2023年1月28日(土)~2月13日(月)まで、「Study:大阪関西国際芸術祭 2023」のプログラムの一つとして「再・解釈」展が船場エクセルビルにて開催中だ。

「Study:大阪関西国際芸術祭 2023」とは

2025年に世界最大級のアートフェスティバル「大阪関西国際芸術祭」の開催を目指し、「アートとヒト」「アートと社会」の関係性や、アートの可能性を検証し学ぶ(Studyする)ためのプレイベントだ。

第2回となる今回は、関西に縁あるアーティストの展覧会をはじめ、国内外のギャラリーが出展し誰もが作品購入を楽しめるアートフェア、そしてアートの可能性を引き出すべくテーマ性を持ったカンファレンスの実施、さらにはレストランを会場に、期間限定で食とアートのコラボレーションを実現するアートダイニングなど、芸術祭会期の17日間、アートを『みる』『買う』『食す』『学ぶ』、多彩なプログラムを実施する。

展覧会「再・解釈」概要

「再解釈」は不服従の行為である。それは、確立された表象の秩序を逆転させ、脱植民地化の行為と同様に、中央から押し付けられた普遍主義の言語に対して異議を申し立て、辺境の植民地を中央に組み入れようとする試みである。 再解釈は、つまり、これまで排除され、虐げられてきた人々の声を回復させることかもしれない。 エジプトの作家であり活動家のナワル・エル・サーダウィの言葉を借りれば、今日「私たちに必要なのは、伝統や宗教への形式的な回帰ではなく、歴史を再読し、再解釈することによって、現在を照らし、より良い未来への道を開くこと」なのだ。

本展覧会では、特権的な中心部の外にいる人々の多様な在り方や自発的な行為を再解釈し、よくある西欧覇権主義から離脱するため、いわゆる「非英語圏」の世界から主に作家を招聘した。
本展に招待された作家たちは、実用主義的な単一主義に反対して、複数性、詩的な優しさ、共同体的連帯を支持するために、ロマン主義の思想とポストコロニアル批判の両方にルーツを持つ、不服従の行為を新たに読み直している。個人の疎外感、トラウマ、失敗、欠如の価値を見出す19世紀のロマン主義思想には、精神的・道徳的秩序に基づき、自身を差異化し、異なるものに対して開かれ、人間性形成の一側面、近代文化に対する抜本的な批判にも、文化のビジョンを再構築するという「再解釈」の視点を見出すことができる。

再解釈の活動を通して、現代の歴史修正主義、絶えず繰り返される帝国主義の恐怖、個人と国家のアイデンティティ、政権のプロパガンダの本質、「植民地化した側とされた側」のポストコロニアル史に関する問題について、新しい読解の可能性が示される。
たとえば、カラオケプロジェクトに招待したり、変容する多義的な民話を集め共有しあったり、女性の家事労働者の権利に関する議論に、歴史的記念碑を象徴的に取り込んだりすることによって、作家たちは、社会秩序から排除された集団やコミュニティに、文字通りの意味でも、比喩的な意味でも、再び声を与え、新たな物語や実践を生み出そうとする。

こうした表現を通じ、歴史、ジェンダー、アナキズム、神秘主義やロマン主義の再読を行い、既存の枠組みや解釈を超える「新たな解釈(再解釈)」を呼び込もうという試みだ。

キュレーター:加須屋明子 コメント

本芸術祭では、この船場の後継者である若き経営者の皆さんが集まり、「船場アートサイト」という取り組みをされております。

これから立て直しが予定されている老朽化してきた大きなオフィスビルで、テナントが空いている状態の所を、取り壊しまでにまだ期間があるということで私たちに託していただきました。

辰野株式会社さまからのご協力で本芸術祭の前身となります「船場アートサイト」という取り組みを何年かされて、昨年初めて「Study:大阪関西国際芸術祭」を立ち上げることができました。

