2021年11月5日・6日 六本木ヒルズ Hills Cafe / Spaceにて、「KOGEI Next」展を開催。
京都府京都市の古美術鐘ヶ江と、IoTクリエ―ターの育成やスタートアップ事業を支援するクロステック・マネジメントは、工芸の次のすがたを実現させる運動「KOGEI Next」として初の展示会を実施。
「KOGEI Next」では金属という工芸素材を見直すため、「都市鉱山」と呼ばれる、廃棄されるPCや携帯電話などから採集・精製した希少金属を使ったアート制作を行うプロジェクトをスタートする。
時に超絶技巧と呼ばれる技術的にも非常に優れた作家を中心に、現代ならではのテクノロジーと概念を掛け合わせ、この時代での美術の確かな進化を探究していく。
今回の展示会はその第一弾となる。
各作家たちと取り組む課題、そして新作を発表。
また、作品展示だけではなく、トークショーや親子向けワークショップも実施される。
本郷 真也 《visible01》―境界―
〈作品 CT スキャン画像〉
素材:鉄、銀
size:W96×D91×H170cm
デジタル制作プロダクション:Dentsu Craft Tokyo
ディザー・メイキング / 演出:菅原 大典(PCI)
音楽監修:佐藤 公俊
【作者 本郷真也による解説】
街中では、カラスは疎まれることが多いですが、彼らは人が生み出した無駄によって、おびき寄せ られた生き物なのです。つまり、人の近くにいるカラスの存在は、我々人間の食資源利用のロスを象徴する存在といえます。古来、カラスは滅多に見ることが出来ない森林の神聖な鳥でした。この visible の制作を通して、自然と人間の境界、そして私たちの周りに張り巡られた新たな境界、 事象を考察する機会になればと考えています。〈本郷〉
〈作品CTスキャン画像〉
つのだ ゆき 《ネッタイシマカ》 超絶技巧 ×AR 表現
素材:ガラス
Size:W2.8×D3.2×H1.5cm
ネッタイシマカはテング熱やマラリアを媒介する蚊として知られている。その姿は一見、日本に生 息するヒトスジシマカと区別がつかないだろう。過去にはわが国でも確認されたこともあったが、現 在は生息していない。しかし、地球温暖化が進み、航空機や船に紛れ込んで日本に来た蚊が越冬でき るようになれば、私たちの生活を脅かす存在となるだろう。熱帯地域特有の感染症は、今そこにある 新たな危機のひとつなのである。本作では、つのだの精巧なガラス細工にデジタル AR 表現を組み込んだ。皆さんがお持ちのディバ イスをこの蚊にかざす事によって、貴方の腕に蚊が飛んでくる。それは、一見コメディの様に感じるが、 「貴方の血を吸った蚊はネッタイシマカかもしれません。」という強烈な地球温暖化に関する警鐘メッ セージが内包されているのだ。〈鐘ヶ江〉
〈AR 上で蚊が腕に飛んでくる〉
野田 朗子 《Re-born from broken Baccarat》 ガラス工芸 × アップサイクル
蓮実 素材 : broken Baccarat vase <after 1990> Size: W25×D11×H10cm
枯葉 素材 : broken Baccarat glass <before 1936> Size: W24×D9×H8cm
枯葉 素材 : broken Baccarat glass <1936-1969> Size: W25×D11×H12cm
枯葉 素材 : broken Baccarat glass <after 1990> Size: W13×D27×H11cm
