日本で生まれた多様な美術表現に光をあてる
時代のプリズム:日本で生まれた美術表現1989‒2010
文=ONBEAT編集部(一部オフィシャルサイト等参照)、写真=ONBEAT編集部
2025年9月3日(水)から12月8日(月)まで、国立新美術館は、日本のアートシーンを彩った革新的な表現に光をあてる展覧会「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」を開催します。昭和が終わり、平成の始まった1989年から2010年までに、日本でどのような美術が生まれ、日本からどのような表現が発信されたのか。本展は、国内外の50を超えるアーティストの実践を検証します。

時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010 国立新美術館 2025年 「プロローグ」展示風景 写真:ONBEAT編集部
この20年間は、冷戦体制が終わり、人、ものが行き来するグローバル化の始まりによって、国際的な対話が大いに促進された時期です。当館はアジア地域におけるパートナー美術館、香港のM+との協働キュレーションにより変化に富んだ時代を見つめ直します。

時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010 国立新美術館 2025年 「イントロダクション」展示風景 写真:ONBEAT編集部
本展は、80年代初頭以降の国際化の胎動を伝える「プロローグ」に始まり、続く「イントロダクション」では、日本社会が大きな転機を迎えるなか1989年を転換点として登場した、新しい批評性を持つ表現を紹介します。そして、以降の時代をテーマに基づく章=3つのレンズを通して見つめていきます。

時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010 国立新美術館 2025年 「レンズ1:過去という亡霊」展示風景 写真:ONBEAT編集部
1章「過去という亡霊」では戦争、被爆のトラウマ、戦後問題に向き合い続ける探求を、2章「自己と他者と」では自他のまなざしの交換のなかでアイデンティティやジェンダー、文化的ヒエラルキーを問う実践を、3章「コミュニティの持つ未来」では、既存のコミュニティとの関わりや新たな関係性の構築に可能性を探るプロジェクトを紹介していきます。

時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010 国立新美術館 2025年 「レンズ2:自己と他者と」展示風景 写真:ONBEAT編集部
国内外のアーティストによる実験的挑戦は、時代、社会の動向をとりこむプリズムとなって、さまざまな問いかけを含んだ作品へと反射されていきました。この20年間の日本というプラットフォームを国内外の双方向的視点で捉えながら、複数の歴史と文脈が共存する多元的な美術表現を提示します。

時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010 国立新美術館 2025年 「レンズ3:コミュニティの持つ未来」展示風景 写真:ONBEAT編集部
みどころ
表現はどこから生まれるのか ─世界と美術の交差点
本展が焦点を当てる約20年間は、グローバル化が本格的に進展した時期であり、そうした社会構造の変化を反映する新たな表現が生まれました。政治のいち早い安定を得て、経済的繁栄によって国際社会で知名度が高まる日本をプラットフォームに、人やものの移動が可能になり、美術館の開館が相次ぎ、オルタナティヴ・スペースの興隆、アーティスト・イン・レジデンスや芸術祭の活況といった同時代の美術を支える土壌が豊かになる中でどのような作品が生まれてきたかをたどります。

時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010 国立新美術館 2025年 「レンズ1:過去という亡霊」展示風景 写真:ONBEAT編集部
社会の変化にひらかれた表現 ─アーティストたちはどう向き合ったか
平成のはじまった日本、冷戦体制の終わった世界は大きく揺れ動きました。本展は、そのような転機のなかで日本のアートシーンを彩った革新的な表現に光をあてます。日本を起点に核や戦後の問題と向き合う作品、他者との関係を通じアイデンティティを問う試み、コミュニティのなかで新たな関係性を構築するプロジェクトなど、50人/組以上の国内外のアーティストによる実践を紹介します。

時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010 国立新美術館 2025年 「レンズ2:自己と他者と」展示風景 写真:ONBEAT編集部
複数の視点から見つめる ─3つのレンズが導く鑑賞体験
「プロローグ」と「イントロダクション」に続き3つの章で構成される本展では、「戦争の記憶に向き合い読み直す視点」「ジェンダー、ナショナリティ、日本文化の再解釈」「共同体や新しい関係性の可能性を探る」といったテーマにより、鑑賞者は一つの物語ではなく、複数の視点を横断的に体験することができます。国立新美術館と香港のM+との協働キュレーションにより、ナショナリティという枠を越えた批評的な視座が提示され、日本で生まれた美術表現を多層的に読み直す貴重な機会となるでしょう。