大阪の旦那衆が街のために、成長戦略としてのアートというものを、どのように形にしていくかという取り組みが、2025年の本開催に向けての目的になっております。ですので、街の人たちの社会、企業、教育など、本当に言葉だけではない、産学官民連携というものを使って芸術祭を作り出すというものを、実験として行っております。

さまざまな課題がありますが、これからの2025年に向けて、この本芸術祭の期間だけではなく、2025年に向けての取り組みというものにもご注目いただけたらと思います。

大大阪時代の地図も、株式会社ストローリーが本芸術祭のマップの協力をしてくださいました。

いろんな取り組みをしている企業と一緒に、芸術祭に関わっていくということを鈴木さん(株式会社アートローグ代表取締役CEO)はとても大事にしています。この「study」というさまざまな問いを車にラッピングして、大阪の街を走るというご協力をいただいているので、うまく私たちのツアーとキャッチアップできればと思っております。

本芸術祭のフライヤーは、「アートには何が可能か」「アートはわかる必要があるのか」「アートは、アートがもたらす価値とは」など、計9種類の問を用意しております。

こういったセレンディピティといいますか、偶然はあなた自身の潜在意識からの問いかけになっております。

マルタ・ロマンキフ コメント(訳)

私はウクライナ出身で、ポーランドに来てもう8年ほどになりますが、ポーランドで活動している間に気が付いたことがあります。ポーランドの家事労働者の多くはウクライナ人なのです。そういう労働に携わっている人々に声を与えたいと思い、2021年から活動しています。例えば、そうした人々の労働のお話しの記録や、家事労働者の記念碑を作るなどしています。記念碑というのは、だいたい著名な男性方のものがありますが、生活を支えている家事労働者を讃えなければ私たちの生活は成り立たないと思っています。

《草上の朝食(「家事労働組合」シリーズより)》コンセプト
マルタ・ロマンキフの発案で結成された高齢者介護者グループの会合の様子を記録したものである。作家は、心身ともに疲弊する仕事、24時間体制、休日の少なさといった厳しい現実とは裏腹に、介護士が常に努力していることに触れ、「休息と夢に集中しよう」と参加者に呼びかけた。

ユリア・クリヴィチ

キュレーターのパヴェウ・パフチャレク(左)とユリア・クリヴィチ(右)

《予感、現在進行形 / Predchuvstviye, Peredchuttya》コンセプト
この本は2015年に執筆され、クラクフ写真月間中に、Visual Arts Foundationから300部発行されました。
私はウクライナ出身です。2011年にポーランドに移住しました。
私はよく故郷に行きました。2013年と2014年の夏のことです。マイダンの直前、クリミア併合の直前、ドンバス戦争の直前。そして、何かが起ころうとしている、何かがやってくる、そんな二重の不思議な感覚がありました。
これがクリミアです。これが黒海。
これはウクライナに関するプロジェクトですが、同時にある出来事を感じることについてでもあり、その場合は場所は二の次となります。2014年にウクライナで起こったこと、つまり今も続いている紛争は、その後ヨーロッパ全土で展開されたさまざまな状況に影響を与えたと思われます。
また、私の移民経験もあります。他の国で自分を探すということがどういうことなのかを痛感していたので、『Presentiment』の二面性という感覚は、私の生活体験にも直結しているのです。
同時に、普遍的なレベルで、私たちも生きていく上でのダブルスタンダードについて考えていました。例えば、ドンバスでの戦争は2014年に始まりましたが、最初の2年間は「対テロ作戦」と呼ばれていました。この統合失調症、二重の現実は、明らかに私に直接関係するため、より私を傷つけました。
マイダンはキエフだけでなく、さまざまな都市で行われました。キエフでは最大規模であり、尊厳の革命の始まりと終わりを告げました。様々な都市で抗議活動が行われました。これは私の故郷であるドニプロです。市議会はデモ隊から身を守ることを決め、男たちを連れてきて、男たちを連れてきて警棒を持たせて人を殴らせたり、市議会前の中庭に水をかけ、アイスリンクにして、デモ隊が入れないようにしたのです。
この本全体は、そんな脆い現実の上に成り立っています。手に取ると、バラバラになりそうな予感がします。糸で縫われ、生々しく、未完成な感じがします。ハードカバーに新聞を挟み込んだような形。
この本は、ブックデザイナーのアーニャ・ナウェンツカ・ミラハと一緒に作りました。というのも、私はこの本がカタログや普通のページにはなり得ないとわかっていたからです。ここで何が起こっているかは、私にとってとても重要なことです。
この写真もそうです。一見するとゴミ捨て場のようですが、これは夜のキエフのマイダンでバリケードを作っているところです。
このシーンは、私の故郷での抗議活動の続きの様子です。先ほども申し上げましたが、市当局は水を使いました。マイナス20℃では、水は数分で氷になり、私たちは直接水をかけられたのですが、ここで何か変に美しい状況が生じました。
また、本の背表紙や名前、タイトル、巻末の短い説明文に母国語を使うことも、私にとってはとても重要なことでした。