私は仕事柄、日々処分されゆく美術品を見ている。値段がつかない、需要がない、傷がある等、様々な要 因がある。KOGEI Next ではこの様なもったいない骨董品や傷ついた希少な美術品に目を向け、環境負荷が 少なく、かつ面白く文化財を補修・アップサイクルする試み、”re-born” プロジェクトを開始する。今回は割れてしまったバカラ社製の複数のグラスと花瓶から、それぞれ作品を制作する実験を行う。バカラ社は 30% の酸化鉛を含むクリスタルガラス製品を製造するメーカーとして、世界的に有名である。このガ ラスの質であれば、繊細で技巧的な作品さえも再制作出来る可能性がある。野田朗子は、環境問題に関心を持ち、自然への敬意、移ろいゆく生をテーマに制作してきた。今回は、品位に満ちたグラスや花瓶としての役割を終えたガラスを、枯れゆく葉や実としての幽玄な美しさに変えて、新たな命を吹き込む。ガラス工芸は石膏、電気、ガスや水などのエネルギーを多く使用して制作される。そうしてこの美しく透 明なガラスは生まれている。せっかくこうして生まれてきてくれたガラスが割れてお終いでは悲しい。その先にも美しい物語の可能性があることをこの作品から感じて頂きたい。〈鐘ヶ江〉
〈蓮実の原料とした割れた花瓶〉
満田 晴穂 《自在大蟻行列 -円環-》 循環
素材:銅、真鍮、青銅
Size:W2.0×D4.0×H2.0cm
満田はこの都市鉱山金プロジェクトで、CPUや各種部品を蟻の餌に見立てた蟻の行列作品を提案してくれた。蟻たちは携帯電話の基盤から、金が多く含まれる部品を選別し、巣に持ち帰っている。正に、都市鉱山金のリサイクルを進める工場* でもこの様に、時に人の手での選別作業を繰り返しながら、小型家電から金を抽出しているのである。この作品は展示会終了後に、蟻たちが集めた部品をリサイクルし、金を抽出する。その金で満田の次作を制作するのだ。小型家電の中で、人知れず、私たちの生活を支えてくれている金の存在。その金は満田の手で、永遠に輝く精巧な昆虫へと生まれ変わり、表舞台に現れるであろう。〈鐘ヶ江〉
* 協力 株式会社リーテム
鈴木 祥太 《都市の養分》カタバミの花一輪分の金
素材:18金(都市鉱山由来)、洋白、銀、銅、金粉、緑青
Size:W32×D25×H3.8cm
現代において金はジュエリーの素材としての役割の他に、家電製品の基盤などにも使われている。腐食への強さ、電気伝導率の高さ、加工のしやすさで、科学の発達した現代においても金に勝る材料 が他にないからである。デジタルの世界でもまた、我々の社会は金なしでは成立することはできないということだ。
金は現代社会の養分とも言えるだろう。パソコン一台から採取できる約0.3gの金はちょうどカタバミの花一輪の量。使用されなくなった家 電の奥に確かにある都市鉱山の存在を感じさせる作品だ。作品に近寄ると黒いディスプレイに顔が写 り込む。その時、あなたは何を感じるだろうか。〈鐘ヶ江〉
松本 涼 《涅槃》 命の境界
素材:樟
Size:W92×D25×H15cm
松本は枯れゆく菊を涅槃仏に見立てた。大菊を横たわらせる事でゆっくり現世から常世へと生命の 変化がおこる様に。そこに木目を彫る事で生命の儚さと無常観を表現している。 松本は木の命を感じながら、生と死の境界を連想させる形になるよう限界まで彫り込む。そこから 更に木の年輪を浮き上がらせる。それによって、日頃私達が忘れている「生の感覚」がきわ立つ。一 本一本の年輪に時を感じながら彫り進める。薄くなった木が意図せず破れてしまうことがあるが、松 本はその瞬間に、あちら側とこちら側の世界が繋がる感覚を覚えるという。彼にとっての制作とは、 生と死の境界を意識し、存在する事の尊さを実感する儀式なのだ。 制作には約1年を費やした。途方もない作業と人間の限界に挑む所業である。松本は53歳、《一刻 スルメ》の作者である前原は60歳となる。アスリートと同様に、技術・経験の向上に反して、フィ ジカルの衰えは止めようがない。特に視力の低下が最大の問題だ。KOGEI Next はこの様な、作家た ちの抱えるフィジカルの課題をアスリート同様に取り組んでいきたい。〈鐘ヶ江〉
開催概要
開催日:2021年11月05日(金)・06日(土)
時間:11:00~20:00
会場:六本木ヒルズ Hills Cafe / Space
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ 森タワー ヒルサイド 2F