時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010 国立新美術館 2025年 「レンズ3:コミュニティの持つ未来」展示風景 写真:ONBEAT編集部
ONBEATが注目するポイント
2025年9月3日より国立新美術館で開催されている「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」。これは、日本の現代アートシーンにおける極めて重要な時代を、香港のアジア現代視覚文化のグローバルミュージアム「M+」との初の協働企画によって多角的に検証する、画期的な展覧会です。グローバル化が加速する現代だからこそ、自らのルーツを見つめ、新たな表現を生み出すことの意義を追求してきた私たちの視点から、本展の注目ポイントを3つご紹介します。
■激動の時代を映す「プリズム」から、表現の源流を探る
本展が焦点を当てる1989年から2010年は、昭和が終わり平成が始まった日本、そして世界では冷戦が終結し、グローバル化が本格的に進展した激動の時代です。社会が大きく揺れ動く中で、アーティストたちは何を考え、何を表現しようとしたのでしょうか。本展では、社会や時代の動向を映し出す「プリズム」としてのアートに着目します。マンガやアニメといったサブカルチャーを昇華させた表現や、社会政治的なメッセージを内包した作品など、50組を超える国内外のアーティストによる多様な実践が紹介されます。経済や社会構造の変化という外部からの光が、アーティストというプリズムを通して、いかに多彩な表現へと分光されたのか。その軌跡をたどることで、現代にまで続く日本のアートの源流と、表現が生まれる瞬間のエネルギーを体感できるでしょう。
■3つの「レンズ」を通して、自らのルーツと未来を問い直す
本展は、単に作品を時系列で追うのではなく、「過去という亡霊」「自己と他者と」「コミュニティの持つ未来」という3つのテーマ(レンズ)を設けて、時代を深く掘り下げていきます。第1章「過去という亡霊」では、戦争や戦後といった、私たちが向き合い続けるべき歴史の記憶に焦点を当てます。第2章「自己と他者と」では、ジェンダーやナショナリティ、あるいは伝統文化の再解釈といったテーマを通じて、アイデンティティの在り方を問いかけます。第3章「コミュニティの持つ未来」では、新たな人との繋がりや社会との関係性を模索したプロジェクトに光を当てます。アーティストたちのまなざしを通して、鑑賞者一人ひとりが自らのルーツと社会との関わり、そして未来について考えるきっかけを与えてくれるはずです。
■アジアの視点がもたらす、日本美術の新たな発見
本展覧会の最大の特色は、国立新美術館と香港のM+との協働キュレーションによって実現した点にあります。日本の美術を日本国内の視点だけで捉えるのではなく、アジア、そして世界の文脈の中に位置づけ直そうとする試みです。この「国内外の双方向的視点」 は、これまで私たちが当たり前と見なしてきた日本美術の歴史に、新たな批評性や解釈をもたらすでしょう。国際的なアートシーンで日本のアーティストたちがどのように受け入れられ、また、海外のアーティストたちが日本というプラットフォームで何を表現したのか。そのダイナミックな交流を知ることは、日本文化の独自性と普遍性を再発見する貴重な機会となります。これは、知的好奇心を大いに刺激されるポイントではないでしょうか。この秋、過去の表現と向き合い、未来を思考する旅へ、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
開催概要
時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010 Prism of the Real: Making Art in Japan 1989-2010 日本的藝術實踐 1989-2010
会期:2025年9月 3日(水) ~ 2025年12月 8日(月)
休館日:毎週火曜日 *ただし9月23日(火・祝)は開館、9月24日(水)は休館
開館時間:10:00 ~ 18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30 分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E(〒106-8558東京都港区六本木7-22-2)
観覧料(税込): 一般2,000円、大学生1,000円、高校生500円
※中学生以下は入場無料
※障害者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は入場無料
ウェブサイト:https://www.nact.jp/exhibition_special/2025/JCAW/
関連イベント
アーティスト・トーク
2025年9月13日(土) 14:00-17:00
本展出品アーティストによるリレー形式のトークです。出品作品の制作と発表の背景、またその時代に作家は何を経験し実践していたのか、さまざまな視点から時代とアーティストたちの表現を検証します。
登壇者: 森村泰昌、風間サチコ、フィオナ・タン、西京人(小沢剛、ギムホンソック)
会場:国立新美術館 3 階講堂
参加費:無料 ただし、本展の観覧券(半券可)が必要です。
シンポジウム
2025年11月7日(金) 15:00-17:00
登壇者:趙純恵(森美術館 アソシエイト・キュレーター) 、橋本梓(京都国立近代美術館/国立国際美術館 主任研究員)、 山本浩貴(文化研究者、実践女子大学 准教授) 、ドリアン・チョン(M+ アーティスティック・ディレクター、チーフ・キュレーター) 、イザベラ・タム(M+ ビジュアル・アート部門キュレーター) 、尹志慧(国立新美術館 主任研究員)
会場:国立新美術館 3階講堂
参加費:無料 ただし、本展の観覧券(半券可)が必要です。