューレーターがキュレーションを行う機会がなかなかない。私たちには場所と作品があるので、それをもとにキュレーションを考えていただくなど、プログラムをやっていきたいです。」
「UESHIMA MUSEUM」の社会的なあり方については、アドバイザーである山峰潤也もその重要性を指摘している。
「『UESHIMA COLLECTION』という言葉でギャラリーを作ることもできたと思います。それを『UESHIMA MUSEUM』という言葉にしたということで、今後の在り方は変わってくると思います。プライベートミュージアムでは例えばワタリウム美術館などがありますが、ワタリウムがやっているようなソーシャルエンゲージをしていくことが重要です。若手のアーティストやキュレーター、社会の思いをどう引き受け、何をしていくのかということは、もっと話し合い、少しずつ視野を広げていきたいと思っています」
ミュージアム概要
開催日:2024年6月1日~2024年12月末
開催時間:11:00-17:00(最終入場16:00)*事前予約制
住所:東京都渋谷区渋谷1-21-18 渋谷教育学園 植島タワー
館長:植島幹九郎
副館長:不破鉄二
アドバイザー:神谷幸江、山峰潤也