2023年12月16日(土)~2024年3月10日(日)まで、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]にて「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」開催中!
2023年3月28日に逝去した音楽家・坂本龍一とICCとの関わりは、開館以前のプレ活動期間(1991年~)に遡る。また、展覧会の企画に連動したコンサートの開催(ローリー・アンダーソン展2005年)や、ICC開館10周年および20周年記念企画展も坂本(と高谷史郎)によるものであるように、ICCと深い関わりを持ってきたアーティストでもある。
坂本自身、90年代初頭の黎明期よりインターネットに関心を持ち、インターネット・ライヴを実施するなど、作品へのメディア・テクノロジーの導入を積極的に行なってきた。以降、1996年のメディア・アーティスト、岩井俊雄とのコラボレーションをはじめとして、2000年代以降は、カールステン・ニコライ、高谷史郎、真鍋大度、毛利悠子といったアーティストとのインスタレーション制作など、現代美術〜メディア・アートの分野でも多くの作品の制作を行なっている。
2017年に開催した、ICC開館20周年記念企画展「坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME」は台湾に巡回し、作品《IS YOUR TIME》は北京での坂本の個展にも出品されたほか、現在(2023年)は中国・成都で大規模個展「SOUND AND TIME(一音一時)」が行なわれている。
本展覧会では、メディア・アート分野においてもはかりしれない功績を残した坂本の追悼とともに、ライゾマティクスの真鍋大度を共同キュレーターとして迎え、坂本の残した演奏データをもとにした作品や、国内外のアーティストによる、坂本とのかかわりのある作品、これまでのICCでの展示などの記録によって構成し、坂本の活動を継承し、展開する、未来に向けた坂本龍一像を提示することを試みる。
坂本龍一さんは、音楽とテクノロジーとのかかわりにとても意識的な音楽家だったと思います。それは、つねに同時代的であった、あろうとしていた、ということでもあり、かつ、テクノロジーを使った音楽表現の可能性の探求が、その反面で孕んでしまう問題にも意識的であったということでしょう。坂本さんが自身の音楽表現の方法として、インスタレーションという手段を用いるようになって、私たちはあらためて坂本さんの伝えたかったことをよく知ることができました。それは音楽をすることに自由になっていく坂本さんの姿を反映するものでもあったのだと思います。音楽の歴史の中に、あらたな音楽の歴史を聴きなおすように、物音の中にも音楽を聴き取るように、世界と対峙した坂本さんの芸術家としての姿は、多くのアーティストにインスピレーションを与えました。そんな坂本さんの本質のようなものが、坂本さんのアート作品の中にあったということを展覧会で表現したいと思います。
キュレーター:畠中 実(ICC主任学芸員)
坂本龍一氏の生涯にわたる創造的探求は、アーティストやミュージシャンにとって尽きることのないインスピレーションの源です。彼はシンセサイザー、インターネット、リアルタイムCGなど、時代の最先端技術を駆使し、実験的なプロジェクトを展開しました。これらの功績は、後世にも語り継がれることでしょう。
2019年より、私は龍一氏の演奏を特殊な撮影装置でアーカイヴするプロジェクトを行なっていました。システム開発とアート・ディレクションを担当し、この過程で彼との対話を重ねました。特に印象深かったのは、龍一氏が単にアーカイヴされた内容に留まらず、それらのデータを基にしたAIの開発に関心を持っていたことです。自身の創作データを用いて新たな試みに挑む好奇心の旺盛さは、彼の創造力が絶えず新たな境地を求め、進化し続けていることの明確な証拠と言えます。
この展覧会では、遺された価値あるデータを活用し、彼の芸術的志向を未来へと受け継ぐ作品を創出することで、敬愛する「坂本龍一」へのトリビュートを表現します。
キュレーター:真鍋大度(ライゾマティクス)
出品予定作品例
坂本龍一+真鍋大度《センシング・ストリームズ-不可視,不可聴》(成都ヴァージョン)2014/23年
