「わたしは、ここに在る」
小麦粉、水、塩、そして時間から始まる。
混ぜ、こね、そして待つ。
膨らんだ生地は、空気と手と熱によって形づくられる。
変化し、姿を変える。
文=ONBEAT編集部、画像=チェコセンター東京
東京・広尾に佇むチェコセンターにて、二つの異なる芸術的アプローチが交錯する展覧会「わたしは、ここに在る」が開催されます。
チェコ出身のバルボラ・カフリーコヴァーと、日本とインドネシアを拠点に活動する安田葉 、二人のアーティストの視点を通して、私たちは「在ること」の意味を深く問い直します。文化、地域、そしてメディアの境界を軽やかに飛び越える彼らの作品は、内なる声と外の世界との対話、その静かで力強い軌跡そのものなのかもしれません。

内面世界を映し出す、二人の探求
チェコの村で自然と向き合うバルボラ・カフリーコヴァー。その人里離れた生活は、彼女の制作プロセス、そして作品そのものに決定的な影響を与えています。自然の荒々しい美しさ、そしてその中に刻まれた人間の痕跡。昨年、福岡でのアーティスト・イン・レジデンスで制作した油彩画は、港で拾ったロープをキャンバスに打ち付けるという、原始的で身体的なプロセスを経て生まれたもの。精神的なつながり、そして緊張からの解放。その内なる響きが、力強い筆致から立ち上るようです。
一方、安田葉の創作の源は、子供の頃の記憶と、デジタル化によって失われゆく伝統文化への興味 。日本とインドネシアを拠点に、世界各地の人々との出会いから着想を得て、立体や映像、インスタレーションを制作しています。母親の故郷である長崎の伝統的な凧。インドネシアや太平洋諸島の凧文化を研究し、和紙や竹といった有機的な素材を用いて生み出される作品は、儚さ、転位、そして異文化間の記憶を静かに語りかけます。
ONBEATが注目するポイント
この展覧会の鍵となるのは、場所や文化、メディアのあいだを絶えず行き来する二人のアプローチを結びつけるという試みでしょう。一つの物理的な場所に留まることなく、内面世界を広げ、それを作品として具現化するその姿勢。
「わたしは、ここに在る」というタイトルが示唆するもの。それは、単なる物理的な存在を超えた、精神的な立ち位置の探求です。
小麦粉、水、塩、そして時間から始まる、ある種の「原始的な行為」の反復。それはまるで、二人のアーティストがそれぞれの場所で、自らの内なる声に耳を傾け、自らの存在をかたちづくるプロセスそのもののよう。この展覧会は、異なる素材、異なる文化、異なる場所で生まれた作品が、一つの空間で共鳴し、私たち自身の内面へと問いを投げかける、そんな貴重な機会となるに違いありません。
開催概要
- 会期: 2025年9月19日(金)~11月18日(火)
- 休館日: 土日・祝日
- 開館時間: 10:00~19:00
- 会場: チェコセンター東京(東京都渋谷区広尾2-16-14)
- 入場料: 無料
- 主催: チェコセンター東京
https://tokyo.czechcentres.cz/ja/program/i-am-where-i-stand