長崎県長崎十人町に1日3組限定の
隠れ家的オーベルジュ「陶々亭」がグランドオープン

「陶々亭」外観

文=ONBEAT編集部 撮影=表記のないものは全て「陶々亭」提供

江戸時代に日本の貿易の拠点として栄えた長崎。唐人貿易、南蛮貿易など諸外国との交流から生まれた食や文化は「和華蘭文化」として今なお長崎の街に根付き、ほかの地域とは異なる趣きを放つ。
株式会社マツダモビリティ佐賀は、
そんな長崎の街の賑わいと文化の継承を目的に、明治末期に建てられた築100年を越える和風建築を再生したオーベルジュ「陶々亭(とうとうてい)」を開業。
2023年9月にプレオープンした本施設を
2024年9月1日にグランドオープンした。

長崎新地中華街にほど近い十人町の緩やかな坂を登ると、市街地ながらも喧騒とは一線を画した和風建築の宿「陶々亭」が姿を現す。
まるで隠れ家のようなその建物は、明治41年(1908年)に当時の貿易商青田家の住居として建てられたもので、2011年には「長崎市都市景観賞奨励賞」も受賞している。
「陶々亭」の前身である「中華料亭 陶々亭」は、ここで1949年頃から長崎発祥の「卓袱中華(しっぽくちゅうか)」を提供してきた

「陶々亭」内観

 

その「中華料亭 陶々亭」は2020年に閉店したが、当時の趣を最大限残しつつ快適性や利便性を加えるリノベーションが施され、1日3組限定のオーベルジュ「陶々亭」へと生まれ変わった。
宿泊施設やレストランの空間には、和紙職人のハタノワタル、陶芸家の安齊賢太らによる質の高い現代工芸・アート作品が設えられているほか、FLOSやルイスポールセンの照明、マルニ木工のHIROSHIMAやカールハンセンのYチェア、天童木工の座椅子などのモダン家具を使用し、和洋が融合した洗練した空間を生み出している。こうした家具や作品選定は、上質な空間づくりに定評のある「51%(ごわりいちぶ)」が手掛けた。
そんな細部に至るまでこだわり満載の「陶々亭」に足を運んでみた。

客室
客室は1949年頃から「中華料亭 陶々亭」として使用されていた宴席場「主屋」と、別棟として使われていた「離れ」、家財や小道具を保管していた「」の3部屋。

築約100年の和風建築を活かしながら、周囲の環境や歴史と切れ目なくつながるよう、空間には元来からの素材を活かしたリノベーションが行われている。

主屋

「主屋」の客室は3部屋の中で最も広く、幾何学模様が施された大正硝子の窓や風情ある床板が特徴。

 

離れ

離れ」は1階にくつろぎのリビングスペース、2階に寝室を設置した吹き抜けで開放感のあるメゾネットタイプ。 撮影(下写真):藤田紘那

 

「蔵」外観

」は内装に煉瓦を残し、隠れ家のような独特の雰囲気を楽しめる。3つの部屋の中で唯一の檜風呂を備えている。

 

筆者は「主屋」に泊まったのだが、新旧の意匠が調和した懐かしくもモダンな空間は非常に居心地がよく、連泊したくなるような親密さを感じさせてくれる。
客室には長崎にゆかりのある文学作品やインテリアにまつわる文献が設置されており、利用客への心遣いとともに長崎の歴史や文化に対する誇りやこだわりが感じられた。

客室に備えられた書籍 撮影:藤田紘那

 

イタリアンレストラン「HAJIME」

館内ダイニング「HAJIME」は、長年親しまれてきた「中華料亭 陶々亭」の後を受け継ぎつつも、新たなスタイルで生まれ変わったオーセンティックなイタリアンレストランだ。
モダン家具を配した中庭の見える大広間で、長崎和牛や長崎漁港で獲れた地魚、地元農家の野菜など地産地消にこだわった旬の食材をふんだんに使ったイタリア料理を楽しむことができる。

陶々亭館内ダイニング「HAJIME」 提供:陶々亭

陶々亭館内ダイニング「HAJIME」 提供:陶々亭

レストランを仕切るのは、イタリア・ナポリでも修行経験のあるシェフの高阪二木氏。料亭時代から受け継ぐ「人の心に残るおもてなし」を大切にするとともに、「食材に無駄なものはない」という考えのもと魚の骨や野菜のヘタからも出汁をとるなど、日々真剣に食材と向き合いながら、陶々亭を訪れる利用客に最高の料理と特別な時間を提供している。

長崎市内で唯一の薪窯で調理をする高阪二木シェフ。

「HAJIME」では四季折々の味覚を使った季節替わりのメニューがコース形式で提供される。
料理の器はすべて波佐見焼(長崎県の中央北部に位置する波佐見町付近でつくられる陶磁器)が使われており、これも高阪シェフが自ら選んでいるという。
筆者もそんな「HAJIME」のコース料理を食す機会を得た。(写真は素人撮影なのでお許しいただきたい。)