ユリア・クリヴィチ

ユリア・クリヴィチ

タラス・ゲンビク

「私の秘密の部屋(「沈黙のホテル」シリーズより)」
1960年代初頭、ヴァシル・シモネンコは友人のアラ・ホルスカ、レス・タニュクとともに、キーウ近郊のビコフニアの墓地で、NKVD(内部人民委員部、後のKGB)による政治弾圧で殺害された犠牲者–ウクライナのカティンのリストに載っている者も含む–の匿名の埋葬を発見する。彼はそれをソ連当局に報告するが、数ヵ月後、スマイル駅で民兵隊員に致命的な暴行を受けることになる。1965年、セルゲイ・パラジャーノフの映画の試写会で、秘密工作員が観客をかき消すと、ヴァシル・スタスは叫ぶ。「暴政に反対する者は誰であれ、立ち上がれ!」。ソ連の弾圧に反対する最初の抗議行動に参加したため、彼はキーウ文学院を解雇された。数年後、再び逮捕が相次ぎ、裁判所は彼に「反ソ連扇動」の罪で収容所5年、国外追放3年の判決を下す。1979年に帰国するが、1年足らずで再び10年の禁固と5年の国外追放を言い渡される。ハンガーストライキを開始し、懲罰房で死亡。
1960年代半ば、リナ・コステンコはウクライナの知識人の逮捕に抗議する書簡に署名する。ホリン兄弟の裁判では、被告に花束を贈った。彼女は作家を擁護する演説を始め、彼らの釈放を求める嘆願書を書き、ソ連政府のブラックリストに載せられた。十数年間、引き出しの中だけで(公表することなく秘密裏に)執筆を続ける。
「沈黙のホテル」の一環として制作されたタラス・ゲンビクの作品は、ウクライナの詩人や歌人の作品をコラージュし、全体主義体制-その壁から今もなお残響の聞こえる体制-と戦うための武器である言葉でタイトルの部屋を満たしている。「あなたは自分が人間であることを知っていますか/知っていますか/あなたの笑顔-ただひとつ/あなたの情熱-ただひとつ/あなたの目-ただ一対/明日にはあなたはいなくなる/明日この地球で/他の人々が歩く/他の人々が愛する/良いことも優しいことも悪いことも」。シュトゥスの幽閉の一瞬と一瞬の間に書いている。
文:アンナ・バトコ

タラス・ゲンビク

秋山由衣

ワルシャワに住んでいる秋山由衣は、日本人ながらポーランドを拠点に活動。彼女は、自分が日本人としてポーランドで生活をする中で経験したさまざまな衝突や、つらい出来事を題材にして、アイデンティティの問題を絵画の中に表現しているという。

秋山由衣

秋山由衣

前田耕平コメント

僕の作品は写真であると同時に、自分のパフォーマンス作品でもあります。

この芸術祭には後から誘っていただく形で参加したので、芸術祭の構造とかキュレーションのことなどを後追いでいろいろ考えさせてもらいながら、そこの中に隙間を見つけて差し込めるような新作を作りました。

