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橘 天敬

《静姿静観(風神)至情霹靂(雷神)》―風神 (部分) 1951年 六曲一双 紙本岩彩、金泥、金箔 各178.0×512.0cm フリーア美術館蔵

 

今年で没後35 年を迎える日本画家・橘天敬。死後、大英博物館のジャパンギャラリーで大規模な遺作展が開催され、その際、大作《和楽之図》が同館に収蔵されたことや、俵屋宗達の《松島図屏風》をはじめ琳派や浮世絵の名品が収蔵されていることでも名高い米国のフリーア美術館に、故人の作品のみを収蔵するという慣例を破って、天敬の存命中に《静姿静観( 風神)至情霹靂( 雷神)》を収蔵したという事実を知る者は意外なほど少ない。そこで本特集では、フリーア美術館が収蔵を決定したことを伝える当時の新聞記事や、遺作展を開催した大英博物館関係者のコメント、また天敬作品を世界に紹介するきっかけをつくった故フリーア美術館長をしのび、天敬自身が書いた文章などを作品とともに紹介する。また、「芸術のための科学技術」をテーマに先端イメージング技術に携わり、文化財の高精細デジタル化プロジェクトを率いて大きな功績を残した京都大学名誉教授 井手亜里氏が、最新テクノロジーを用いて橘天敬の作品を記録した経験をもとに画家の魅力を語る。

橘画伯の屏風画《静姿静観(風神)至情霹靂(雷神)》異例の収蔵決定 米国フリーア美術館 1972 年7月13日付 毎日新聞「西高東低 日本の美鑑賞」より

アジア、中東の美術コレクションで有名な米国ワシントン市の国立フリーア美術館に現代日本画家としては初めての屏風画が収蔵されることになった。欧米で活躍している橘天敬氏の作品で、米国テキサス州立パンハンドル・プレーンズ歴史博物館に保管されていた《静姿静観(風神)至情霹靂(雷神)》。アジア、中東地区の美術に詳しいフリーア美術館長ハロルド・P・スターン博士がこの作品にほれ込んで同美術館入りを推薦、実現した。「風神・雷神」は江戸時代の鬼才、俵屋宗達が土佐経隆の《北野天神縁起絵巻》からヒントを得て創作したのをはじめとして尾形光琳、酒井抱一、葛飾北斎らも手がけた作品で、大和絵の流れを汲む絵。構図の取り方や、日本古来の絵具の入手が困難で、作品が大き過ぎるなどの理由から最近この画題で大作に取り組む画家は少ない。橘画伯の作品は縦1.8メートル、横5.1メートルの一対の屏風。群青、藍、雌黄、黄土などすべて日本古来の絵具を使い、大胆なタッチで描かれている。橘画伯は大正時代に日本画壇にデビュー、屏風画やふすま絵など障壁画の大作一筋に描いてきた。気性が激しいせいか、日本画壇になじまず、ほとんど欧米で創作活動をしていた。イタリアやメキシコで画業を認められ、章を贈られている。またアメリカではテキサス州立大学やアラバマ州立トロイ大学の名誉教授となっており、日本美術紹介に努めている。このほどスターン博士から朗報を聞いた橘さんは「私の作品がフリーア入りするとは夢にも思わなかった。絵描き冥利に尽きる。日本の画家や愛好家も新しい画風ばかり追いかけず、日本古来の美術をじっくり見直してほしい。日本の古美術については外国人の方が関心が高く、理解もあるとは変な現象ですよ」と喜びを語っている。フリーア美術館はデトロイト市の富豪、チャールズ・ラング・フリーア氏の寄付をもとに運営されている国立の美術館で、中国、日本、インド、イランなどの国宝級を含む作品約1 万1 千余点が収められており、世界的に有名。日本の古画では雪舟、蕪村、光琳、宗達などの作品が収められているが、現代作家のものは今度が初めて。橘画伯の作品の収蔵を決めたスターン博士は本紙のワシントン特派員に「非常にいい絵だ。よい材料を使ってうまく仕上げている。風神・雷神は宗達や北斎も描いているが、橘氏は全く新しい手法できわめて大胆に描き上げている。風神の“ 静”、雷神の“ 動”のコントラストがあざやかだ。あまりみごとなので故人の作品しか収蔵しないという前例を破って採用した」と賛辞を贈っている。

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《静姿静観(風神)至情霹靂(雷神)》―雷神 (部分) 1951年 六曲一双 紙本岩彩、金泥、金箔 各178.0×512.0cm フリーア美術館蔵