札幌国際芸術祭2014において、札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)およびモエレ沼公園ガラスのピラミッドに設置された、私たちを包囲する通常では意識されることのない情報環境を可視化・可聴化するインタラクティヴなインスタレーション作品。アンテナによって収集された電磁波を、コントローラーで周波数を変更させながら、さまざまに刻々と変化するヴィジュアルとサウンドによって体験する。
高谷史郎《Piano 20110311》2018/23年
「設置音楽2|IS YOUR TIME」展(2017)で、新たな装置として転生した、東日本大震災の津波で被災した宮城県名取市の高校のピアノを、スキャンするように、対象物を写し取る方法で撮影した作品。このピアノに出会い、近代を象徴する楽器を自然が物に返したと感じた坂本は、このピアノが奏でる物音の中に音楽を聴き取ることから音楽の再生を試み、高谷史郎とともに、より大きな世界を感覚する作品を作った。
Dumb Type + Ryuichi Sakamoto《Playback 2022》2022/23年
ダムタイプによるアナログ・レコードを使ったサウンド・インスタレーション作品《Playback》は、1989年に発表された同名作品をベースに、2018年にリモデル版として制作された。その後2022年にミュンヘンのハウス・デア・クンストで開催されたダムタイプ展で展示された《Playback》では、坂本龍一ディレクションによる世界各地のフィールド・レコーディング音源により構成された。このレコーディング音源は、ヴェネチア・ビエンナーレのために制作されたダムタイプの新作《2022》にも組み入れられている。
本展では、これら16枚のレコードに坂本自身の未発表音源「Tokyo 2021」が収録された全17枚組の『Ryuichi Sakamoto | Art Box Project 2023: Dumb Type + Ryuichi Sakamoto, Playback 2022』(世界限定100セット)を展示。会場では「Tokyo 2021」を聴くことができる。
alva noto + ryuichi sakamoto《insen》(making of)2009年
坂本龍一とアルヴァ・ノトことカールステン・ニコライは、2002年に最初のコラボレーション・アルバム『vrioon』をリリースした後、継続的に活動を行うようになった。2005年の『insen』は、彼らの2枚目のアルバムで、このセットによるピアノと電子音響と映像によるコンサート・ツアーが行なわれている。
ポルト(ポルトガル)とバルセロナ(スペイン)で行なわれたパフォーマンスを収録した映像作品も発表。本展では、そのメイキング映像を展示する。
毛利悠子《そよぎ またはエコー》2017年
《そよぎ またはエコー》は、北海道の旅からインスピレーションを得て「札幌国際芸術祭2017」で制作・発表された作品だ。会場となった札幌市立大学内の空中歩廊「スカイウェイ」(設計:清家清)のダイナミックな空間を活かし、鑑賞者が会場の端から端まで移動しながら、配置されたさまざまなモノから発される電磁波、光、音やそのエコーの変化を感じとることができるようになっていた。
ヴァルター・ベンヤミンの「歴史の概念について(歴史哲学テーゼ)」からタイトルが採られた本作品のために、坂本龍一は曲を提供。本展では、その曲が流れていた自動演奏ピアノの部分を中心に再構成したバージョンを展示する。
李禹煥《遥かなるサウンド》2022年
《遥かなるサウンド》は、坂本龍一の生前最後のオリジナル・アルバムとなった『12』のジャケットのために描き下ろされたドローイングだ。ジャケットでは、李のアイデアにより、ドローイング部分のみを13度の角度に傾けて完成されている。
出品作家:坂本龍一、Strangeloop Studios、高谷史郎、ダムタイプ、カールステン・ニコライ、404.zero、カイル・マクドナルド、真鍋大度、毛利悠子、ライゾマティクス、李禹煥 ほか
真鍋大度キュレーション
Strangeloop Studios
404.zero
坂本龍一が楽曲を演奏した際のMIDIデータや音声データを活用して、新たな作品を独自の視点で再構築する、真鍋大度キュレーションによる展示。 参加アーティストたちには、坂本の貴重な演奏データが提供され、リミックス、リモデル、リコンストラクションなど、多様な解釈と手法を駆使して創造されたオーディオ・ヴィジュアルの作品群を紹介する。
真鍋大度+ライゾマティクス+カイル・マクドナルド《Generative MV(仮題)》2023年