(船場エクセルビルでは)社会的な状況や問題などを取り扱っている作家たちをキュレーションしていると思いますので、以前から続けてきた「自分が作品の中に登場する」というスタイルのもとで象徴的な作品を作りました。階段の踊り場に展示されているので、上がったり下がったりしていただきながら、作品中の僕の頭上にある石のようなものの存在について考えていただけたらと思います。

前田耕平

前田耕平

アウンミャッテー

アウンミャッテー

アウンミン

コレクティヴ・ワスキ(ユリア・ゴラホフスカ、ヤゴダ・クフィアトコフスカ、下村杏奈)

釜ヶ崎芸術大学

トゥアン・マミ

小松千倫

キュレーター
加須屋 明子、パヴェウ・パフチャレク、プロダクション・ゾミア

アーティスト
アウンミャッテー、アウンミン、秋山由衣、小松千倫、コレクティヴ・ワスキ(ユリア・ゴラホフスカ、ヤゴダ・クフィアトコフスカ、下村杏奈)、ダニエル・コニウシュ、タラス・ゲンビク、トゥアン・マミ、ボグナ・ブルスカ、前田耕平、マルタ・ロマンキフ、ミコワイ・ソプチャク、ユリア・クリヴィチ

▼船場エクセルビルについて
1970年大阪万博の前年に竣工した辰野株式会社所有の「船場エクセルビル(旧 船場合同ビル)」には、2006年から2011年までの間、大阪市立大学のサテライト施設である「船場アートカフェ」が設けられ、建物の一角を中心に、アートとコミュニティに関する研究実践、文化芸術を介した都市再生への試みが展開されてきた。「船場アートサイトプロジェクト」では、そのDNAを受け継ぎ、活動拠点として、アーティストやクリエイター、ビジネスパーソン、地域住民がアートを中心に集い、出会う機会を創出している。

▼船場アートサイトプロジェクトとは
2021年、辰野株式会社(本社:大阪府大阪市中央区、代表取締役社長:辰野光彦)、株式会社アートローグ(本社:大阪府大阪市北区、代表取締役CEO:鈴木大輔)を主たる実行メンバーとして始動。

「船場」は、大阪の歴史的中心市街地で、北は土佐堀川、東は東横堀川、南は旧長堀川 (現在は長堀通)、西は旧西横堀川 (現在は阪神高速道路)に囲まれた南北2.1km、東西1.1kmの約230haの区域を指し、かつて船場の旦那衆と呼ばれる経営者達が住まい、文化芸術を支え育んできた歴史的背景を持つ。近年は、インバウンド需要によるホテルや職住近接によるタワーマンションの建設が進み、「暮らしが息づく街」、「職、住、遊がバランスよく調和する地域」へと変化を遂げつつある。

「船場アートサイトプロジェクト」は、2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)開催を機として、大阪がドラスティックな変化の時を迎えている中、長年商都大阪を支えてきた船場地区をアートでアップデートし、国内外に向け一大アートサイトとしてリブランディングを試みる取り組みである。

開催概要

開催日:2023年1月28日(土)~2月13日(月)
時間:11:00〜19:00 ※最終入場は閉館30分前
住所:大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目2−11
アクセス:大阪市営地下鉄 御堂筋線 「本町」駅 11番出口より徒歩4分
大阪市営地下鉄 堺筋線 「堺筋本町」駅 10番出口より徒歩8分
共通パス:必要(現地販売あり)
※入場は、1階から階段で2階受付へお越しください

詳細はこちら

▼Study:2023キュレータートーク
日時:2023年1月28日(土) 19:00〜20:00
登壇者:南條史生(キュレーター/美術評論家/森美術館特別顧問)、加須屋明子、沓名美和、丹原健翔、パヴェウ・パフチャレク、藪本雄登(プロダクション・ゾミア)(以上、本芸術祭キュレーター)、鈴木大輔(株式会社アートローグCEO)
※登壇者は変更になる可能性があります
会場:船場エクセルビル 2F

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