くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの
「GO FOR KOGEI 2024」
文=ONBEAT編集部/撮影=藤田紘那
工芸は素材に対する深い理解とそれに伴う技術で表現されているので「何が表現されているのか」といったことよりも「どのようにこの作品が制作されているのか」といった点に注目が集まりがちであるが、実際には多くの工芸家が自身の心象や社会とのかかわりといったモチーフにも重点を置いて制作している。
本展では、現代の表現を提示する6名の作家の作品を展示。刺繍の沖潤子は生命の痕跡を刻み込む作業として布に針目を重ねた作品を、ガラスの佐々木類は土地と自然の記憶を留める作品を、金工の髙橋賢悟は現代における「死生観」と「再生」をテーマにした作品を制作。また金工の人間国宝である中川衛は伝統工芸の世界で各国の風景を抽象模様化した作品を、漆芸の中田真裕は心奪われた一瞬の光景を共有するための作品を、陶芸の松永圭太は自身の原風景と時間を留める地層を重ねモチーフにして作品を制作。
工芸家それぞれの技術だけでなく今を生きる作家としての彼らの心の表現を感じることができる本展をぜひご覧ください。
沖潤子
鎌倉市を拠点に制作している沖は裁縫が得意だった母の遺した道具と布にインスピレーションを受けて、独学で作家活動を始めた。古布や異素材を縫い合わせる刺繍表現は、記憶の重なりや感情の高まりを呼び起こす。
佐々木類
金沢市内で制作をしている佐々木類は採取した植物をガラスに挟み、焼き上げて灰にすることで、その姿を作品の中に封じ込める。四季に息づく植物は土地の記憶でもあり、見るものの郷愁を誘う。
髙橋賢悟
川口市に工房を構える髙橋賢悟。2011年の東日本大震災をきっかけに動物の頭蓋骨に小花を加飾した〈flower funeral〉シリーズの制作をはじめる。精密な造形が可能なアルミの真空加圧鋳造という技術を用いて、「死と再生」をテーマに生命の尊厳を表現する。
中川衛
加賀象嵌に魅了されて彫金の道へ入った中川衛。高橋介州に師事し、2004年に戦後生まれとしては初となる重要無形文化財「彫金」保持者に認定される。中川が注ぐ風景へのまなざしは、象嵌の精緻な彫り込みによって普遍的な情景となり、国境を越えて人々の心を打つ。本展では、「重ね象嵌」に本格的に取り組んだ記念碑的な作品から最新作までを展示する。
中田真裕
金沢市を拠点とする中田真裕。香川県で漆芸の技法である蒟醤に出会い、光沢の中に複雑な模様が浮かび上がる蒟醤の美質を活かした作品は、鑑賞者に抽象的な景色を想起させる。
松永圭太
土岐市にて制作をしている松永圭太。液状になった泥漿と呼ばれる粘土を型に流し込む鋳込み成型を用いる。作品は地層を思わせる粗い風合いを持つが、それは松永の作品が長い年月をかけて堆積した土に根差した芸術であることを示している。
開催概要
会期:2024年9月6日(金)- 12月1日(日)
休館日: 月曜日(ただし9月16日、23日、10月14日、11月4日は開館)、9月17日、24日、10月15日、11月5日
時間:午前9時30分-午後5時30分 ※入館時間は閉館30分前まで
会場:国立工芸館(石川県金沢市出羽町3-2)