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土屋禮一

「日展」副理事長であり、現代日本画壇を代表する日本画家、土屋禮一氏。7 時間に及ぶロングインタビューの中から土屋氏 が語る制作に纏わるエピソードを抜粋、珠玉の作品群を作家本人の解説文と共に紹介する。

土屋禮一作品
椿樹 2005 198.0×189.0cm 麻紙・岩絵具・墨

僕は子どもの頃、親父が描いている絵を横で見ながら育ちました。だから墨磨りをよくやらされた。昔から「墨は病人の子どもに磨らせろ」というくらい力を入れないで手間と時間かけて磨らされました。墨が元の煤の一粒一粒に戻り白きに向かって果てしなく変化していきます。西洋のブラックの黒々とした強さより、むしろ幽(かすかなる)もののほうに限りなくその本領を発揮し、弱さの表現には、底なしに強いのです。また、日本は墨を生んだ中国よりも水が軟水で柔らかい、食べ物の方は京都の軟らかい水のおかげでお豆腐が美味い、薄口のだしがよい。東北の硬水は辛口が合う。舌の方は皆敏感ですよね。墨色も日本の軟らかい水との相性が上手く合った。それを利用した「たらしこみ」の技法は、俵屋宗達が発明したと言われています。水の硬さで墨のにじみの幅や様子も違います。有名なたとえ話ですが、徳川家康が良い墨を手に入れた時、本阿弥光悦に試墨させるのですが、光悦は「墨はいいけどお江戸の水が良くない」とけちをつけた。少しは知識のあった家康は内緒で京都から水を手に入れ、再び光悦を試すのですが、「お、水が変わった」と、言い当て、さすが餅屋は餅屋と家康を感心させた話が残っています。私も墨との付き合いのお陰で、水を知り、和紙を知り、そして日本画の画材の魅力に改めて出会えたと思っています。まるで深い淵の底をのぞくように墨に潜んでいるただならぬ妖気、特に水気を含み潤ってその濃淡が淡きに向かってどこまでも広がり冴える様には思わず、ゾクッとさせられるのです。僕の《阿吽》の絵は、まず大量に墨を磨って、白いパネルに墨をたっぷり流して遊ばせておいたのです。二日三日乾かないくらい水をふんだんに与えると、水の上を煤が旅をするんです。時間をかけて乾くほど墨が微妙な変化を作ってくれる。そんな画面を見ていたら、森や林に見えてきたので、風景にしようと思って月を加えました。しかし、設定を水の中にした方が想像力が広がると思い、自分が飼っていたアロワナを画面に入れてみました。魚以外の画面は墨がそのまま遊んだ画面です。こんな滲みをもう一度作ろうと思っても作れない。比較になりませんが大げさに言えば宗達の、《蔦の細道図屏風》という作品は、金箔を貼った画面に緑青の丘と蔦がちょっとあるだけですが、日本美術史の最大傑作だと思います。日本画の絵具は色である前に性格の方を沢山持っています。まるで人との付き合いのように、絵具の魅力をよくつかむことです。絵具に助けられ「受援力」という力が日本画家を決定しているように思います。

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土屋禮一作品2
道 1979 167.0×219.0cm 麻紙・岩絵具・墨