人間が誰でも持っている虚しさや孤独、喜びや怒りといったシリアスな姿
野口哲哉 鎧を着て見る夢 -ARMOURED DREAMER-
文、写真=ONBEAT編集部(一部プレスリリース等参照)
彫刻の森美術館では、現代の新しい創作表現を紹介するシリーズの第9回として、「野口哲哉 鎧を着て見る夢 –ARMOUREDDREAMER–」を開催する。「鎧と人間」をテーマに文明社会や人間への好奇心を追求する現代美術作家、野口哲哉。一見古びて見える作品は、すべて樹脂やアクリルといった現代的な素材で作られており、「リアリティー」「多様性」など作家のコンセプトが凝縮されている。

新作「floating man」/写真:ONBEAT編集部
本展は、1969年の開館当初の姿をとどめる本館ギャラリーを会場に、新作を含めた立体や平面など76点を展示する。自然とアートが調和する野外美術館に、野口の幅広い思考と精緻な作品が融合する空間が楽しめる。

写真:ONBEAT編集部
野口氏はこう語る。
「小さい頃から日本の鎧兜とか見るの大好きだったんですが、何て言うんでしょうか?でかい殻みたいに見えるんですね。エビとかカニがとっても大きくなったようなものに見えてて、子供の頃からそれがすごく怖かったですね。生き物って進化の過程で殻を作り出すことってよくあるわけですね。」

写真:ONBEAT編集部
「エビとかカニなんかそうですし、例えば昆虫なんかの殻がありますよね。カナブンとかクワガタとかもそうですし、僕がとっても苦手なあのゴキブリとかムカデみたいに苦手なものなんかもみんな殻を持ってるんですね。で、実はあの人間も進化の過程で殻を作り出すことって動物だからあるんです。」

写真:ONBEAT編集部
「人間が進化の過程で、あることに適合しようと思って、殻を手に入れたり、殻を作り出すことっていうのが僕はとても興味が刺激されるんですね。今だったら火と戦わないといけない消防士の方は防火服を着ていますし、例えば除染作業をしないといけない人って放射能の防護スーツを着たりしますし、人間って殻をいろんなところで作り出す生き物なんですね。」

会場では反対側からも見ることができる/写真:ONBEAT編集部
「そんな人間の姿ってのは僕はすごくこうたくましく、いろんな可能性を秘めて見えるんです。だから多分僕の作ってる人っていうのは、この殻をつける人間も作りたいんだろうなと思うんです。」

美術館の「森」を回遊できる展示になっている/写真:ONBEAT編集部
「暗闇の中で人間の顔を照らすものは、文明の尺度を表すんですよね。テクノロジーの指針になってる。古くだと焚き火だとか、もうちょっと文明が進んでくると、今度はローソクの火になりますよね。それが明かりになってきて、今はスマートフォンの光が僕たちの顔を照らすわけですけれども。僕はそこに希望みたいなものを感じるんです。夜の駅では、帰宅する人たちが一気に降りるわけじゃないですか?それで自分の家に電話をする時、みんなの顔が照らされている光景を見て本当なんか単純に綺麗だなと思ったんです。」

野口氏の作品では珍しい展示方法だ。奥にはスマホを持つ「鎧と人間」の絵/写真:ONBEAT編集部
ONBEATが注目するポイント
■ルーツの再解釈:伝統的モチーフ「鎧」と現代的素材の対話
野口氏の作品は、一見すると歴史の重みを感じさせる鎧と人間だが、その素材は樹脂やアクリルといった現代的なものが使われている。氏は鎧を単なる過去の装束としてではなく、「人間が肉体を守るために作ったプロダクト品」と捉え、そこに現代を生きる我々にも通じる普遍的な人間の姿を映し出している。
■境界を超える挑戦:彫刻とデジタルアートの融合
本展では、彫刻や平面作品に加え、デジタル技術を用いた新作が10月中旬以降に公開される予定だ。先端デジタル技術チームと協業し、「落下」「人影」といった見る人の感情を揺さぶる情景を映像で作り出すこの試みは、作家にとって初となる。
■自然との共鳴:箱根の森と一体化する展示空間
会場となるのは、1969年の開館当初の姿をとどめる彫刻の森美術館の本館ギャラリー。展示構成は、室内に留まらず、窓の外に広がる箱根の自然や野外展示場の風景さえも作品の一部として取り込むように計画されている。
本展は、野口哲哉という一人の作家の深い思索と精緻な手仕事を通して、日本の伝統が未来へと繋がる新たな可能性を提示している。過去と現代、アナログとデジタル、そしてアートと自然が交差するこの知的な空間は、私たち自身のルーツと未来について考える、またとない機会を与えてくれるはずだ。
開催概要
野口哲哉 鎧を着て見る夢 –ARMOURED DREAMER─
会 期:2025年7月19日(土)~ 2026年1月12日(月・祝)
会 場:彫刻の森美術館本館ギャラリー
開館時間:9:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
料 金:美術館入館料(詳細は、美術館公式ホームページをご参照ください)
休館日:なし(年中無休)
主 催:公益財団法人彫刻の森芸術文化財団
協 力:GYOKUEI、ザ・ドキュンカンパニー、P.I.C.S.
出品点数:約75点
美術館公式ホームページ:https://www.hakone-oam.or.jp
特設サイト:https://www.hakone-oam.or.jp/specials/2025/armoueddreamer/