手塚治虫「火の鳥」展
ー火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)
=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴ー
2025年3月7日~5月25日まで、六本木ヒルズ・東京シティビューにて開催

文=ONBEAT編集部

手塚治虫「火の鳥」展 キービジュアル ⒸTezuka Productions

 

数々の名作を生み出し、今なお多くの読者に愛される漫画家・手塚治虫が、自らの「ライフワーク」と宣言した漫画『火の鳥』。「生と死」や「輪廻転生」をテーマに、その血に不老不死の力を宿すとされる伝説の鳥「火の鳥」を追い求める人々の葛藤を、過去と未来を交互に行き来しながら描いたこの一大傑作長編の壮大な世界観は、連載開始から70年が経過した今でも人々の心を掴んでいる。

来春2025年3月7日(金)から5月25日(日)まで東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)にて開催される<手塚治虫「火の鳥」展 ー火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴ー>は、生物学者の福岡伸一氏をキュレーターに迎え、30年以上に渡って執筆された『火の鳥』という壮大な叙事詩を、福岡氏の提唱する生命論「動的平衡」と重ね合わせながら読み解いていく展覧会となっている。

今展覧会を前に、このほど国際文化会館にて手塚治虫「火の鳥」展 記者発表会が行われた。登壇したのは、本展の企画・監修を務めた福岡伸一氏と、本展に企画協力をした手塚プロ取締役員で手塚治虫の娘の手塚るみ子氏。今企画展担当の風間氏(森ビル株式会社)同席のもと1時間半に渡り、福岡氏が携わることになった経緯やキービジュアル、展示構成、『火の鳥』の魅力などが語られた。

記者発表会にて、自身の蝶の標本コレクションの中から、手塚治虫が少年時代に描いた蝶と同種の蝶の標本を紹介する福岡氏(左)と森ビル株式会社の風間氏(右)

 

今回の展覧会で福岡氏を企画監修に起用した理由として風間氏は、「手塚治虫が『火の鳥』連載開始時に提示した『死とはいったいなんだろう?そして生命とは?』という疑問と福岡氏の提唱する生命理論「動的平衡」に重なる部分を見出したから」と語った。これを受けて福岡氏も、手塚治虫についてまず「私の大の愛読書を多く執筆された方で、神様のようにリスペクトしておりました」と敬意を述べ、次いで共に無類の虫好きであることや、万博でパビリオンのプロデュースを担う(手塚治虫は1970年の大阪万博で「フジパン・ロボット館」、福岡氏は2025年の大阪万博で「いのち動的平衡館」)経験を持っているといった共通点を紹介、そういった経緯を踏まえて「この作品を読み解く展覧会に参画させていただくというのは、夢を見るような気持でした」と語った。

また、今回の企画展のサブタイトル「ー火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴ー」については、「わざと長々書いて難しくして、みんなが『何だろう?』と思って来てくれるようにしてみました」と述べ、その内容について解説。「生命とは何か」という疑問に対し、『火の鳥』が作品を通してその答えとして示している「不老長寿を願いつつも有限である生命は、有限であるからこそ輝き、その有限の命は必ず違う命に手渡され巡り巡る」というメッセージを、形あるものは必ず滅び秩序あるものは秩序がなくなる方向にしか動かないという「エントロピー増大の法則」に一生懸命抗いながら、絶え間ない流れの中で絶えず入れ替わり続けることで一定の状態を維持している生命現象(=動的平衡)の姿であると解釈し、その動的平衡としての生命の媒介者が宇宙生命・火の鳥であるという意味が込められたサブタイトルだと語った。

キービジュアルを担当したのは、福岡氏のウェブサイトに掲載されている「動的平衡」のヴィジュアルデザインも担当しているグラフィックデザイナー・佐藤卓氏。今回のビジュアルは『COM』に連載当時の絵柄や色にインスパイアを受けており、時空を超えて存在する超生命体「火の鳥」を中心に据え、黒と赤を基調としたインパクトのあるデザインとなっている。また上部の赤い帯は、火の鳥の乗っている赤い台形の下部とつながるようなデザインで、生命の繰り返しや輪廻の輪を連想させる。このキービジュアルについて、佐藤氏は「赤と黒と白でシンプルに構成し、赤い台形の下は画面の上部に繋がります。動かないポスタービジュアルにおいてどう”流れ”を表現するか。試行錯誤した結果です。」と解説している。

本展の展示構成は、福岡氏の「動的平衡」のイメージ映像を制作した中村勇吾氏が本展のために制作した映像作品から成るプロローグ「火の鳥・輪廻シアター」、『火の鳥』の中に流れる生命倫理や生命哲学を読み解く第1章「生命のセンス・オブ・ワンダー」、『火の鳥』の主要な12編をまんべんなく紹介する第2章「読む!永遠の生命の物語」、描かれることのなかった現在編がどんなものだったのかについて考察する第3章「未完を読み解く」の4部構成。プロローグで展示される映像作品を担当した中村氏は「幼い頃に夢中になった『火の鳥』と全く新しい形で向き合える機会を頂けて、大変光栄です。」とコメントしている。

<プロローグ 火の鳥・輪廻シアター イメージパース> ※イメージ画像

COM『火の鳥』ヤマト編 ©Tezuka Productions

COM『火の鳥』未来編 ©Tezuka Productions

COM『火の鳥 休憩-INTERMISSION-』©Tezuka Productions

 

トークセッションでは手塚るみ子氏も登場し、『火の鳥』の魅力について福岡氏と対談。読む者の成長と共に見え方が変わってくる点や、ドラマとしてだけでなくビジュアル的にも自然の美しさ・人間の醜さを鮮明なコントラストをつけて描いている点、国境を越えて全ての人に共通して伝わる生命への問いを投げかけている点などを挙げた。

質疑応答では、弊誌ONBEAT編集長・藤田博孝が「今この時代において『火の鳥』展を行うことの意味の内、特にこれが一番伝えたい、問いかけたいというところはどこですか」と質問。これに対して福岡氏は「科学技術至上主義やAI万能論が定着した現代社会において、『火の鳥』はAIなどには決してできない、生命にのみできることを示しています。それを改めて読み解くことで、現代社会で我々が抱えるさまざまな問題に対する解毒剤になったり、指針になればと思っています。」と回答した。手塚るみ子氏は企画協力の立場から、「まずは原画を見てその美しさを知ってほしいなと思います。手塚治虫が描いた原稿の迫力や美しさを感じてほしいです。」と、原画展としての重要性も強調していた。

るみ子氏はまた、常に読者を意識していた手塚が『火の鳥』ではそれを気にせず自身の表現したいものを自由に実験的に描いていた点に着目し、「『火の鳥』を解体することによって、手塚治虫という人間がどんな人物だったのか、どんな作家だったのか、あるいはこの世におけるその存在が何であったのかが見えてくるような展覧会になるのではないかと期待しています」と語った。

メインビジュアルを挟んで、手塚るみ子氏(左)と福岡伸一氏(右)。それぞれファッションに「火の鳥」にちなんで赤を取り入れている。

※手塚治虫の「塚」は旧字体が正式表記です。

開催概要

会期:2025年3月7日(金)~5月25日(日)
会場:東京シティビュー(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)
開館時間・入館料:未定
主催:東京シティビュー
企画・監修:福岡伸一
企画協力:手塚プロダクション・朝日新聞社
後援:J-WAVE
問い合わせ:東京シティビュー 03-6406-6652(受付時間10:00~20:00)
*その他詳細情報は、順次公開予定。

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