先付けに出てきたのは、島根県出雲にある「沖野上ブルーカカオ」のカカオ100%チョコレートをフォアグラで挟んだ一品(写真左下)。
高阪シェフが島根を訪れた際、偶然店に立ち寄り試食をしたことがきっかけで生まれたそうだ。
斬新な組み合わせが唯一無二のハーモニーを生み、「商品化したらヒットするんじゃないか」などと話も弾む。

そんな話をしていたら写真を撮るのを忘れてしまった前菜は、長崎県産のしまあじに淡路島産の玉ねぎのムースを添えた一皿。
塩でしめた後3日間熟成させているというしまあじとムースの組み合わせが絶妙だ。

先付 フォアグラ 撮影:藤田紘那 前菜 しまあじ 提供:陶々亭

伊勢海老のジュレは、伊勢海老の上に白茄子のムース、ゆずの皮をのせた一品(写真左下)には、シェフの工夫が詰まっている。
伊勢海老の身、ローリエ、ブラックペッパーを4時間ほどかけてゆっくり60度で火を通しながら出汁をとり、そのだし汁を濾した後再度煮詰めることでジュレを作る。
ムースに使われている茄子は、無農薬の野菜を生産している契約農家から卸されたもの。
どんな野菜が送られてくるかは届いた箱を開けてみるまで分からないという。届いた野菜を見て
その都度料理を考えるのも「面白い」と高阪シェフは語る。

続く長崎和牛のパイ包み焼き(写真右下)の特徴は経産牛を使用している点だ。経産牛は子供を産むと肉質が硬くなってしまうことから一般的には殺処分されてしまう。しかし「みくりや畜産」では、経産牛に美味しい飼料を与えて再飼育することで肉質を柔らかくすることに成功した。高阪氏はその「みくりや畜産」の経産牛をミンチにし、松茸とトマトソースと一緒に煮込んだものをパイで包んで仕上げた。ジューシーな赤身の美味しさを存分に味わえる一品となっている。

前菜 伊勢海老 撮影:藤田紘那 前菜 長崎和牛 撮影:藤田紘那

コンキリオーニ(貝殻状のパスタ)に長崎産の雲丹と糖度の高いチェリートマトを使用したトマトクリームソースを絡めたプリモピアット(写真左下)は、隠し味的に少量加えられたサフランの香りが鼻に抜ける上品な一皿。高阪シェフにとってこの雲丹のパスタも、素材の味を最大限に引き出した渾身の一品だ

蝦夷鹿のパスタ(写真右下)は、北海道の鹿肉のミンチをハンバーグとして焼き上げ、トマトソースと共にパスタに加えるときに崩して作ったボロネーゼ。「山の鶏鳴舎」の卵黄を使ってシェフが作ったタリオリーニは中太で太すぎず、鹿肉の存在感を引き立てながらもソースが良く絡む歯ごたえのある麺となっている。

パスタ 雲丹 撮影:藤田紘那 パスタ 蝦夷鹿 撮影:藤田紘那

メインの一つ、金目鯛のヴァポーレは、チンザノというベルモットリキュールで蒸し焼きにした金目鯛とその出汁を、岡山原産の幻の米と呼ばれる朝日米の上にお茶漬け風にかけた一品(写真左下)。
もう一つのメインは、八女市で100%放し飼いで育てられた鴨肉を使った一皿(写真右下)で、胸肉(手前)とモモ肉(奥)の2つの部位を炭火で焼き、そこにマデラ酒の香りが効いた絶品のソースがかかっている。それぞれの部位によって異なる味と食感を楽しむことができるのも嬉しい。

メイン 金目鯛 撮影:藤田紘那 メイン 鴨 撮影:藤田紘那

最後は、長崎市内で唯一の薪窯で焼き上げたもちもちの生地に4種のチーズ(コンテ、モッツアレラ、ゴルゴンゾーラ、パルミジャーノ)がのったクワトロフォルマッジのピッツァ(写真左下)。ここに八女のみかんの花から集めた酸味のあるみかんのはちみつをかけていただく。
当初はイタリア料理に倣いコースの最後にはチーズを提供していたという高阪シェフだが、社長からの「(最後にチーズは)ちょっと違うな…」という言葉を受けて、クワトロフォルマッジへ変更。かつてナポリへピザの修行へ行っていたシェフの才能が、長崎で唯一の薪窯で発揮されている特別な一品だ。

デザートは趣向を凝らしたティラミス(写真右下)大きなグラスの中に、佐世保の里村牧場のチーズ、ラムレーズンのジェラート、長崎の「でじま芳扇堂」の甘酒、サモイ(イタリアの伝統的なお菓子)などが混然一体に盛り付けられたティラミス。てっぺんに添えられた食用のバラが目にも楽しく、食後のエスプレッソとも相性が抜群の一品だ。

ピッツァ クアトロフォルマッジ 撮影:藤田紘那 デザート ティラミス 撮影:藤田紘那

素材の持つうま味を最大限に引き出すよう工夫され、繊細に調理された一皿一皿をコースで楽しむことができ、本当に豊かな時間を過ごすことができた。
料理の味のみならず、コースの構成、器(波佐見焼)の選び方に至るまで、高阪シェフの高いセンスと独創性が反映されている。
ちなみに翌朝の朝食には和食を選択。窯炊きのご飯が美味しくて思わずおかわりをリクエストしてしまった。