2020年にライゾマティクスが演出を手がけた、坂本龍一のオンライン・ピアノコンサート「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020」で演奏された楽曲のMVを、新たに開発されたAIを活用した映像制作手法によって制作。
このオンライン・ピアノコンサートで、坂本は周囲をグリーンバックに囲われた環境で演奏が行われた。そこで収録されたアーカイヴ映像を素材に、観客が入力したテキストを元にしてAIが画像を生成し、背景に合成する。
坂本龍一 プロフィール
1952年東京生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了。1978年『千のナイフ』でソロデビュー。同年「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」に参加。YMO散開後も音楽を中心に多方面で活動。映画『戦場のメリークリスマス』の音楽で英国アカデミー賞を、映画『ラストエンペラー』の音楽ではアカデミー作曲賞、グラミー賞最優秀オリジナル映画音楽アルバム賞ほかを受賞。数々の映画音楽を手がけるなど、作曲家としても世界的な評価を得ている。常に革新的なサウンドを追求し、2007年に山口情報芸術センター[YCAM]で委嘱制作された高谷史郎との《LIFE – fluid, invisible, inaudible…》を発表。以降、インスタレーションの発表を数多く行なっている。2013年、YCAM10周年記念祭のアーティスティック・ディレクターを務め、展覧会「ART-ENVIRONMENT-LIFE」を開催。2014年には、札幌国際芸術祭のゲスト・ディレクターを務める。社会的な問題へも強い関心を持ち、森林保全と植林活動を行なう「more trees」、脱原発チャリティ・イヴェント「NO NUKES」、東日本大震災の被災地支援のための「こどもの音楽再生基金」、「東北ユースオーケストラ」など、さまざまな活動を行った。2021年、M WOODS/北京、2023年 M WOODS/成都で大規模なインスタレーションの展覧会が行なわれている。2023年3月28日死去。
上映プログラム
ICC館内のシアターにて、坂本龍一が出演したパフォーマンスやコンサートの記録映像を上映。
▼野村萬斎+坂本龍一+高谷史郎《LIFE – WELL》2013年
出演:梅若紀彰、野村萬斎、大倉源次郎、一噌隆之、亀井広忠、小寺真佐人、坂本龍一 ほか
演出・構成:野村萬斎、坂本龍一、高谷史郎
映像:高谷史郎
上映協力:山口情報芸術センター[YCAM]
▼「After the Echo」2017年
出演:カミーユ・ノーメント、坂本龍一
インスタレーション:毛利悠子《そよぎ またはエコー》
企画:毛利悠子
監督:フェリペ・マルティネス
※「札幌国際芸術祭2017」関連イべント
▼「坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2」展 IS YOUR TIME コンサート 2017年
出演:坂本龍一
※このほかの上映プログラムおよび上映スケジュールの最新情報は、ICCのウェブサイトにてお知らせ。
関連イベント
▼オープニング・トーク 浅田彰
開催日時:2023年12月16日(土)午後2時より
▼キュレーター・トーク 真鍋大度
開催日時:2023年12月17日(日)午後2時より
各回とも
会場:ICC4階特設会場
定員:150名
※イベントの参加方法や、このほかの関連イべントに関する最新情報は、ICCのウェブサイトにてお知らせ。
開催概要
会期:2023年12月16日(土)~2024年3月10日(日)
開館時間:11:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日、年末年始(12/28~1/4)、ビル保守点検日(2/11)
※月曜日が祝日もしくは振替休日の場合、翌日を休館日
※休館日以外においても、開館時間の変更および臨時休館の可能性あり
会場:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC] ギャラリーA
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階
入場料:一般 800円(700円)、大学生 600円(500円)
※( )内は15名様以上の団体料金
※ 障害者手帳をお持ちの方および付添1名、65歳以上の方と高校生以下、ICC年間パスポートをお持ちの方は無料。
※ 予約方法の詳細は、後日ICCウェブサイトにてお知らせ。