東京・天王洲のTerrada Art ComplexⅡを拠点とするYUKIKOMIZUTANIで、千住博と四代 田辺竹雲斎によるコラボレーション展「Beyond Nature」が開催中。会期は12月21日まで。
文=藤田博孝(ONBEAT編集長) 撮影:クレジットを参照
東京・天王洲のTerrada Art ComplexⅡを拠点とするYUKIKOMIZUTANIでは去る11月6日より、千住博と四代 田辺竹雲斎によるコラボレーション展「Beyond Nature」が開催されている。
11月10日には美術評論家の秋元雄史を聞き手に迎え、千住と田辺のアーティストトークも開催された。そこで語られた内容を交えながら、伝統を受け継ぎつつ現代的な表現に取り組む二人によるコラボレーション展の内容を紹介する。
千住は自身の作品も常設されているメトロポリタン美術館で田辺の展示を目にして以来、「なかなかすごい作家がでてきたな。いつか一緒にやりたいな」と注目していたという。その後、雑誌などで対談をする機会などもあり親交を深めた二人は、大阪にある日本最古の観音寺、吾彦山大聖観音寺より、来年の大阪万博に向けてそれぞれ作品制作の依頼を受ける。千住は本堂の襖絵の制作依頼、田辺は本堂の天井に立体の龍を竹で編むというものだ。
今回のYUKIKOMIZUTANIでの二人展は、吾彦山大聖観音寺の本堂を舞台に来春発表される二人のコラボレーションを、現代的なホワイトキューブで展開するという試みである。
「私は日本画、田辺さんは竹工芸ということで、二人とも伝統に組み込まれる宿命を持っている。しかし同時に現代を生きるコンテンポラリー作家としての側面もあるので、一度コンテンポラリーアートとしても発表してみようということになった。」(千住博)
「吾彦山大聖観音寺から立体の龍を作ってほしいという依頼を受けた時は本当に驚きました。『Beyond Nature』のインスタレーションは、弟子入りしている7人ほどのメンバーと共に二週間くらいかけて制作しました。」(四代 田辺竹雲斎)
「二人は現代の作家として国際的に活躍する一方で、それぞれ日本画と工芸という日本の伝統文化の継承についても向き合わなければならない。そんな二人の立ち位置自体が、日本が置かれている国際的な状況をそのまま映し出して面白い。二人がコラボレーションすると聞き納得しました。」(秋元雄史)
本展で発表された千住の新作は、現代アートの文脈からはカラーフィールドペインティングの流れを汲む作品のようにも読み取れる。同時に観音寺に奉納される絵画という観点からは、特別な行事の際にお寺の本堂外壁に吊下げられる五色幕(五色はお釈迦様の教えを表すという)に通じるイメージや精神性が感じられる。同作は展覧会終了後に襖絵として仕立てられ、吾彦山大聖観音寺に奉納される。
一方の田辺は千住の新作が運び込まれたYUKIKOMIZUTANIの空間と対峙し、本展用に新たに龍をイメージしたのだという。その結果、巨大な龍がギャラリー内を回遊するかのようなインスタレーションが誕生した。 「瀧と龍」といえば、古くは狩野尚信が描いた瀧図に対して尾形光琳が龍図を描き加えた《瀧龍図》(1708年)があるが、千住と田辺が生み出した「瀧龍図」は、彼らが共通して持つ「伝統と革新」の精神を具現化した空間として結実した。
秋元はベネッセアートサイト直島の地中美術館館長を務めていた頃(2004年~2006年)から、千住が色を使った瀧の表現に向き合うのを見続けてきた。
「最近の色を使った瀧のシリーズの出来栄えは素晴らしいです。結構長く苦労しながら色と向き合ってきたプロセスがあってここまでこられたのかと思います。躍動感や抽象性が増していることも興味深いです。また、カラーフィールドペインティングの歴史との関連性などさまざまに読み込めるなと思っています。」(秋元雄史)
前述のアーティストトークにおいて秋元は、自身が以前田辺にインタビューした際の田辺の発言が非常に印象的だったとして紹介した。
「大きなインスタレーションを作るときの竹の使い方は、実は自分が学んできた伝統的な竹の使い方とは違います。その制作手法は自分が竹と組んずほぐれつ向き合いながら生み出したものです。自分は竹の中から生まれてきたみたいなものなので、そのように竹に寄り添うことができるのです。私が竹で、竹が私なんです。」(四代 田辺竹雲斎)
田辺の作家性を端的に表したその発言は、まさに千住が自身の制作において実践している「主客一体」の概念と重なるものだ。
和紙と竹という東洋ならではの天然素材を扱い、伝統と向き合いながら「主客一体」の精神で優れた現代アートを生み出す二人の作家。
必然ともいえる二人のコラボレーション展「Beyond Nature」が見られるのは12月21日まで。
千住 博
1958年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業、同大学院修了。95年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展名誉賞をはじめ、イサム・ノグチ賞、日米特別功労賞、 外務大臣表彰、恩賜賞、日本芸術院賞、日米協会金子堅太郎賞特別賞を受賞するなど、日本を代表する画家として世界を舞台に活躍。2022年には日本藝術院会員に任命された。
その作品はメトロポリタン美術館、ブルックリン美術館、シカゴ美術館、國立故宮博物院(台湾)、英国国立ヴィクトリア&アルバート博物館などに常設されており、国内では軽井沢千住博美術館、山種美術館、佐川美術館をはじめ、大徳寺聚光院、薬師寺、高野山金剛峯寺、出雲大社などに収蔵されている。
四代 田辺竹雲斎
1973年大阪生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻科卒業後、父である三代竹雲斎に師事し、2017年に四代田辺竹雲斎を襲名。代々伝わる高い技術を受け継いだ竹による作品の制作を続けながら、自然と人の融合をコンセプトとし、「過去・現在・未来」や 「生・死」など対比するテーマをメインに、インスタレーションや現代的なオブジェを多数制作。竹工芸の新たな可能性を見出し続けている。
これまでにボストン美術館、大英博物館、フランス国立ギメ東洋美術館、メトロポリタン美術館などで展覧会を開催。2022年芸術選奨文部科学大臣新人賞、大阪文化賞を受賞。アートと工芸のジャンルを横断し、活躍を見せている。
秋元雄史
1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部卒業。東京藝術大学名誉教授、金沢21 世紀美術館特任館長、国立台南芸術大学栄誉教授、美術評論家。1991年から直島のアートプロジェクトに携わる。2004年~2006年地中美術館館長。2007年~2016年金沢21世紀美術館館長。2015年~2021年東京藝術大学大学美術館館長・教授。2017年~2023 年練馬区立美術館館長。
千住博 四代 田辺竹雲斎 Beyond Nature
会期:2024年11月6日(水)~12月21日(土) 12:00~18:00
休廊:日曜日・月曜日
開場:〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8 Terrada Art ComplexⅡ 1F
TEL : 03-6810-3885
特別協力:YUMEKOUBOU GALLERY 吾彦山大聖観音寺
ホームページ:https://yukikomizutani.com/japanese/