2022年1月21日(金)~3月25日(金)に森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52F)にて開催する、ボストン美術館所蔵「THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語」が開幕した。

『平家物語』をはじめ、さまざまな軍記物語や武勇伝説に登場する英雄(ヒーロー)を描いた武者絵は、浮世絵の祖と言われる菱川師宣の時代から、江戸後期の歌川国芳、明治期の月岡芳年にいたるまで、多くの浮世絵師によって描かれてきた。そこには、源頼光、源義経、上杉謙信、武田信玄といった武将の活躍ほか、スサノオノミコトの武勇、巴御前のような女武者の奮戦も数多く描かれている。

本展では、世界最高水準の日本美術コレクションを誇るボストン美術館の所蔵品や国内コレクションから厳選した武者絵と刀剣、そして武者絵と共通のイメージがデザインされた刀剣の鐔(つば)を展示。さまざまなヒーローたちの活躍の物語を楽しむことができる。

最初の章「神代の武勇譚」では、古事記や日本書紀、風土記などで伝わる神代(神が治めていたとされる時代)の物語に出てくる英雄(ヒーロー)たちの活躍が紹介される。例えばスサノオノミコトのヤマタノオロチ退治の場面について、歌川国芳や歌川国輝、月岡芳年が描いた3作品が出品されているが、同じ物語であっても少しずつ描写が異なる。それぞれに共通する部分、異なる部分を考えながらぜひ見てほしい。

「平安時代の武者」では、平安時代に力を持った清和源氏と桓武平氏にまつわる物語を紹介する。中にはまさかりをかついだ金太郎や、源頼光の土蜘蛛退治など、今も節句人形や歌舞伎などで知られる場面もあり、これら英雄の武勇について、いかに今まで語り継がれてきたのかうかがい知ることができる。

英雄たちの活躍を伝える武者絵の描写は、今のヒーロー漫画などに通じる大胆な構図と筆致も見られる。特に歌川国貞《茨鬼 戻橋綱逢変化》では、斜めに描かれた線が漫画の効果線のような役割を果たしているようにも見えるだろう。

ただし武勇といっても動的な描写だけではない。月岡芳年の下記の作品のように、静的な武勇もある。これは盗賊の袴垂保輔が、一人笛を吹きながら悠然と道を歩く平井保昌の衣服を剥ごうと跡を尾けている場面で、袴垂の緊張感と保昌の隙のなさが伝わってくる。結局最後は袴垂は保昌を襲えず、尾けていった先の保昌の館で、逆に保昌から衣を与えられ戒められるのだが、そうした静的な武勇も武者絵では描かれているのだ。

「源平時代の英雄」では『平家物語』や『源平盛衰記』といった軍記物語などで語られている場面を紹介する。この時代の英雄たちの物語は、武者絵の画題としても多くとりあげられており、特に源義経(牛若丸)と弁慶の五条橋での出会いにまつわる作品は、本展でも多数出品されている。

また本展では武者絵の横に共通のイメージがデザインされた鐔も展示されている。通常、鐔は壁にかけて展示されるものではないが、本展では浮世絵と横並びに展示されており、見比べながら鑑賞することができる。下記の2作品は、いずれも鎌倉時代の真言宗の文覚上人を描いた作品。

加えて本展では、武者絵の横に、その物語を解説するキャプションだけではなく、中には4コマ漫画で解説している作品もあり、物語を知らなくても、どのような場面を描いているのかわかりやすい。

「鎌倉時代の物語」の章では、『曽我物語』の場面をはじめ、現在放映中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にも登場する北条時政に関連する物語を描いた作品も展示されている。時政が江の島で子孫繁栄を祈ったところ、弁財天が現れ、時政の子孫が栄華を誇る未来を告げたのち、大蛇となって海の中に消えたという。そのお告げに喜んだ時政が、その跡に残った3つの大きな鱗を旗に押して、北条氏の三つ鱗の紋につながったともいわれるが、本展ではそんな弁財天と時政のエピソードを描いた作品が展示されている。

「『太平記』の武将たち」の章では、鎌倉幕府の滅亡~南北朝の動乱にかかる合戦というよりも、楠正成とその息子との最期の別れの場面や、新田義貞の奉剣など、南朝方の忠臣たちの物語を画題としたものが多くみられる。またこのころ武将たちが持っている太刀は長辺のものが多く、他の時代と異なる点にも注目したい。

「川中島合戦」の章では、上杉謙信と武田信玄の一騎討や水辺での戦いなど、川中島合戦の場面を描いた浮世絵のほか、上杉の愛刀も見ることができる。

「小説のヒーローたち」では、「椿説弓張月」や「南総里見八犬伝」など、19世紀に人気を博した、「読本」と呼ばれる伝記的な長編小説の登場人物たちを描いた武者絵が並ぶ。この色鮮やかな錦絵の中で、英雄たちが動物や怪物などと対峙し、活躍するさまは、現代のヒーロー漫画にも通じるものがあるだろう。

義経と弁慶の出会いと聞けば五条橋が思い浮かぶように、私たちは知らず知らずのうちに彼ら英雄の武勇について共通のイメージを持っているのではないだろうか。それはこれら武者絵や鐔などで、あるルールをもって受け継がれてきたからだろう。そうしたイコノグラフィの観点からも、また単に図像としての面白さも楽しめる本展にぜひ足を延ばしてほしい。

開催概要

開催日:2022年1月21日(金)~2022年3月25日(金)
時間:10:00~20:00 ※最終入館は閉館30分前まで、火曜日は17:00まで
会場:森アーツセンターギャラリー (六本木ヒルズ森タワー52階)

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