アルファベットを漢字の部首として扱い江戸文字に見立てている

アーティストプロデュース集団WATOWA GALLELYのプロデュース、ディレクションのもと、アーティストSNEAKERWOLFのソロエキシビジョン「THE NEW ABNORMAL」が、オルタナティブスペースelephant STUDIOにて明日、1月30日(土)から2月7日(日)の会期で開催される。

SNEAKERWOLFは、江戸時代に大衆文化の歌舞伎、相撲、寄席、千社札などに使われて発展・派生した江戸文字やタイポグラフィ、そしてそのスピリットを、現代の大衆文化であるストリートグラフィティや、日本の漫画やアニメで用いられるSD(スーパーディフォルメ)化の手法と融合することで独自の表現を生み出している。

会場に並んだSNEAKERWOLFの作品には、一見、江戸文字が書かれ(描かれ)ているように見えるが、よく見るとそれはアルファベットであることが分かる。

個々の作品に隠された単語や文章を発見することも、SNEAKERWOLFの作品ならではのユニークな鑑賞方法だ。


四角に切ったスケートボードにグラフィック文字を描いた現代ストリートカルチャー経由の「千社札」作品があったり、江戸時代の火消が使った纏をモチーフにした作品、表意文字を再創造したかのような抽象作品など見どころも多いが、どの作品にも躍動感があるため鑑賞していて楽しい。

四角に切ったスケートボードの原形に独自のグラフィティを描いた「千社札」作品

江戸時代の火消が使った纏をモチーフにした作品

江戸の大衆文化であった浮世絵は、西洋人に「発見」され、アートとして価値付けされが、江戸文字を江戸時代のグラフィックカルチャーとして「再発見」し、現代のグラフィティやポップカルチャーとのフュージョンによって「再創造」するSNEAKERWOLFの行為は、日本人自身が江戸文化のエッセンスを現代アートの文脈に組み込まんとするチャレンジでもある。

個々の作品に対する丁寧な仕事ぶりを目の当たりにし、アーティストプロデュース集団のWATOWA GALLERYがSNEAKERWOLFに注目する理由が見えた。注目のSolo Exhibitionは、明日1月30日オープン。

抽象画のストロークやドリップをSD化したシリーズ


今回の取材時に行ったWATOWA GALLELY代表の小松隆宏氏へのインタビューも近日紹介予定。

ジャンルを横断してさまざまなプロジェクトに携わる小松氏の話は、アートの話にとどまらず、現代社会の諸問題に対するソルーションを提案する内容でもあり、示唆に富むとともに大変楽しい内容です。ご期待ください。

SNEAKERWOLF
ハイ・アートからストリート発のグラフィティ文化、 日本のアニメや、 漫画、 そして江戸の市民文化を、 自身の作品のなかで交じりあわせた独自のスタイルを持つ。
現在は、 作家自身が少年時代に親しんだSDガンダムやチョロQといった、 細部を破壊して2等身や3等身にディフォルメする手法[SD化]を用いて、 独自のスタイルを拡張させている。

<Exhibition Produce: WATOWA GALLERY>

グラフィティ文化は名前を「壁にかく」という人間の原始的な衝動から出発し、現在ではアート・ギャラリーや美術館の「壁にかけられる」芸術となっています。グラフィティ文化の震源地・ニューヨークでは、シンプルなアルファベットで書かれていたライターたちの名前は徐々に変形され、文字でありながら判読不可能な抽象に徐々に変化を遂げてきました。その刻印は、門外漢には読むことができないながらも、自分の存在を都市に向かって叫ぶものでした。

SNEAKERWOLFが確立したアルファベットを漢字の部首として扱い江戸文字に見立てたシリーズは、「読めない」という点でグラフィティ文化の伝統のなかに位置づけられます。言語ではあるのに、英語圏や日本語圏といった単一の言語世界のなかにいると抽象に見えてしまう。アルファベットのパーツで構成された架空の漢字は、他者からの理解を遠ざける企みといえ、遊び心のなかに彼自身の反骨のアティチュードを反映しています。

また、SNEAKERWOLFは、グラフィティ文化が発露させてきた「衝動」を、職人的な手仕事で制御し、自らのスタイルを確立しました。彼が用いるSD化は、アニメや漫画のキャラクターの要素を単純化し比率を圧縮する手法で、初期の日本のカワイイ文化を形作った特徴的な形式と言えるでしょう。そのうえ、彼は、グラフィック・ライターが用いるスプレーの描写の特徴のひとつであるドリップと呼ばれる塗料の垂れも含めてSD化のスタイルに回収しています。

一方で、このSD化は、江戸時代に火消しが用いた纏(まとい)や、法被(はっぴ)の背面や千社札に用いられた江戸文字のタイポグラフィとも特徴を共有しています。また、江戸時代中期に流行した千社札は、神社や仏閣に参拝したことを示すために、自分の名前を書いた紙をなるべく剥がされにくい場所に貼るという行為から始まったと言われています。つまりこの千社札は、BNEのように世界各地にステッカーを貼るスタイルのヴァンダリズムに約200年先行していたのです。加えて、同時期に流行した歌舞伎役者の名前や演目名をわざと判読しにくく書いた歌舞伎文字にはそれを読める者を通だとする風潮がありました。SNEAKERWOLFのスタイルは歌舞伎文字や千社札に用いられた江戸のタイポグラフィと、そのスピリットを引用しながら、複数のカルチャーをSD化のスタイルに画一化することで、時代と国籍を超越したヴァンダリズムの衝動を職人的に洗練させます。

SNEAKEREWOLFは、自分の描いたストロークや、グラフィティ文化と関連するアーティストの作品をアプロプリエーション(盗用)して用いています。その作品は、グラフィティ文化の延長上でもありながらポップ・アートのようなキャッチーさで、わたしたちが慣れ親しんだ漢字のグラフィティ、「夜露死苦」や「毘沙門天」のダサさを巧妙に脱出し、伝統やジャンルの権威を真剣に茶化しているのです。

日本の現代美術では常に、浮世絵や屏風や日本画といった近代以前の芸術様式が引用され再解釈されてきました。本展覧会でSNEAKERWOLFが実践するのは、「書く」と「描く」の狭間に江戸文字を位置づけ、ストリートカルチャーとの関連のなかで芸術的な価値を付与する発明であり、発見と言えるでしょう

◆WATOWA GALLERY
現在の日本のストリートカルチャーやファッション、 あるいは独創的かつ先進的なテクノロジーやジャパニーズフィロソフィーを取り入れた新しい感性を持つ若手の作家を中心に、 アート・コミュニケーションの場を提供するアートプロジェクトプロデュース集団。アートがファッションのように親しみやすいカルチャーとなり、 ひとりひとりのライフスタイルに溶け込む社会を拓くため、 新しい感覚のエキシビションや、 アートプロジェクトのプロデュース・演出を行い、 アートに触れるタッチポイントを拡大している。

◆開催概要

開催日:2021年1月30日(土)~ 2月7日(日)※こちらのリンクよりご予約ください
時間:12:00~19:00
住所:東京都渋谷区渋谷2-7-4 elephant STUDIO 1F-2F

問合せ先:info@watowa.jp
Instagram: @watowagallery

詳細はこちら

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