 

レストラン「HAJIME」のシェフ・高阪二木氏(中央)と株式会社音美衣杜の藤田博孝・紘那。

 

なお、陶々亭のすぐ近くには、放送作家・脚本家の小山薫堂が企画・脚本を手掛けた映画『湯道』のモデルとなった「旧金丸温泉跡地」や、劇中に出てきた中華料理店のモデルとなった定食屋で、小山氏も愛してやまないという「味処 寿々屋」もある。陶々亭のアシスタントマネージャーからそんな話を聞きながら、朝食後に旧唐人屋敷エリアを散策をした。地元の人々の生活の息づかいを感じることができる貴重な体験となった。

レストラン「HAJIME」 オープン1周年記念メニュー&厳選ペアリングワインが楽しめる期間限定のディナーコース

陶々亭に先行して2023年にオープンしていた「HAJIME」は、2024年12月で1周年を迎える。これを記念して2024年12月1日(日)~2025年2月28日(金)までの間、「長崎」をテーマにした1周年記念ディナーメニューと厳選されたペアリングワインが楽しめるコースが登場する。
シェフの高阪の感謝の気持ちがこもった、季節の移ろいを五感で楽しめる創意あふれた11皿のコースとなっている。ワインは、料理との絶妙なハーモニーを奏でる「マキコレワイン」や日本各地の厳選ワインを用意。

「HAJIME」1周年記念メニュー(上下とも)


<メニュー>

先付 フォアグラのムース チョコレートとガナッシュサンド仕立て
冷菜 穴子のインボルティーニ 生ゆば巻き 万願寺のジェノベーゼ
温菜 寒ブリと壱岐オリーブズッパ しゃぶしゃぶ風
温菜 島原羊とブッラータのポルペッタ
パスタ 渡り蟹とカーボロネロ タリオリーニ
パスタ 諫早ジビエ鴨のラグー カネロニ
魚料理 アカムツとうちわエビのアクアパッツァ
肉料理 みくりや牛イチボの低温炭火焼
デザート 佐世保さとむら牧場さんのカマンベールチーズケーキ / でじま芳扇堂さんの甘酒のカッサータ添え

<料金>
コースのみ:15,000円(税込)
コースとペアリング:25,000円(税込)

また、期間中は本コースとセットで陶々亭に宿泊できるスペシャルプランも登場する。

<ディナーとセットの宿泊プラン(2名1泊)>
コースのみ:77,000円~
ペアリング付き:97,000円~

予約はディナー・宿泊ともに、陶々亭公式サイトまたは電話にて受付中。

送迎オプション

長崎空港から陶々亭を訪れる利用客に対しては、リーズナブルな料金プランで利用可能な送迎プランが用意されている。
アーティスト・長場雄のラッピングが魅力のタクシー「ブルーキャブ」のドライバーが、空港で陶々亭専用ボードを持って出迎え、陶々亭までアテンドしてくれる。
「ブルーキャブ」が、陶々亭を運営する株式会社マツダモビリティ佐賀のグループ会社であるからこそ可能なプランだ。

ブルーキャブ 提供:陶々亭

 

また「ブルーキャブ」では、送迎プランのほか利用者の要望に応じてオリジナルの長崎観光案内も提供している。坂が非常に多く、交通機関も限られている長崎観光においては非常に重宝するプランだ。
筆者も「ブルーキャブ」の長崎観光案内を利用して、グラバー園、大浦天主堂、平和公園、めがね橋、夜景観賞など、地元情報に詳しい運転手さんの案内のもと長崎観光の要所要所を効率良く巡ることができた。
そのほか、現在テレビで話題のドラマ『海に眠るダイヤモンド』の舞台である「軍艦島」への上陸ツアー(※オリジナル観光プラン対象外)にも参加するなど一泊二日ながら充実した旅となった。

▲「軍艦島ツアー」より 撮影:藤田紘那

もう一度この地を訪れ、今回行きそびれてしまった中華街の名店、波佐見焼の窯元などを訪れてみたいという気持ちにさせられた。
改めて高坂シェフ、アシスタントマネージャーの木場田さん、ブルーキャブの運転手さん、そして株式会社マツダモビリティ佐賀の円田幹社長の細やかな心配りに感謝したい。

「陶々亭」は世界中の人たちに胸を張って紹介することができる素敵なオーベルジュであった。
長崎市観光を考える際には、陶々亭をその拠点としてリストに加えることを自信を持ってお勧めしたい。

長崎市の夜景

 

陶々亭

開業:2023年9月1日
所在地:〒850-0908 長崎県長崎十人町9-4
客室数:全3室 最大8名 「主屋 OMOYA」60m2 / 「離れ HANARE」50m2 / 「蔵 KURA」40m2
レストラン:「HAJIME(はじめ)」全22席(個室6席・カウンター4席)ランチ/ディナー
運営者:株式会社マツダモビリティ佐賀
構造規模:地上2階+別棟 明治41年(1908年)築の木造日本家屋
お問合せ:095-801-1626
ホームページ:http://www.tototei.jp/

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