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杉本博司

この秋、日本にも巡回するという「杉本博司:天国の扉」展を、2 0 1 7 年にジャパン・ソサエティー( J S )の創立1 1 0 周年記念展としてNY で開催した杉本博司。写真、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理と多岐にわたる活動を展開する杉本が、最新作を披露した同展の現地レポートを、同じく杉本が手掛け、同年1 0 月に開館した複合文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」と併せて紹介する。

ヴィラ・ファルネーゼの螺旋階段II、カプラローラ

NYジャパン・ソサエティー( JS )創立110 周年記念展覧会 「杉本博司:天国の扉」

在NYインディペンデント・キュレーター 佐藤恭子氏レポート

展覧会の入り口を開けると、目の前にいきなり幻想的な海の光景が広がる。16 世紀後半、キリシタン大名の命令で日本からローマ教皇のもとに派遣された天正遣欧使節の4 人の少年たち。彼らが船旅で見たであろう地中海の光景を連想させる杉本博司の写真作品《地中海、カシス》だ。同作は、杉本が水平線を画面の真ん中に据えて世界各地の海や湖を撮影し、人類普遍の風景を追求した「海景」シリーズの一作である。そして、ふと気づくと右手にはピサの斜塔がぼんやりと浮かぶ。こちらの作品は、焦点をぼかしてディテールを取り除き、建築家が最初に考えた建物のフォルムを残すという「建築」シリーズの《ピサの斜塔》だ。ピサの斜塔を撮影した本作は、静謐かつ神秘的な雰囲気を湛えている。〈杉本博司:天国の扉〉展を訪れた観客はこれら2 作品に迎えられ、ここから少年たちの足跡をたどる旅が始まる。

─ 2 015 年春、「劇場」シリーズの撮影のためにイタリアを訪れた杉本は、ヴィチェンツァのオリンピコ劇場館長から、あるフレスコ画の説明を受ける。そこには15 8 5 年に行われた同劇場のこけら落としの公演を天正遣欧・少年使節の少年4 人が観劇している様子が描かれていた。それをきっかけに遣欧使節の少年たちの旅に心を奪われた杉本が、イタリアでの彼らの足跡をたどると、使節の4 人はリヴォルノに到着後、ピサ、フィレンツェ、シエナ、ローマ、アッシジ、ヴェネチアの順で訪れていた。杉本は少年たちがイタリアで見た様々な建築物を自分がすでに見ていたことに気づく。ローマではパンテオンを、ピサでは斜塔を、シエナではドゥオーモを。そのとき杉本は「僕たちが見たもの
と同じヨーロッパの景色を、あなたの目を通して見せてほしい」という少年たちの声を聞いたという。本展において杉本は「海景」写真で、そしてヨーロッパの建物や彫刻の写真で、遣欧使節の少年たちが目にしたであろう「夢の光景」を再現した。数百年の時を遡らせ、見る者を彼らが生きた時代へとタイムスリップさせることに成功したのである─

前室の小空間を抜けると、そこには大きなノース・ギャラリーが広がり、ルネサンス期イタリアの芸術と建築を月の光を使って撮影した白黒写真に囲まれる。ヨーロッパ最古のオペラハウス《テアトロ・オリンピコ、ヴィチェンツァ》、《サンタ・マリア・ディ・ジリオ教会、ヴェニス》、《大聖堂、フィレンツェ》《大聖堂、シエナ》、《ヴィラ・ファルネーゼのマップ・ルーム、カプラローラ》、4 点の《ヴィラ・ファルネーゼの螺旋階段II 、カプラローラ》、《「ピエタ」ミケランジェロ》、そして満月の光を使って撮影された《パンテオン、ローマ》など、暗く静かに佇むそれらの作品群は、従来の「建築」シリーズ作品とは違い、輪郭が表されている。杉本はこの効果について、「天正遣欧使節の少年たちが目にした“ 夢” のような光景を再現したかった」という。

本展における杉本の試みで明らかになったのは、不朽の名品や建築物は、再解釈されることによって、時代を超え、新たな現代の作品として生まれ変わることができるということだ。その点で、本展のオープニング2日前にボストン美術館でオープニングを迎えたTakashi Murakami:Lineage of Eccentrics(村上隆:エキセントリックの系譜)は同じ着眼点を持つ。村上隆、美術史家の辻惟雄、そしてボストン美術館の三者が共同企画し、辻が美術館の所蔵品から選んだ過去の日本美術の名品と、その作品をもとに村上が制作した作品を展示するという内容だ。同じ着眼点を持った美術展が同時期にアメリカで開催されるという偶然。杉本博司と村上隆という日本の現代アートを代表する
巨匠がアメリカ東海岸で同時期に紹介され、世界のアートシーンで日本の存在を示すことができたことは大変意義深い。今後も日本の美術が自由な発想や斬新な切り口で紹介され、時代や国境を越えて、新たな美術の動きをつくりだしていくことを願ってやまない。

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海景