映像の歴史とメディアアートを手に取って体験できる
「いわいとしお×東京都写真美術館光と動きの100かいだてのいえ」

文=ONBEAT編集部/撮影=藤田紘那

人気絵本『100かいだてのいえ』の作者いわいとしおは、日本を代表するメディアアーティスト岩井俊雄でもある。岩井は、幼少からアニメーションに強い興味を持ち、パラパラマンガや驚き盤を現代のテクノロジーによって進化させた作品<時間層>シリーズによって、独自のメディアアートを確立した。

この展覧会では、岩井のメディアアートとその原点となる19世紀の映像装置をつなぎ、光と動きが生み出す視覚体験の面白さと、それらを作り上げた科学者や芸術家たちの飽くなき探求心を解き明かす。
本展では特にレプリカ等の展示により実際に手にとって体験できる作品が多く、小さな子どもから大人まで楽しめる展覧会となるように工夫されているのもみどころだ。

《100かいだてのいえ》

入り口にある大きな箱は今回の展覧会のために作った「100かいだてのいえ」の立体作品。この家には19世紀の発明家たち、科学者たちが住んでおり、絵本の主人公が登りながらその歴史を体験する。本作品では上下に巨大な鏡を設置し、中を覗くと果てしない高さを感じられるような表現になっている。

《100かいだてのいえ》

第一部では、19世紀の映像装置を展示。
ちょうど200年前の1824年、イングランドのピーター・マーク・ロジェという人が柵の後ろを馬車が通過したときに車輪のスポークが奇妙に歪んで見えるっていうことに気が付き、科学的にその原理を解明して論文化した年と言われている。この論文に興味をもったヨーロッパの科学者たちが徐々に映像の発明につなげっていった。

東京都写真美術館は、写真美術館という名前ながら開館当初から19世紀の映像の歴史に関わる様々な貴重なコレクションを持っている世界的にも非常に珍しい美術館。見て作品そのものを体験できる写真作品とは違い、映像装置などは実際に体験することでその装置の面白さを知ることができるもの。19世紀の本物の装置は展示を外から見て、装置の動きの部分、仕掛けの部分を思い切って触って体験してもらえるよう、本物の周囲に岩井とプリミティブメディアアーティストの橋本が一生懸命一つずつ制作したというレプリカ群が置かれている。

いわいとしおと《車輪のイリュージョン》

《ソードロープ》

左《プラクシノスコープ・テアトル》 右《プラクシノスコープ》

第2部では、岩井のメディアート作品を順番に紹介する。作家活動につながっていった原点となる子ども時代のアイデアのノート、原体験としてのパラパラマンガからいかに19世紀の映像装置への興味、そしてテクノロジーと融合していったかを紐解く。実際に触ることのできる学生時代の作品のレプリカや大きなインスタレーションを通して子供たちにメディアアートに興味を持ってもらいたいという願いが込められている。

いわいとしおと《驚き盤》(表側の絵を鏡に映しながら回すアニメーションになって映る)

《時間層Ⅰ》

《時間層Ⅱ》

《STEP MOTION》

《〈100かいだてのいえ〉シリーズ原画》

《かがみの100かいだてのいえ》

最後のコーナーは「イワイラボ – 19世紀を再発明」。これまでご紹介してきた、19世紀の歴史をちゃんと学ぶコーナーであり、自身が岩井自身が幼少期からずっと作り続けてきたメディアアートの作品を19世紀とつなげることを試みている。

2008年に出版し、大ヒットとなった「100かいだてのいえ」をとおして、絵本が親子のコミュニケーションが生まれるとてもいいメディアだということに改めて気がついたという岩井。目の前の紙の本を1ページ1ページ手でめくってコミュニケーションがする非常に物質的な、人間的な世界に対して、2007年まで作っていたメディアアートというとコンピューター的な離れた世界をいかに埋めていくか。そのために、岩井が長年やってきたメディアアートの技術と19世紀の様々な研究とを合体させた成果を作品のプロトタイプを展示している。

いわいとしおと《花のおどろきばん》のワークショップキット

 

メディアアートに精通していたり、メディアの発展の歴史について明るいわけではない人であっても必ず得るものがあり、万人に向けて語りかけてくれるそういった姿勢で映像とメディアとの可能性をみせてくれる本展をぜひご覧ください。

《マシュマロスコープ》

開催概要

会期:2024年7月30日(火)- 11月3日(日・祝)
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
時間:10:00~18:00
※木・金曜日は20:00まで、ただし7/18(木)~8/30(金)の木・金曜日は21:00まで。
※入館は閉館時間の30分前まで
会場:東京都写真美術館 B1F 展示室(東京都目黒区三田1-13-3恵比寿ガーデンプレイス内)
料金:一般 700(560)円/学生 560(440)円/中高生・65歳以上 350(280)円
※( )は有料入場者20名以上の団体、当館映画鑑賞券提示者、各種カード会員割引料金
※小学生以下、都内在住・在学の中学生および障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2名まで)、TOPMUSEUM PASSPORT 2024提示者は無料
※8月30日(金)までの木・金曜日17:00-21:00はサマーナイトミュージアム割引(学生・中高生無料、一般・65歳以上は団体料金。学生証・年齢が確認できるものをご提示ください。)
※第3水曜日は65歳以上無料(各種割引の併用はできません。)