ニューヨークを拠点に活動する現代美術家、松山智一(まつやま ともかず)の個展
「Tomokazu Matsuyama: Morning Sun」が、ニューヨーク州ナイアックに位置する
エドワード・ホッパー・ハウス美術館にて開催中。
(2025年10月5日まで)

文=ONBEAT編集部(プレスリリース参照)   写真=プレスリリースより

2025年5月に好評のうちに幕を閉じた麻布台ヒルズ ギャラリーでの「松山智一展 FIRST LAST」に続き、制作拠点であるニューヨークで行われる本展では、エドワード・ホッパーの代表作《Morning Sun》(1952年/コロンバス美術館蔵)への現代的オマージュとして、絵画およびドローイング作品を展示している。

本展の中心となるのは、松山の新作《Morning Sun Dance》(2025)。ホッパーの作品が映し出す1950年代都市生活の静謐な内面風景に対し、松山は現代の自己と空間、文化的消費との関係性を再構築している。松山は次のように語る。
「ホッパーの《Morning Sun》は、内省的な静けさと都市の孤独を象徴的に描いた作品であり、彼の光や空間、孤独の捉え方は、私自身の絵画や『孤独との向き合い方』というテーマへのアプローチに強い影響を与えています。」
本展は、孤独やグローバル化、消費社会における人間の在り方といった、松山の制作に通底するテーマが、ホッパーの美学と重なり合いながら新たな視座を提示する。

Tomokazu Matsuyama, Morning Sun Dance(2025), 78×99in.(198.12×251.46),Acrylic and mixed media on canvas, Courtesy of the artist

 

Edward Hopper: Morning Sun, 1952


ホッパーの作品では、簡素な室内に佇む女性が外の風景に目を向けているが、松山の作品では、同様に瞑想的な表情を湛えた女性が、自らの内なる空間に目を向けている。その部屋には、犬やカルチャー誌、装飾的なソファが配置され、文化的背景を物語る要素が複雑におり重なることで、現代における孤独のあり方がより多面的に浮かび上がる。犬というモチーフは、ロサ・ボヌールの《Toutou, le bien aimé》(1885年)やヤーコプ・オフテルフェルトの《優雅な玄関の看護婦と子ども》(1663年)などにも見られるように、かつては所有や富の象徴だったが、松山の作品ではそれがむしろ、孤独の意識を際立たせる象徴となっている。
また、ウィリアム・モリスのテキスタイルと日本の伝統文様を融合させた衣服で、異文化の交差を象徴、壁に掲げられたモハメド・アリのポスターは、多様性や現代的な自己表象への共感を示している。視線の方向も、外の都市景観へ向かうホッパーの女性とは対照的に、松山の人物は自らの私的空間へと向き合う。こうした差異は、現代における孤独のあり方の変容を静かに語りかける。

本展では、メインとなるキャンバス作品に加え、制作プロセスを示すドローイング、そしてホッパーの作品に登場する女性像を異なる視点から再解釈した作品2点もあわせて展示される。エドワード・ホッパー・ハウス美術館エグゼクティブ・ディレクター、キャスリーン・モーツ・ベンニュイッツは以下のように述べている。
「本展は、時代を超えて共鳴する二人のアーティストによる対話です。松山の色彩豊かで重層的な作品は、ホッパーの世界観の今日的意義を再考させると同時に、新たな視野をもたらしてくれるでしょう。」
本展は、ニューヨーク州芸術評議会および州知事室・州議会の支援のもと開催される。

開催概要

会期:開催中~2025年10月5日(日)
会場:エドワード・ホッパー・ハウス美術館
開館時間・チケット・詳細につきましては、以下HPをご参照ください。WEB:https://www.edwardhopperhouse.org/tomokazu-matsuyama.html 

作家プロフィール

松山智一 MATSUYAMA Tomokazu

Photo: FUMIHIKO SUGINO

1976年岐阜県生まれ。日本とアメリカの文化にまたがる自身のバックグラウンドをもとに、
東西の美学を融合させた独自のスタイルを確立。伝統的な図像をグローバルな文脈へと再配置することで、文化的枠組みを軽やかに越境し、「親しみのあるローカルとグローバルの衝突」というテーマに向き合い続けている。作品はナショナルとパーソナル、均質性と混沌のあいだに揺らぐ現代社会を映し出し、観る者の文化的認識に揺さぶりを与える。

主な展覧会に、2025年麻布台ヒルズ ギャラリー(東京)、フォンダシオン ルイ・ヴィトン(フランス/パリ)ヴェネツィア・ビエンナーレでの個展、龍美術館(上海/重慶)、HOCA財団(香港)、シドニー現代美術館、ハーバード大学(米国)など。

作品は、ロサンゼルス郡立美術館(LACMA)、アジア美術館(サンフランシスコ)、ペレス美術館(マイアミ)、ドバイ王室、バンク・オブ・シャルジャ、マイクロソフト・コレクションなどに収蔵されている。
現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動。

エドワード・ホッパー・ハウス美術館について

アメリカを代表する画家エドワード・ホッパー(1882–1967)の作品は世界中の美術館に所蔵されているますが、彼が生まれ育った自宅を訪れることができるのは、ここニューヨーク州ナイアックだけです。
ハドソン川沿いの美しい町に位置するこの歴史的家屋(1858年築)は、ホッパーが初期の創作活動を行った場所であり、現在では彼のレガシーを伝える展示のほか、初期作品や最初のアトリエも公開されています。

『ONBEAT vol.22』松山智一 特集

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滋賀県立美術館ディレクターの保坂 健二朗を聞き手に、松山智一にロングインタビューを敢行。
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